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多趣味な君と無趣味な私のとある会話
「あの…ご趣味は…?」
映画やドラマ、漫画なんかでお見合いの場面をみかけると、決まって聞いている印象がある。果たして、これまでの人生で何回「ご趣味は…?」と聞かれたことがあるだろうか。恐らく片手で数えるくらいしかないし、私には趣味といえるほどの趣味はない気がしている。
果たして、どのくらいのめり込んでいたら趣味と呼べるのか。
映画を半年に1本しか観なかったら、映画鑑賞は趣味ではないだろうか。芥川賞や直木賞、本屋大賞など、何かを受賞した本を読むわけでもない、たまにパラパラと本をめくる私の読書は趣味といえるのか。落書きはたまにするけど、しっかりと絵を描くほどでもない。ゲームも好きだけど、プレイする時間はとても少ない。頻繁に旅行に行くわけでも、写真を撮るわけでもない。
強いて言えば、悩むことが趣味なのかもしれない。一人で、「あーでもない、こーでもない」なんて言いながら思い悩んでいる。
一方で、夫氏は驚くほどたくさんの趣味を持っている。
映画について聞けば、俳優の話から撮影技法の話まで。自分たちが生まれる前の作品の話には、特に饒舌になる。
音楽について話を振れば、楽器の話から音響の話まで、話し出したら止まらない。
カメラを持って外出すれば、デジタル一眼やフィルムカメラを駆使して、構図の話やカメラの構造の話まで、すらすらと答えてくれる。
他にも葉巻や株、車やバイクなど、数えだしたら切りがない。
そんな夫が先日オンラインで買い物をしたらしい。仕事から帰ってきた彼の手元には幅30センチほど箱があった。どうやら置配で玄関前に届けられていたらしい。気が付かなかった。
荷物が届いていたことを知らなかったと告げると、彼は悪戯っぽい楽しそうな顔をして言った。
「何が入っていると思う?」
その言葉と届いた荷物を残して、夫は仕事鞄を置きに隣の部屋へ向かった。夫が居ない隙に届いた荷物を持ってみると、驚くほど軽かった。
『軽すぎないか?こんなに大きな箱にいれる必要ある…?』
箱の表面はA3の紙より少し大きいくらいの広さで、高さは20cmほどあったと思う。お夕飯を作りながら、箱の中身は何だろうとあれこれ考える。そのうちに、夫氏が居間へ戻ってきた。
全く予想がつかないことを伝えると、彼は得意げにこういった。
「ヒントはね、もうすぐゴールデンウィークってこと!」
長期休暇は基本的に私の実家に行くことが多い。ありがたいことに、彼は私の実家で両親の車を綺麗にしたり、映画を観たり、温泉地へ行ったり、やることがたくさんあるらしい。(車を綺麗にするのは彼の趣味の一つです)
「という事は、連休中に楽しめるものだから…わかった!カメラのフィルムだ!」
丁度少し前にフィルムカメラの練習をしたいので、教えてほしいと夫氏にお願いしたところだった。
「あー!それだったら君は嬉しかったよね。だけどこれは違うんです…!」
違っていたらしい。
そうすると、夫氏の趣味を片っ端から言っていくしかない。
「わかった!車だ!車のワックスとかだ!」
「あー、違います」
「あ!カメラのフィルターじゃない?新しいやつ」
「それも違いますねー」
「じゃあDVDとか?ブルーレイか!」
「あー、それもいいけど違います」
「じゃあじゃあ、ギターの弦だ!この間の張り替えた弦がいまいちって言ってたし」
「あー!そしたらこんな大きな箱じゃなくてもいいよね?」
「確かに…。そしたら、本かな?それにしては軽かったしな…。わかった!葉巻じゃない?あ!パイプの葉っぱだ!いや、某熱帯雨林サイトじゃ買えないか…」
箱を開けながら彼は楽しそうに「正解は.…!」と口にすると、こちらに勢いよく中身を見せてきた。
「じゃーん!プラモデルでした!」
彼の両手にはハセガワのプラモデル、F-14Aトムキャットの1/72の箱があった。
「うわー!プラモデルか、そうだった!この間の冬から実家でもプラモデル始めてた...!」
年末年始の帰省で、夫氏は戦車のプラモデルを私の実家に持って行っていた。父親もプラモデルが好きで、塗装ブースまで作っているのを知り、うきうきで持参して、休みの間楽しそうに組み立てていた。
「色あるかなー?けどお義父さんが何色持ってるか確認してからじゃないと買えないしなー」
少年のように楽しそうな顔で箱を開けそう口にしていた夫氏に、私は気になっていたことを聞いた。
「年末のプラモデルは完成したの?」
目が合った夫氏はほんの数秒だけ考えると、少しとぼけた表情で言った。
「……あれ、完成してなかったっけ?」
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