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#00_目は口ほどにものをいう

キンと冷えた空気が肺に入って、身体が内側から痛むのを感じた。この一年何度も駆け上がってきた坂道だが、出かけに選んだ猫足のヒールが、一段と彼女を苦しませる。彼女の脚も肺も悲鳴をあげていた。目の前の信号が、あと少しのところで青から赤に変わった。肩が大きく上下に動いて、数十メートル先にある駅を睨みつける。華奢な手首に余裕を持って巻かれた腕時計は、八時丁度をあと数十秒で指す。三月一日、本日は快晴である。

息も切れ切れでたどり着いた駅のホームで、彼女は大きく息をはいた。深緑のコートとワインレッドのマフラーの下で肌にじんわりと汗が浮いたのを感じながら、彼女の身体には大きすぎるトートバックの取手を握り直した。

「今日は乗ってくるかな... 」

自分に言い聞かせるように呟いたその言葉は、ホームに入ってきた電車の轟音にかき消された。

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