晴れ、時々地球外生命体
街のコーヒースタンド、おしゃれな大型車が前に止まっている。ガラス張りの向こうにはInstagramのおすすめで出てきそうなモデル張りの人たちがテーブル囲んでおしゃべりやカウンターでの一人時間に夢中。
店内はいつものごとく賑わっている。今日は雨もちらほら降ったはずなのに、それでもここの空気とコーヒー求めて人がやってくる。
私もその一人で、叔母にもらったおさがりのワンピースと習い事の途中で両手に抱えた大荷物をもって、気が付くとその店に向かっていた。
いつもその店に向かうとき、ほんの少しの緊張が私の頭をかすめる。おいしいコーヒーを飲みたい、あの不思議で迷いのない空間に行きたい。あの空気を吸いたい。
でも私はあのお店の人のように自分に自信を持てない、あのお店に集まる人のように自分に誇りなんてない。それでも私はあのコーヒーが飲みたい。あの空気がほしい。
気が付くと私はあのガラス張りの前に立っていた。さっきおばさま方に褒められたワンピース、実は叔母がセールで買ったもの。両手に抱えた荷物は身軽なあのひとたちとは程遠い重さ。
それでもあのコーヒーが私には必要だ。
半ば緊張、半ば吸い寄せられるようにお店のドアを開ける。
お店の人は感じよく挨拶してくれる。
今日は図書館に行きたいし、お店も混んでいるのでテイクアウトにしよう。5種類ぐらいの中から豆を選んでアイスコーヒーにしてもらう。
待っている間、狭い店内。私はいったいどこにいればいいのか、そんなことを考えながらぼーっと突っ立っていると、いつものイケてる若マスターが「待っている間座ってていいですよ」と声をかけてくれる。
私は若干きょどきょどしながら、テーブルに座らせてもらった。モデルみたいな黒髪のお姉さんがテーブルにお水を持ってきてくれた。店内で飲むと思われたみたいだ。やっぱり座らないほうがよかったのか?いやでもお店の人が進めてくれたんだし。
やっぱりきょどきょどしながら用もないのにスマホをいじったり、お店の中を何周か見まわした。カウンターの一人で来ていそうな女の人がとなりのまあまあ雰囲気のある男の人に話しかけている。名前の漢字なんか聞いている。逆ナンパ?なんて野暮ったいことを考えている自分が一番滑稽。隣に来たカップルに私の大荷物が邪魔にならないようにずいぶん膨らんだカバンをなるべく自分に引き寄せた。天井には宇宙人の風船がぶら下がっている。そのうちの宇宙服の人間の風船と目が合う。
気が付くと注文を取ってくれた金髪の店員さんがコーヒーを渡してくれている。ごゆっくりどうぞ。テイクアウトの客にも伝えてくれるやさしさが少しずつ何かをほどいていく。
「ありがとうございます」
私はそう早口で伝えてお店を後にした。
外はほんのすこし小雨が降っていて、私は傘を差さずに歩き出した。
すかさずコーヒーを吸引する。
「おいしっ」「うま」「おいし」
苦い、うまい。苦い、でもうまい。
いつからこんな苦い飲み物が好きになってしまったんだろう。
そしていつになったら、肩ひじ張らないでああいった身のこなしうまくなるんだろう。
いや、たぶん一生無理だわ、ああやっぱおいしいわ。
足早に図書館に向かった。
建物のガラスに映った自分はいつもよりほんのすこしきれいになってみえた。
湖