400gで生まれた娘 6
それからほどなくして、大学病院への初めての診察の日になった。
1人でなんて行けなくて、夫に無理言ってついてきてもらった。
もしかしたら即入院と言われるかもしれないと、色々と覚悟はしてきた。
幸せそうな妊婦と女性スタッフしか居ないレディースクリニックとは違い、院内の重苦しく物々しい雰囲気が、より一層不安を掻き立てる。
紹介状を持っているとはいえ初診だったからか、結構待たされた。
いよいよ呼ばれて診察室へ。
若い男の先生だった。
『赤ちゃんが小さいとのことで……とりあえずエコーで見てみましょう』
映し出されたエコーは、レディースクリニックのものより性能が良さそうだった。
画質がはっきりしていた。
『………うん、小さいね…』
先生はそう言い、じっくり時間をかけて見ていた。
私は『そんなことないよ』と言ってもらえるかもしれないなんて少し期待していたから、先生の言葉に人知れず打ちひしがられた。
『いま23週………でも赤ちゃんは300あるかないか…290gくらいです。全体的に小さくて20〜21週くらいの大きさしかありません。
僕はシビアに測るので、ほとんど誤差はないと思います……、うん、小さいなぁ』
小さい小さいと言われ続けて、だんだん感覚が麻痺してきた。
『ちょっと色々見てみますよ』
胎児の胴体を拡大させて心臓を見たり、脳を見たり。
無言の時間が怖過ぎる。
『心臓ね、問題なさそうです。部屋もちゃんと4つに分かれてるし、動きも良さそうです。
脳も、水が溜まり過ぎてるとか小さ過ぎるとか大き過ぎるとか無さそうですよ』
こないだセカンドオピニオンした病院の先生も異常無さそうと言っていたから、本当にエコーでは異常が見えないのかな…。
じゃあなんでこんなに成長しないのかな。
『子宮と臍の緒の血流を見てみましょう』
血流は今まで見たことなかったな。
エコーで分かるのかな?
パッとエコー画面に赤と青の色が出てきた。
『この赤と青の色が血液の流れです。
子宮に流れて入っていく血流も悪く無さそうです。
臍の緒の血流も、問題無さそうですね』
血流も異常無し。
『今見たところ、目立った異常はありませんでした。
小さいは小さいんですけど、赤ちゃんは元気に見えますし、実は平均より小さい赤ちゃんって意外と居るんです。
そして赤ちゃんが小さいからと言って、できる治療がほとんどありません。例えばお母さんの血圧が高かったりで妊娠中毒症が原因で赤ちゃんが小さい場合は、入院するなりして母体の治療をすることができますが、ikukoさんは中毒症でもなく、母体も健康ですので、今すぐ何かできる治療があるかと言われたら、正直ないんです。』
え…
それって…
『治療は何もないんだったら、これからどうすれば良いんですか…』
『赤ちゃんが成長していくか、慎重に経過を見守っていくしかないです。』
『入院して赤ちゃんに栄養がいくように点滴したりしないんですか?』
『絶対安静でブドウ糖などの栄養を点滴するところもありますけど…ほとんど効果は無いんですよ、気休めです。』
『それじゃあ、赤ちゃんのために私は何をしたらいいですか』
『いつもと変わらず普段通りの生活を送ってください。仕事もいつも通りでOKです。ただ、赤ちゃんの胎動があるか毎日意識して確認してください。
小さい赤ちゃんは容体が急変しやすいです。なので、お母さんの感覚が一番重要になってきます。胎動カウントはご存知ですか?』
『知ってます。胎動を感じるようになってからは毎日やってます。』
『それで大丈夫です。毎日確認してください。そして、少しでも違和感を感じたらすぐに受診して欲しいです』
『…それならなおさら入院して慎重に見た方が良くないですか?』
『入院して見たとしても、胎児の急変に必ずすぐ対応できるかと言うとそうではないんです。それに、いまはコロナの影響で入院の条件が厳しくなっています。それでも入院を希望する場合、退院まで何ヶ月も、もしかしたら生むまで、誰とも面会できない状態になってしまいますが、それでも大丈夫ですか…?』
『4歳の息子に何ヶ月も会えないのはちょっと厳しいです…』
『そうですよね。ここは入院ではなく、数日もしくは1週間おきに来ていただいて診察した方が良いかもしれません。また来週来れますか?』
『そうですね、わかりました…。』
『あ、それと…、こないだセカンドオピニオンで別の医師に見てもらって、サイトメガロウイルスの検査を受けた方が良いと言われました。』
『サイトメガロウイルス、なるほど。
でしたら、サイトメガロウイルスとトキソプラズマの抗体の検査をおこないましょう。胎児が小さい原因がわかるかもしれません。』
『お願いします。』
『では採血をして、また来週来てください。』
何か異常が見つかるかと思ったけど、結局何もわからなかった。
こうして大学病院の初診は終わった。