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あと、もうひとくちだけ

麻のワンピースが濃く滲む

膝の裏に、冷たさを通り越して熱がたまる
逃げ場をなくして太ももに下がっていく

心におさめていられないの
遠くに見た花火の、届くはずない火薬の匂いも
赤いコーンで規制された、
改札までの簡易な砂混じりのうねり道も
君のぶんをと手をつっこんだ、
冷えすぎたクーラーボックスも


あの日ラムネは飲まなかった
オレンジに泳ぐ金魚すくいも
わたしの構える銃を包むように
後ろから支える君の熱もなにもなかったのにさ

夜が来るごとに純度を増して
朝を迎えるごとに泡がはじけて

食べたいもの食べようよ今日はって
君が笑うのが嬉しかった

君の足取りが弾むのが好きだった
君が大好きに囲まれて早足に手を引くのが好きだった

ただただひとつも
疑うことなく

君がわたしに向けて
わたしが君に向ける
一方向の短い線を掴んでいるあの時間が

とてつもなく寂しくてとてつもなく愛おしかった


君自身よりも誰かを思うことが
君の苦手なことで

僕自身を何より一番に思うことが
僕の苦手なことだった


もっとわたしを思いなさいよ
最後まで自分本位で
そうじゃない一瞬が、僕を離してくれなかった
僕も、君を、離せなかったよね


青いね、音がするね

近づくと弾けた泡が、冷たいね


それ以上にもそれ以下にもならない今と

今以上にも今以下にも決してならない
あの日にはじけた、サイダーを


いつか、微笑ましく飲み込もうね
あともうひとくち。




ひろ

はじめまして、ひろです。 毎日ただ思うことを書いているだけの場所ですが覗いてくれてありがとうございます。明日もたくさん笑いましょうね。