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猫と秘密基地


7月7日、七夕、晴れ。


カフェの話。

カフェが好きだ。
カフェが嫌いな女なんて、昨今の世の中では草の根分けないと見つからないかもしれない。

自他共に認める、
わたしはカフェが好きな女だ。

誰かの好きが、
溢れ出して空間になってしまった
秘密基地のような場所が好きなのだ。

気付いたら形になってしまっていた
そうならざるを得なかった
そんな空間にそっとお邪魔させてもらったとき
心の底から嬉しさと敬意の念が湧き上がる。

噛み締めた表情でコーヒーを啜り
応援しています、の気持ちでお金を支払う。

好き勝手生きている人を見るのが好きなのかもしれない。
自分の好きなものを知っていて、
それを全力で形に出来る、
その素直さと行動力に焦がれているのかもしれない。


初めて心が震えたのは、中学生の頃だった。

通学の乗り換えで使う大きな駅は、
わたしの人生でスタバデビューとなった地だ。

すこんとした大通り沿いには可愛らしい小さなお店が並んでいて、高いビルも多く、
休日の遊び場となるのは大抵その街だった。

大通りを奥まで進み、右に曲がった小径に
小さな看板の小さなカフェが佇んでいた。

初めて入ったのはいつだったろう、
大好きな友だちに連れられて訪れたことも
その場所が特別になったことの要因のひとつであることは否めない。

それにしても、今までの自分が知っているカフェとは、明白なまでに違っていた。


そこは、人見知りそうなおとなしい女性が
ひとりで営んでいた。

白と、くすみがかったパステルの黄緑
5人も入ればいっぱいになってしまうような
小さな空間
ムーミンの絵本や小物が照れ臭そうに置かれており
小さな花がテーブル毎に活けられていた。

猫が2匹小さな店内をのんびりと歩いていて
天井近くの壁、猫用の散歩道でまどろんでいたり
気分がいいと足元に擦り寄ってきてくれたりする。

一度は、膝の上で丸くなる猫のために
腹筋に力を入れながらナポリタンを食べた。

長い黒髪をうしろでひとつに束ねたその女のひとは
丁寧な手つきで、
レアチーズケーキやパスタ、コーヒーをわたしたちのテーブルに運んでくれた。

そこは彼女の秘密基地だった。


何度も通った。
部活のない放課後や、
休日の待ち合わせ
スナフキンを好きになったのもそこで出会った本のおかげだ。独り占めしたいような
本当に大切なひとだけ連れていきたくなるような
15やそこらのわたしにとっても
その場所は大切な秘密基地になっていた。


大学で京都に進学し、
Twitterでそのお店が閉店することを知った。

最後に赴くことは出来なかった。

小さなお店だったもんな、と思う。
それでもきっと、あのひとなら、
また新しい秘密基地を作るんだろうなと思う。


2匹の猫と黒髪の女性の
あたたかく包まれた暮らしを祈る。

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