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奇ッ怪 小泉八雲から聞いた話
イキウメ「奇ッ怪 小泉八雲から聞いた話」観劇。
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小説家の黒澤は、人里離れた古い旅館に逗留し、執筆をしている。そこに二人連れの旅行者、田神と宮地がやってくる。世間話に旅館の縁起を話していると、それぞれの持つ怪談話を披露する流れになる。腰を据えて語るうちに、目的が明らかになってくる。二人は警察官で、ある事件を追ってやってきた。
5つの怪談を元にした劇中劇を重ねて進む美しく儚い物語。
輪廻転生の先でも、また貴方に会いたい。
人の「念い」と向き合う時間だった。
二人で誓った永遠の愛のため、怨み化けたり生死を繰り返したりしながら、何度も出会おうとする。奇々怪々であるが、あまりにも切ないロマンスだった。
舞台美術、照明、構成、表現どれもが巧妙で、怪談(過去)と現在を行き来する時空間と人物たちに惹かれる。
あまりにも継ぎ目がなく、気づいたらタイムリープしているような感覚。ここはどこ?と、まるで妖の手にかけられたようだった。
クスッと笑えるのに、一気に引きつけられる。
演者の表現、音、光により、客席の想像を掻き立て、見えないものを見せるのが巧妙。
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入場時、ドア越しに見えた瞬間から「わぁ、!」と声が出そうだった。
侘び寂びの風情ある舞台美術。上手に紅梅、下手に積み石、真ん中に天井から落ちる水…?砂…?なに?劇中でどのように使われるのかドキドキしながら着席。(下に書く)
五つの怪談。(説明下手です、できてない)
①キツネが化けて像となって現れる。
照明が本当に良い…!客席の後ろから舞台を照らすオレンジ色の光で迫り来る像の大きさを感じる。安井さんの銃を持つ表情にもハラハラした。ひとつめにして心臓痛い。(ビックリしすぎて)
②永遠を約束した夫婦。
死んだ前妻が、再婚した後妻の元に化けて出る。夜になると前妻の鈴の音が聴こえ、後妻に別れるように言う。他言したら八つ裂きにすると言われるが、夫と来客に話してしまう。その夜、後妻が一人にならないように皆が同じ部屋で過ごしたが、前妻が霊となって出てくると全員意識を失う。(倒れていくの怖すぎた)
前妻に押し倒され、首を引き裂かれる。照明の効果でシルエットだけが映されていてグロ怖かった。
怪談から現在(現実)に戻ると前妻役をしていた松岡さんがスッと女将になって「え、怖い〜」みたいな顔してるの面白すぎた。仲居の生越さん「女将、髪乱れてますよ」で、笑いと共に緊張感が解け、現在に帰ってきたとわかるのも良い。
普通、この約束を破った夫を恨むんじゃない?と、男性陣は言うけど、「女は違うのよ」と。私は、男性たちと同じように思うけど、女に怒りや憎しみを抱く人多いよな〜と過去を思い出した。女の嫉妬は、醜いし、理不尽。
③お茶の中に知らない男の顔。
テンポの良さと人物たちの人柄と話し方でクスッと笑えるが奇妙な話。お茶の中に知らない男がいて、それ飲むの気持ち悪いなーと思いながら観てた。このお茶の中の男は、黒澤で積み石の中に眠る自分たちを見つけて欲しくて現れたのだと思う。
④黒澤と大学時代の彼女の話。
彼女の描く絵は、見ていない過去や未来を写す。彼女は、死んでもまた黒澤に会いにいく。バンドTシャツを着ていくから気づいてほしいと言う。その後、本当に彼女は亡くなり、そのTシャツを着た女性と出会う。(その女性の遺体が行方不明に)
⑤身分に違いのある男女が恋に落ちる。
結ばれることがないまま娘は、亡くなる。亡霊となり、毎晩男に会いにいく。男の周囲の人々が取り憑かれていると心配し、7日間かけて除霊をする。
名前を呼ばれても、話しかけられても返事をしてはいけないから、返事のない相手に何度も名前を呼ぶ娘の姿が切なかった。
7日目、最後の日。耐えきれず、娘に返事をしてしまう。ダメだと言われるが「お別れくらいさせてくれ。」に涙が出た。望んで一緒になれなかったわけでもない、亡くなったわけでもない、亡霊となってでも会いにきた彼女を一方的に突き放せない。そんなやさしい人だから彼女も現れたんだろうな。
彼女と共に逝くことを決める。「地獄に落ちるぞ。」と言われるが、「それが不幸とは限らないだろ。」永遠を誓う二人。彼女と一緒なら地獄でも不幸とは限らないよね。むしろ、彼女のいない世界で生きる方が不幸かな。思いがけず、少し前の自分と重なって涙が出た。(まさか怪談で泣くとは)
5つめの物語の終わりに暗転。(この暗転の長さとタイミングと音楽もよかった)
田神と宮地が目を覚ますと壊れた旅館の中に。今まで見ていたものは、夢だったのか。
黒澤の遺書が見つかる。
黒澤は、永遠の誓いを守るため、彼女の遺体と共に積み石の中に眠る。
田神と宮地が積み石の下を見ると。二体の遺体が。報告のために旅館を去る。
黒澤が二人を見つめる。
視線に気づく二人。しかし、二人が見るのは、遺体の眠る積み石。
遺体を見つけてもらったから、もう二人には黒澤は見えなくなってしまったんだな、と。
ラスト、黒澤が天を見つめる。上から砂が落ちてくる。
イキウメの始まりと終わり、毎回すごく好き。上に書いたけど、劇場に入った瞬間目に入った上から落ちる砂。(水?砂?何?って思ってた)
その砂は、積み石の中に眠る黒澤が見ていた砂。つまり舞台は、積み石の中だったんだなって。
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とにかく照明が素晴らしい。イキウメを観るといつもそう思うけど、今回も良かった。
開演直後、暗転し、柱に光が。今まで目の前にあったのに気づかなかった(私だけ……?)物語の世界へと誘う魔法のようだった。
ひとつめの怪談の「像」が現れる時、客席側からオレンジ色の光を当てることで、迫り来る恐怖と客の影がよりそれを大きなものに見せる。
引き裂かれた頭を持ち上げた時の悍ましさ。
部屋を除く時、縦に差し込む光が襖を開けているように見せるのも。
開演早々、演者たちの登場に息を呑む。ハコビのような歩き方で、ひとつひとつの所作も美しかった。
真ん中に庭園、それを囲む板張りの舞台と柱。能能をイメージしているようだった。
怪談だから音も怖かった。イキウメってSFっぽいというか、神妙としたイメージがあるんだけど、今作は観客を直接刺激するようなアプローチも多くて、けどそれに強引さがないのがまた美しかったな。
観劇後の余韻。
怪談と現代を行き来するのにあまりにも自然で演者の力と巧みな演出脚本に感嘆する。笑いも恐怖も品があって、舞台美術なにもかもが美しい。美術館に行った後の心の満たされ方と近い気がする。