出会い、別れ
会う度に頭を撫でてくれた。
可愛い、好き、目を見て言葉で伝えてくれた。たくさん伝えてくれることに恥ずかしさを感じつつもただただ嬉しかったのを覚えている。彼は私を大切にしてくれていた。大切にしてくれているんだと伝わってきた。大切にしたい、支えたい、一緒にいたい、そう思えた相手だった。
毎日LINEをして、その日にあったことをお互いに話す。もちろん悩みも話す。こういう良い所があるからきっと大丈夫だよと私の良い所を伝えてくれたり、面白い話をして元気づけてくれたり、頑張れとかいう一言だけじゃなくて、寄り添うような言葉も一緒にかけてくれる素敵な人だった。大袈裟かもしれないが、彼の言うことに何度も救われた。
次はここ行こう、と当たり前のように先の約束をしてくれるところも大好きだった。
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社会人になった彼とは連絡頻度も会う頻度も減った。当たり前だ、そんなの覚悟していた。
覚悟できていたはずだった。
その変化になかなかついていけなかった私は仕事で疲れている彼に対して無意識に冷たく接してしまっていた。子供みたいな態度をしないで、とその頃の私に言ってやりたい。
彼はちゃんと向き合って話してくれて、私と会おうとしてくれた。優しさに甘えてしまっていた。その時からなのか、違うきっかけがあったのかは彼にしかわからない。けどきっと、私は少しずつプレッシャーのようなものを感じさせてしまっていたのだと思う。
彼の気持ちに変化があったことはなんとなく気づいていた。それなのに私は、気付かないふりをし続けた。
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久しぶりに会う約束をした日の空はとても綺麗だった。
別れ話をするには真逆すぎるほどの綺麗さ。
先に待ち合わせ場所に着いていた私の車から、少し離れたところに彼は自分の車を停めた。
彼の元へ向かい、話し始めてから気づいた。私の目をなかなか見てくれない。
見てくれないまま、彼は言った。
「幸せにできるのは俺じゃないと思う。」
それを聞いて涙をこらえるのに必死だった私は、
「そんなことないあなたと付き合えて幸せだった」
その一言が言えなかった。
私の頭に手を置きながら、私の目をまっすぐ見て
「別れよう。」
と言う彼の声は、気のせいかもしれないが少し震えていた。
頷くしかなかった。
相変わらず優しい声で、暖かい手。
これからこの優しさや暖かさは違う誰かに向けられることになるのだろうか、そう考えたら涙が止まらなかった。
「大好きでした。」
私が彼の目を見て最後に伝えたこと。
いつもの私たちなら「空綺麗だね」と話していたのに、その日だけはお互いふれなかった。別れ話以外のことは話そうとしなかった。
濃くてあっという間な日々の終わりを告げた瞬間だった。
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あれからどれくらい経っただろう。
悩むことが減っただけで気楽に過ごせる。友達といると楽しいし、忙しいけど充実している。
だけどふいに思い出してしまう。
いい歌詞だからと教えてくれた曲、いい匂いだと言ってくれた香水、一緒に出かけた場所。
これから先、忘れることはないのだと思う。
彼は私にたくさんのことを教えてくれた。幸せをくれた。
彼と出会えて、付き合えて良かったと思う。
たった数ヶ月だとしても、彼にとって私はいい存在だったのだろうか。
彼が辛い時、私は支えることができていたのだろうか。
その答えは彼にしかわからないし、その答えを聞くことはないのかもしれない。
全てはタイミング次第。
私はもう一度話せる日がくることを信じて、
あなたを好きなままで、
前向きに生きていこうと決めた。
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