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短編小説

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2021年4月の記事一覧

桜、落ちるとき

桜、落ちるとき

 私のことを『のの』と修一は呼ぶ。それは結婚してからも変わらなかった。
 ——おいで、のの。
 ——こっちだよ、のの。
 ——ののは何時までも変わらないね。
 私の旧姓が野々村だった頃から、修一の私の呼称は『のの』だった。野々村野乃というふざけた名前だったから『のの』と呼ばれることは自然だった。
 「のの、車に気を付けて。」
 私がぼんやりしていると、修一は背後を確認するように促した。車は私の右横

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