ブラザー
人生のなかで身銭をきって音楽を身近においた経験がないというのを、以前どこかに書いたとおもう。両親の喫茶店では常にジャズが流れ、部屋では空間をシェアして(させられて)いた姉が好むDREAMS COME TRUEの曲が鳴り、ドアを閉めた兄の部屋からは、あらゆるジャンルのロック・ミュージックの音がもれていた。
最近はあまり進んで聴くことがなくなったけれど、若い頃はとくに兄からの影響をいくつか受けていて、そのうちのひとつ、ロカビリーのことでも書こうとおもった。
いちばん最近(といっても5年は経つけど)兄からそっと差し出されたのが、青野美沙稀ちゃんというアーティストの『1959 ~Magical Rockabilly Night~』というCDアルバムだった。可愛らしい声のこの子は、BLACK CATSやMAGICといったロカビリーバンドでドラムをやっていた、久米浩司という人の娘なのらしい。このアルバムは気に入って、しばらく運転中なんかに流していた。その後ときどき活動を注目していたけれど、そう新譜を出しているふうでもない。
The Brian Setzer(Orchestra)、Stray Cats、BLACK CATS、MAGIC、wface、兄が持っていた音源はこのあたりだろうか。今もライブラリにはいちおう残してある。それからもうひとつ、JAZZBILLYというバンドがあった。2004年に『カサブランカ・ダンディ』というタイトルのミニ・アルバムを出していて、その音源をやはり兄に貰った。
MAGICの上澤津孝氏と山口憲一氏が率いる17人編成のビッグ・バンド、このミニ・アルバムに収められたのは以下の6曲。
オリジナルは1曲のみである。このミニ・アルバムも気に入ったんだけれど、やはりあとが続かなかった(検索をかけたら活動は続いているようだけど)。ロカビリーってなかなかむずかしいのかね。せつない。
オーストラリアのメルボルン出身のThe Living Endというバンドのアルバムも、まだライブラリに残っている。テンポの速い曲が多くて、昔はよく聴いた。活動は続いているようだけれど、2008年以降のニュー・アルバムは(日本語Wikipediaには)見当たらない。ライブラリには4thまで入っている。
兄と関係のないところで、だけどきっかけを全然思い出せないお気に入りのバンドは、The Baseballsというドイツのグループである。主にアメリカのヒット・ポップ・ソングをロカビリーにアレンジしていて、なかなかいい。このグループのクリスマス・アルバムがあって、私はクリスマスという雰囲気がとても好きなため(理由はいくつかある)、そしてクリスマスにクリスマス・アルバムを聴くということをわりと愛好しているので、毎年のたのしみとなっている。The Brian Setzer Orchestraにもクリスマス・アルバムがあったね。
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兄の影響で知ったバンドは数知れない。そういえば以前はどこかのバンドでギターを弾いていたようだし、ときどきDJなんかもやっているみたいだ。彼の揺るがない好みはSuicidal TendenciesやPULLING TEETHなどその辺り(たぶん)。たまに聴くと、意識がぷっつんとどこかへ飛んでいく。
父と兄はずっとずっと、ずうっと仲が悪く、思春期なんかそれはもうひどかった。ふたりとも音楽を愛好していたのに、お互いの好むものを相いれることはできなかった。特に父は兄の好むものを悉く憎んでいた。
ごく最近になって、兄も父を訪ねたりするようになったみたいで、先日は父のところからジャズのCDをいくつか持っていったなどと聞いた。歳をとるとはこういうことであろうか。