Kさん 〜詰所に体当たり〜
長年高齢者を相手に仕事をしていると、
たくさんの出会いと別れがあります。
15年間で体験した たくさんの出会いと別れ。
その中でも印象に残っている利用者さんとの思い出を
記していこうと思います。
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Kさんという ちいさなおばあさんがいました。
くるんとした癖っ毛で、年齢の割に綺麗な肌。
ピンク色の服を好んで着る方でした。
集団が苦手でひっそりと部屋で過ごします。
入れ歯を嫌い、使う事を拒否されていたので
喋りにくかったせいもあるかもしれません。
食事、トイレ、お風呂、リハビリ の時くらいかな
少し足を引き摺りながら歩行器で出てきてたのは。
あとは、とてつもない不安や焦燥感に襲われた時。
「いつになったら帰れるの!?」
「私をどうするつもりなの?!」
「舌が痺れてつらい!喋れない!」
「歩けない!!」
様々な訴えを 泣き叫びながら詰所に来ます。
落ち着きがなくなり、かなり興奮してしまっている
…いわば『不穏』という状態です。
そして 歩行器ごと体当たりを始めます。
こうなってしまったKさんには、どれだけ寄り添って話をしても聞き入れて貰えません。
むしろ関われば関わるほど悪化します。
私達に出来る事は怪我をしないよう見守る事と、
周囲の利用者さんのフォロー。
今以上に興奮させない事くらいです。
しばらくすると
「お薬をください!!!」
しきりに言い始めます。
薬を飲んで貰うしかありません。
いわゆる安定剤等を飲んでもらっても良いのですが
Kさんの場合は偽薬を使います。
当時の施設では、乳糖という砂糖を使用していました。
なぜ偽薬なのか?偽物で効くのか?
薬は 多かれ少なかれ必ず副作用というものが出ます。
安定剤を飲むと眠気が出たりぼーっとなる事が多く、
Kさんは歩行器で歩かれる方で
転倒の危険性があがってしまうため、
なるべく安定剤は避けようと決まっていました。
また、Kさんが欲しがる薬は多様に変化します。
腹痛の薬、頭痛の薬、痺れを失くす薬、、、
偽薬であれば全ての訴えに対応出来ます。
こちらの演技力次第ですが、万能薬です。
Kさんは、薬を飲むと ひとつ大きな深呼吸をして
「ありがとう」と、笑って部屋へ戻ります。
数分前と同一人物とは思えないほど穏やかな笑顔です。
認知症の研修へ行くと
『嘘をつかず誠実に』
と指導される事があります。
若い頃は散々悩んだテーマですし
今でも賛否両論あるでしょう。
必要な嘘、優しい嘘だってある。
真実が正しいとは限らない、と私は思います。
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今日はクリスマスイブですね。
皆が幸せな1日になりますように。
私の勤務する施設では、昨日がクリスマス会でした。
コロナ禍だったので久しぶりのイベントです。
感染対策のため、小規模短時間でしたが
皆嬉しそうでした。それを見て私も嬉しかったです。
今夜は夜勤。
穏やかな夜でありますように🎅🏻