
漫画「サバキスタン」感想文:擬獣化することによって息苦しさを軽減し、リアリティが迫るグラフィックノベル
作品紹介
…架空の独裁国家における不自由や弾圧、陰謀、歴史の改ざん。そして人々の真実を求める心、抵抗、愛する国への願い――。迷える大国・ロシアから届いた、自由の意義を問いかけるアンチ独裁グラフィック・ノベル!
作品紹介文を読むと、複雑で古典的な映画のような悠長さを感じたのが本作の第一印象でした。
ただ、登場人物が全て擬獣化されていることに興味を惹かれました。それで、読み始めました。
擬人化か擬獣化か
個人的に擬獣化モノの作品は2種類に分けられると考えています。人間を動物に見立てるモノ(擬獣化)と動物を人間に見立てるモノ(擬人化)です。
まず前者は、人間の差異を表すために動物の種類ごとの特徴を反映させて、人間界の格言がその動物を反映させる言葉に置き換わっている、などの遊びがあります。例えば「◯◯の子どもたち」が「◯◯の子犬たち」など
次に後者は、動物の特徴的な違いはほとんど反映されず、人間界のイメージを動物に投影するため、その動物らしかぬ言動が時に発生します。例えば毛皮は黒いが肌は別に黒くない動物が「黒い肌で差別され」と言うなど。
本書は前者の擬獣化に分類できます。
擬獣化の必然性
さて、往年の映画のような悠長さを感じさせる紹介だ、との思いは全くの間違いだった事が読むとすぐに分かりました。
確かに、同じ事を人間のキャラクターが行えば、すでに何度も目にした事のある話だと感じたはずです。しかし、それが動物のキャラクターに置き換えただけでこんなにもハラハラドキドキするものかと驚きの連続でした。
ハラハラするのは作品のテンポが良い事も理由に挙げられますが、動物にした事で、誰がどんな役割を果たすのかという読みが難しくなり、そんな読みをしない事でより一層ストーリーに集中でき、気づけば世界観にどんどん引き込まれていました。
単に擬人化や擬獣化しても世界観に合わない事もありますので、そう思うと「サバキスタン」は見事な世界観が描き出されています。
息苦しさの軽減と迫るリアリティ
本作と関連比較すると、似たようなテーマの映画として「ワレサ 連帯の男」や「チェ」、史実では東欧革命などが思い浮かびました。どれも重苦しく、冷戦当時の空気感を今に伝えています。
本作もその時代の空気感を反映させた内容ではありますが、動物であるために現実で起きた事の息苦しさと切り離されていて、しかし、架空の国の架空の物語であるにも関わらずあの時代の独裁国家に生きるとはこの様な事だったのだろう、とセリフまわしなどではっとさせられます。
まとめ
冷戦時代が舞台の作品に興味はあるけれど、重苦しかったり悠長なモノは読みたくない。
冷戦の雰囲気を味わいたいが、似たようなモノばかりで創作ネタとして出し尽くされた感がある。
歴史物に抵抗がある。
難しい漫画は読みたくない。
でもテンプレートで話しが進む漫画も読みたくない。
動物が好き。
映画が好き。
フルカラーの絵が好き。
アニメが好き。
以上に心当たりにある方はぜひ手に取ってみてください。日本の漫画とは違う出会いが待っているかもしれません。
最後までお読みくださりありがとうございます。