短編詩的小説「11本目の指の世界」
電話する。
男がでた。
待つのは嫌いだというと、切れた。
月あかりのもと、バルコニーでシガレットをふかしながら、いち、に、さん、4、 5、6で、見えない最後の足の指を数えた。
冷たくて誰もいない夜の牧場を夢想して、昔は祈るように眠って。
今はベッドに戻って眼をこれ以上ないくらいひらいて、身体中の水が乾くのを待ってる。
愛しい指。
光はきらりと滑って堕ちた。
もうない。わたしの愛しい指。
11本目の、みえなくなった、最後の指。
愛と共に、さよならを。
さよなら。
もう街は、霧の中、深い深い、霧の中。
さよなら、さよならを。
終わり。