私と息子の授乳記録
断乳した。
それは、息子が生後7ヶ月と16日目のことだった。
ことだった、なんて言うと随分と昔のことのようだが、息子は明日、生後8ヶ月を迎えるところなので、断乳したのはつい先日のこと。
つい先日、なのになんだか随分と経ったような気もして。
ああ、これはもしかして小さな喪失感なのでは?と思ったので、記録しておこうと思った次第。
元々、息子は完全母乳だった。
出産直後の入院期間中から、有難いことに私の母乳はとても良く出た。
左右5分ずつ吸わせたら、当たり前のように息子の体重は40g増えていて、ミルクを足す必要は無いねと言われながら退院した。
完全母乳で育てたい!と思っていたわけではないのだが、まぁ足りてるものは足りてるし、その後も、4時間もすれば私の乳は痛いほどパンパンに張ってしまったので、息子に吸ってもらわないと困るくらいだったための完全母乳だった。
そんな感じで完母のままで生後1か月を迎えた息子。
1ヶ月検診を終えたのを機に、1日1回、寝る前の授乳をミルクに変えた。
哺乳瓶に慣れさせるためだ。
里帰り出産していた私は、生後1ヶ月半で夫の元に帰ることになっていた。
その際、飛行機に2時間乗る。
3時間毎に授乳していた息子に、どうしても母乳を与えられないタイミングが出てくるため、里帰り終了の日にミルクを飲ませなければいけない。
というわけで始めた哺乳瓶練習を息子はすんなり受け入れ、無事に夫の元へも帰れた。
なんとまぁ、育てやすい子なんだ!
と、思っていた。
生後3ヶ月を超える頃までは。
第一次哺乳瓶拒否。
哺乳瓶を咥えさせると仰け反ってギャン泣きする息子に、初めて育児の壁にぶつかった気持ちになった。
哺乳瓶は3種類、ミルクは5種類、温度や時間帯を変えて試したがダメだった。
母乳を少し吸わせた後に哺乳瓶に変えてもダメだった。
あまりにも嫌がるので、とりあえずと完母に戻した。
2週間ほど完母で過ごし、久々に哺乳瓶でミルクをあげてみると普通に飲み、第一次哺乳瓶拒否は終了した。
第二次哺乳瓶拒否は、第一次克服後たったの2週間で発生した。
症状は同じ。
もう何を変えてもダメなことは分かっていたので、仕方ないと腹を括る。
この第二次哺乳瓶拒否が始まった一週間後、義理の両親に6時間ほど息子を預ける予定があった。
しかし、その日までに哺乳瓶拒否は治らず。
「どうしてもお腹空いたら飲むさ」と笑ってくれた義母に頭を下げて、息子と哺乳瓶とミルクを預けた。
もちろん直前には母乳をたんまりと飲ませて。
6時間後、用事を済ませて戻った私に義母は「ミルク全部飲んだよ」と。
翌日、自宅でミルクを飲ませる際、私ではなく夫に任せてみたら完飲した。
どうやら私が飲ませるのがダメだったらしい。
きっと私が抱いていると、母乳の匂いがするんだろう。
母乳の匂いがするのにミルクを飲まされているというのが、ギャン泣きの原因だったらしい。
昼間は母乳、寝る前だけ夫のミルク、という生活にすることで第二次哺乳瓶拒否は克服され、そのうち私の抱っこでもミルクを飲むようになった。
第三次哺乳瓶拒否は、生後5ヶ月半の頃。
この時の哺乳瓶拒否はそれまでと違い、吸おうとするのに上手く飲めないような感じだった。
生えてきた歯が痒いからか、乳首を吸うのではなく噛むばかりしていた。
そのせいで出てこないミルクに怒って泣き始める、といった感じ。
根気よく、根気よく、あやし続けて飲ませる毎日。
1時間かけて100mlといったペースで、ミルクからの母乳でお腹を満たしてもらっていた。
私の母乳はパンパンに張った時に搾乳しても180mlほどで、1回に200ml飲む息子には足りないようだった。
しかも、6時間ほど授乳間隔を空けないと張るほどに溜まらず。
ミルク100mlの後に母乳を足す作業を1日数回していると、本当に疲れて、早く哺乳瓶拒否よ治れとばかり願っていた。
第三次哺乳瓶拒否は、3週間ほどで収束した。
これは何がキッカケか分からなかったが、ある日突然普通に飲んだ。
離乳食が2回食になってすぐの頃だったので、それが関係していたのかもしれないし、歯の痒さが収まったのかもしれない。
三度の哺乳瓶拒否を経て。
起床後に授乳、10時に離乳食と授乳、昼過ぎにミルクを200ml、夕方に離乳食と授乳、寝る前にミルクを200ml、夜中に2度の夜泣きで添い乳、というサイクルになった私と息子。
この時はまだ断乳など考えていなかったし、困ることも無かった。
生後6ヶ月半になった頃、夜中の2度の夜泣きのうち、1回目は添い寝だけで寝るようになった。
そのため、夜中に母乳が溜まって痛くて寝れない日が出てきた。
その翌週には、2度目の夜泣きも抱っこだけで寝るようになり、もっと痛くなり、ついには乳腺炎になった。
添い乳してみても、たいして吸わずに寝てしまう。
良い事だが、私の体調的には悩ましがった。
夜中に痛くて目が覚めて搾乳する。
断乳。
この時、初めてそれを意識した。
息子が9ヶ月半になるころ、私たち夫婦は結婚式を挙げる予定にしている。
ぼんやりと、その日までには断乳しようかなぁとは思っていた。
ドレスで授乳は大変だろうから。
断乳について調べると、1ヶ月ほどかけて徐々に授乳回数や量を減らし、などと書かれていて「この日!断乳!」と即実行出来るものでは無いのだと知った。
出来るか分からないけどやってみよう。
そう思い、翌日から朝もミルクにした。
張っている時は、痛くなくなる程度に軽く絞るだけ。
離乳食後のみ授乳、それ以外はミルク、夜中は飲まない。
そうしているうちに離乳食の量が増え、母乳をあまり飲まなくなった。
私の身体も順応していき、痛いほどに張ることがなくなった。
正直、こんなに順調にいくと思わなかった。
息子が生後7ヶ月になり、いよいよ、いつ断乳しても大丈夫だろうという状態になった。
朝の離乳食後は麦茶や白湯で満足しているようで、夕方の離乳食後のみ授乳している状態。
辞めようと思えばいつでも辞めれるのに、1日1回の授乳を辞めずに続けていたのは、ただ、私が寂しかったからに他ならない。
哺乳瓶拒否で、母乳しか飲んでくれず、夜泣きも変わって貰えない日々が辛い時もあった。
長時間の外出が難しくて歯痒い時もあった。
着たい服が着れなくてもどかしい時もあった。
でも、愛おしかった。
私にしか見れない景色。
小さな手を添えて、一生懸命飲む姿。
出産後、初めて授乳した日の感動。
これが最後なのか。
これで終わりなのか。
もう、見れないのか。
そう思うと、寂しくて、勿体なくて。
断乳すると決めたくせに、断乳出来ずに居たのは紛れもなく私の方だった。
息子が生まれて7ヶ月と16日目。
その日は、初めて息子が一度も起きずに迎えた朝だった。
「今日で最後にしよっか」
家に息子と2人きり。
私は息子にそう言って、最後の授乳をした。
息子はいつもと変わらず。
離乳食をたくさん食べたあと、数分間だけの授乳を経て、もういらないから抱っこしてとばかりに両手を伸ばしてきた。
そんな息子を抱きしめて、私は少しだけ泣いた。
息子が生まれてから228日間。
母親として、素敵な景色を見せてくれた息子。
私の母性を育ててくれた、何よりもの大切な時間でした。
ありがとう。
いつかこの出来事を、息子にも伝えられますように。