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憧れのリボン

私はガッツリ長女気質である。

実際に長女だし、親戚いとこはとこ内でも1番年上。
いわゆる初孫ってやつで。

そんなこんなで、中学の時も高校の時も、先輩に可愛がられるというよりは、後輩に慕われる方の部類だった。

先輩に可愛がられている他の子を見て、羨ましく思うことも多々あった。
けれど自分にそんな能力もなければ、そんなタイプでは無いことも自覚していたのでスタンスは崩さなかったし、後輩が出来たら出来たで可愛がったし慕ってもらった。


そんな私が、実は密かに憧れていた先輩が居た。

高校時代、同じ部活で1つ上の学年だった人。
ここではA先輩とする。

A先輩とは、私が部活に入部した時に初めて出会った。
先輩に可愛がられるタイプの人で、当時の3年生からいじられつつも可愛がられていた。
2年生にしてレギュラーで。
ユニフォーム姿はとてもかっこよかった。

小学生の頃からその競技を続けていたというA先輩は、才能型というよりは努力型。
普段の部活はもちろん、自主練をする姿を何度も目にした。

私はその競技を高校から始めたため、入部当初は皆とは別の初心者メニューをこなしており、同じく初心者で入部した他の子たちと汗を流していた。
3ヶ月経ち、半年経ち、1年経ち、他の人たちと同じメニューをこなすのが当たり前になった頃。
最初は10人以上居た初心者メンバーは次々に辞めていき、とうとう残り2人になっていた。

A先輩とはポジションが違ったので、練習中にはあまり話す機会がなかったのだが、部活の前後にたまに話しかけてくれていた。
周りを良く見ている人で、輪から外れていると話題に入れてくれたり、準備や片付けが遅れているとわざとそれに合わせてくれたり。
そんな先輩だった。

私たちが2年生になり、A先輩たちは3年生になり。
新しい1年生も入部してきて、賑やかになり。
A先輩たちは最後の大会を迎え、そして引退していった。


話は変わるが、私の通っていた高校は、学年によって制服のリボンの色が違う。
進級する度に、1000円くらいのリボンを新しく買うのだ。
しかし、部活に入っている子のほとんどは、進級のタイミングで先輩からリボンをもらう。
だが私は、2年生になるとき、自分でリボンを買った。
自分が先輩に可愛がられるタイプじゃないことを自覚していたため、リボンくださいなんて言えなかったし、私たちの学年は9人だったのに対し、先輩の代は7人だったので、人数的にリボンの数が足りないのも分かっていたからだ。

先輩が引退した直後の夏休み。
午前中は部活、午後は文化祭の準備という日々を送っていた私は、文化祭の準備の途中で休憩がてら自動販売機へ向かった。
そこに、A先輩が居た。
挨拶をすると、先輩は変わらぬ笑顔で話しかけてくれて、同じように文化祭の準備中だと分かると「ちょっとサボろうよ」と、私を裏庭に誘った。

「部活、どう?」

新チームになって、私は副キャプテンになっていて。
それを知ってか知らずか、先輩は私の心配をしてくれた。

「ハルちゃんは周りを良く見てる子だなーって、入部したての頃から思ってたんだけどさ。周りを見てるからこそ、フォロー役に回ることが多いじゃん?だから大丈夫かなーって」

先輩にそう言われ、込み上げるものがあった。
けれど相変わらず長女気質な私は「大丈夫ですよ」と答えた。
「そっか」と笑った先輩は、それ以上何も踏み込んではこなかった。

「あ、そうだ」
そう言って先輩が取り出したのは、2年生が付ける制服のリボン。
「これあげる」
私は戸惑った。
だって私はすでに自分で買ったリボンを付けていたし、2年生になってもう4ヶ月以上経っている。
そんなタイミングで、A先輩がリボンをくれようとしているのだ。
きっと私の動揺が伝わったのだろう。
A先輩は笑いながら、私の手にリボンを乗せて「これさ、自分らの上の代のキャプテンから貰ったリボンなんだよね。その人も周りをよく見てフォローするタイプの人でさ。だからなんか、ハルちゃんに似合う気がする」と言った。
こんな風に先輩に気にかけてもらったのは人生で初めてで、本当に嬉しかった。
その場ですぐにそのリボンに付け替えた私を見て、先輩は満足そうに笑った。

時は流れ、秋が来て、冬が来て。
A先輩たちの卒業の時期が近付いてきた。

先輩が卒業するということは、私が3年生になるということで、リボンの色がまた変わる。
どうしようかな、と思った。
A先輩に、リボンくださいと言ってみようか。
そう思ってはみたものの、やはり人数的に足りないわけで。
部内のチームメイトが、今年こそはA先輩のリボンを貰いたいと言っているのも聞いた。

そんなある日、A先輩が私の教室に来た。
教室の入口に立っている先輩に呼ばれ、廊下に出ると、A先輩は「この本借りていい?」と、私が部室に置きっぱなしにしていた文庫本を差し出してきた。
「前にハルちゃんが部室で読んでたの見たから、ハルちゃんのかな?って思ったんだけど、違った?」
「いや、私のです」
「やっぱり。借りていい?」
「どうぞどうぞ」
そんな事をわざわざ教室まで言いに来てくれるなんて、律儀な人だな。
そう思っていたら、A先輩はお礼の後に「あ、今年は自分でリボン買ったりしちゃダメだからね。これ、あげるから」と、自分の付けているリボンを指さしながら言ったのだ。
「え、いいんですか?」
「もちろん」
「でも他に欲しい人とか…」
A先輩のリボンが欲しかった。
でもチームメイトの顔が浮かび、素直に喜ぶことも出来なかった。
そんな私に先輩は「大丈夫!くださいって言われた人達は先約がいるって断ったから!」と笑顔で言う。
先約とは、きっと私のこと。
「あの先輩のが欲しいってあると思うけどさ、あの後輩にあげたいってのもあるんだよ」
だから貰ってと言ってくれた先輩に、私はありがとうございますと頷いた。


先輩が卒業した。
私は、約束通りA先輩からもらったリボンを付けた。
そのリボンの裏側には、歴代このリボンを使ってきた人たちの名前がズラりと書き込まれていたので、私もA先輩の隣に自分の名前を書いた。

そんな歴史あるリボンは、私を慕ってくれた後輩へと受け継いだ。
憧れの先輩から貰ったものではあったけれど、受け継いでいくべき物のような気がして。

あのリボンが、今、誰の手にあるのかはもう分からない。


さて、私がなぜ突然こんな話をnoteに書いたかというと。

私には今、とても仲良くしている先輩が3人いる。
先輩と書くと、なんだか変な感じなのだが。
2つ上の彼女たちは、1人だけ年下の私のことを当たり前のように受け入れてくれる。
そのため、先輩ではあるが、敬語は使わないし素も見せまくりの友達だ。
そう、先輩というより、友達。
一応同じ高校の先輩だが、友人であり仲間と呼んだ方がしっくりくる。

そんな風に、年上の友達に対して、すんなり心を開けているのも、時には年下の特権とばかりに甘えさせてもらっているのも、高校生の時にA先輩が可愛がってくれたおかげなんじゃないかと思うのだ。

やはり長女気質は変わらないし、先輩に可愛がられるタイプじゃないけど。
自分が好きだと思った相手には、年上だろうが遠慮せずに好きだと言って良いのだと、A先輩が教えてくれた。ような気がする。


余談だが、私が引退する最後の試合。
A先輩はふらっと見に来てくれて、私のポジションから1番近い場所に居て、試合中に私の名前を叫んでくれた。
目を閉じれば鮮明に思い出せるその光景。
あの試合、私は個人成績だけ見れば過去最高で。
全てがスローに見えた瞬間があった。
きっとあれは、所謂ゾーンってやつだったと今でも思っている。


私を仲間として受け入れてくれている3人の年上の友達たちのおかげで、私は随分と素直に言葉を発せられるようになった。
知らない土地、友人ゼロのこの土地で、今年のクリスマスを馬鹿らしく楽しめたのも彼女たちのおかげ。

もしまたいつか、A先輩に会うことがあったら、実はずっと憧れてましたと伝えてみたい。

そんなことを思った、2023年、最後の水曜日。

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