制服
「どうしたの、その服」
「これは制服ですよ、先輩」
「うん」
「わたしは後輩ですから学校にかよいます。先輩は先輩ですから学校にかよいます」
「なるほど」
明りの瓶詰めはすべてその明りを失って、ただの硝子の死骸になって無人駅のそこらじゅうに横たわっていた。
僕はそれを拾いあつめて無人駅に設えてある回収箱に入れた。この世界に住むひとびとは、空き瓶をこの箱に入れなくてはならない。
空き瓶は氷河期のような音をだしながら箱に落ちていった。入れられた空き瓶がどこに行ったのかはだれも知らない。
学校の制服を着た後輩は、僕の掃除をちらと横目で眺めつつ、目玉焼きをつくってくれた。
僕の朝食は、トースト、目玉焼き、ベーコン、コーヒー。
後輩の朝食は、トースト、目玉焼き、ベーコン、紅茶。
世界じゅうの朝食がいまここにあった。すばらしいことだ。
僕たちはそれを平らげて、学校へ行く準備をした。といっても、鞄を持つだけ。それだけだ。
後輩は自分の自転車を持っていないから、僕たちは徒歩で学校へ行くことになる。
「登校ですね」
「とっても久しぶりの気分だ」
学生の朝は早い。こんなに早く起きたのも久しぶりのことだ。こんなに気持ちのいいものだったなんて。
後輩はなにもいわずに手を差しだしてくれた。僕たちは手をつないで登校する。この世界には手をつなぐことを冷やかす者などひとりもいない。
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