梅雨の晴れ間

 詩は、名前のついていないものに名づける行為ではない、と僕は言う。ところが、名前のついていないものに名づける行為は、詩としか言いようがない気がする。たとえば、日本には梅雨という感傷的な時期がある。そして梅雨の晴れ間は特別な晴れだ。その晴れには名前がついていない。英語では「長い間日照りが続いた後の最初の雨に伴う独特の香り」にペトリコールという名前がついている。ということは、梅雨の晴れ間に名前がついていてもいいと思わないか?
 だからこういうことを思ったとき、人間は詩としか呼ばれないものを書くことになる。僕は書かない。絶対に。

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久慈くじら
小魔術