2019-02-19-17:13

 すこし前に、ワークチェアに坐ったままだと集中して本を読めないのではないかと思って、妹の使っていないソファを強奪してきた。(そのソファはずいぶん前に僕が使っていたものが妹のお下がりになったもので、けっきょくは僕の手元に戻ってきたことになる。離婚したあとに同じひとと結婚するひとがいるが、そのひとの気持ちがわずかながらにわかった気がした)
 ただ長いあいだ僕の部屋にはソファがなかったので、それに伴ってあってしかるべきの家具はひとつもなかった。たとえばローテーブル、オットマン、クッション。だからこのソファで読書をするとき、床にコーヒーカップを置くことになる。あまりよくないことだ。いつ倒して絨毯にコーヒーの記憶を刻みつけてしまうかわからない。飲み口から滴り落ちた雫が底に到達し、円形の染みをつけてしまうこともあるだろう。それを防ぐために、白いレースのコースターを黒い絨毯に放り投げる。そこだけがコーヒーカップの居場所となる。床はどれだけでもあるのに、カラスの群れに紛れ込んだ白鷺みたいに居心地の悪そうな白いコースターの上だけが、カップの坐るべき場所となるのだ。たまに僕はそのことに気をとられて読書ができなくなる。

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久慈くじら
小魔術