黙っておく
窓硝子の曇りに言いたいことを書きつけて、隣にいるあなたの肩を寄せながら「これを読んでくれ」と言うとして、声を使って言うこととの違い、あるだろうか。勇気の問題だ。たとえばこうやって読まれもしない言葉を書き連ねるのはほとんど勇気のいらないことだ。遠いところから遠いところへ書くことは負荷がすくない。宛先のない詩も負荷がないはずだ。けど詩人は苦しむ。それはいちばん近い自分へ宛てたからだろうし、また、世界そのものに宛てたもの、そして、その詩によりすべてが一変してしまうであろうひとに宛てたものだから。いちばん大切なひとに大事なことを言う負荷はとてつもない大きさだ。黙して言い当てられるのを待つほうが楽だろう。でもかつて世界にそのような現象が存在したことなんてあったっけ?
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小魔術