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今さら#2024年映画ベスト10を紹介する

ほんとに今更なんですが、2024年に映画館で観た映画の中で特に自分の記憶に焼き付いた作品10作を五十音順にざっと紹介していきます。
出来るだけざっと書いていくつもりではありますが、熱が入ってしまったときはご容赦ください。
ではよろしくお願いします。

『エイリアン/ロムルス』



あの名作「エイリアン」の新作。監督は「ドント・ブリーズ」を手掛けたウルグアイの超新星フェデ・アルバレス監督。
舞台はウェイランド・ユタニ社なる大企業が宇宙で絶大な存在感を誇る近未来。
辺境の惑星に住む主人公が地元のツレと一緒にゴミ捨て場に打ち捨てられていた怪しい宇宙船に乗って第三惑星へ出発したら、そこに待ち受けていたのは明るい未来ではなく想像を絶する地獄だった…。という話。
これまでに少々グロテスクなホラー映画を何本か手掛けてきたアルバレス監督の手腕がこれでもかと発揮されていて、人間の胸の奥底に眠る根源的恐怖や生理的嫌悪をこれでもかと掘り出して、ひっぱり出して、搾り取って、啜り取ってくる。
キメキメのアクションシーンやエイリアンにらめっこを始めとする歴代エイリアンの記憶が蘇るオマージュシーンがふんだんに盛り込まれていながら、エイリアンシリーズに新たな歴史を深く刻み込んだであろう素晴らしいSFモンスターホラー映画です。

『エターナルメモリー』



南米のあの細長い国・チリ。かつてそのチリを恐怖支配していたアウグスト・ピノチェトに対してビデオカメラ一つで果敢に立ち向かった伝説的なジャーナリストであるアウグスト・ゴンゴラの現在の暮らしに密着したドキュメンタリー映画。
国の民主化から時は流れて英雄も今では国民的女優の妻と2人で穏やかな暮らしを送っていたが、独裁者に果敢に抗い続けた英雄でさえもアルツハイマーには抗えずにいた。
ちゃんと自分の家にいるのに自分の家に帰ろうとしたり、同じ場所で何時間も静止していたり、家族の顔を忘れてしまったり。
だけど、民主化運動の中で負った傷や家族へ対する深い愛情の念だけはずっと心に残り続けていて、アルツハイマーに脳が蝕まれて別人のようになっても瞳の奥には以前と変わらぬ彼の姿が確かに見えた気がした。
私生活の撮影は当然夫婦の同意と協力の下で行われているんだけど、たまにあまりにプライベートすぎる瞬間も収められていてドキドキしてしまった。
自分の状態にただ困惑する夫と自身のライフワークに取り組みながら毎日介護に追われる妻の大変な日常が淡々と描かれていく中でも時折歌って踊ってキスをして、南米らしいオープンな一面が顔を覗かせたときには南米の眩しい太陽に心が照らされて焼かれそうになる。
一人の老いたヒーローと彼を懸命に支える妻による暖かくも過酷な余生と、そして人の力強さと儚さの両面が、若かりし日の夫婦の映像とピノチェト時代のチリの映像&現在のチリの映像を交えて描かれている至極のチリ産ドキュメンタリー映画です。

『関心領域』




「もしアウシュビッツ強制収容所の真横にナチス将校の豪邸が建っていたら?」というぶっ飛んだ題材で描かれるホームドラマ。
将校一家が毎日明るく楽しく賑やかに暮らしている様子がひたすら映されるけど、壁の向こうからは常に悲鳴や銃声、子供の泣き声といったキツすぎる“”が響き渡ってくる。大人が庭でくつろいでるときにも、子供が部屋でおもちゃで遊んでいるときにも、ベッドで寝ているときにも。住みたくなさすぎる。
収容所内の様子が直接的に描かれることはないけど、一見平和な世界から壁を一枚越えた先に地獄が有るという現代の世界でもいくらでも有るのであろうシチュエーションが耳から流し込まれてきて、直接目に見えないからこそ不穏な想像を繰り返し掻き立てられて、「悲しい」よりも「怖い」が上回るような気持ちが襲ってくる。新たな形でホロコーストの悲劇と残酷さを描いた作品。
映画館を出たあと足が勝手に震え出してしばらく収まらなかったし、館内に掲出されていた数点の抽象的なアートポスターからもそれぞれ人間の計り知れない恐ろしさや深い業のようなものがこれでもかと放たれていて、痛烈に頭に焼き付いた映画です。
このポスターは一部が黒抜きされてるんですけど、明るい場所で見るとその黒く抜かれた部分に自分の顔や後ろの通行人の姿や平和な町の景色が反射で映り込むデザインになっていることに気付いたときは盛大に膝を打ってしまいましたね。

『きみの色』



キリスト教系の学校に通う女子高生がたまたま出逢った2人の仲間とバンドを組むお話。
バンドといえばギターをジャカジャカかき鳴らし、ドラムをこれでもかと叩き、といったハードロックをパッと想像すると思うんですが、本作のバンドはなんとテクノ。
バンド構成はギター、キーボード、テルミン、オルガンといっただいぶ攻めた構成。
電気グルーヴのサポートメンバーを務めている方が作曲したイカした楽曲を高校生達が高らかに歌い上げ、観客席をこれでもかと盛り上げる。
そのまっすぐなボーカルと重低音の効いた電子サウンドが映画館のスクリーンを越えてこちら側の観客席でも思わず上映マナーに反しておもむろに立ち上がり手拍子をし始めてしまいそうなほど最高に心を盛り上げられてしまった。
自分の将来像に思い悩み立ち止まった学生達が「音楽」という人類共通のキーワードで固く結びつけられて、彼らのこれからの長い人生の中では瞬きのような束の間の青春を謳歌する素晴らしすぎるアニメ映画。
音楽面もさることながら映像や演出もフランス映画みたいな透き通る空気感と究極的なセンスがあって心が浄化されたし、個人的にもこれからももっと多くの人達に知られて語り継がれていってほしい作品です。自分でも語り継いでいくぞ。

『クワイエットプレイス/DAY1』


ド迫力


地球最後の日、末期ガンで余命僅かな主人公が人生に思い悩んだ男性を連れて大好きなピザ屋を目指し歩くロードムービー。
大ヒットしたモンスターホラー作品の3作目、しかも1作目の前日談を描いた話って正直パッとしない作品も少なくないけど、この作品はジンクスを見事に木っ端微塵に打ち砕いている。
ホラー要素はちゃんと怖くてホラー苦手な自分は何度か座席から飛び上がったし、アクション要素でもしっかりとハラハラさせられたけど、何よりドラマ要素が良すぎた。
行き詰まった世界で行き詰まった2人が出会って、自分の中に差す一筋の光を追って旅に出る。
たとえ進んだ道の先に求めていたものがなかったとしてもそれまでに自分で選んで歩んできた道のりが全てを肯定してくれて、新たな道へと繋がっていく。
好きに声を上げられないような世界であっても、もしかしたら自分で選択していくことが本当の自由を勝ち取ることになるのかもしれない。
最初は単なるモンスターホラー映画だと思っていただけに、とても美しくて深く心に染み渡るものがあって、「良すぎる」の一言に尽きる作品です。

『ゴジラ-1.0/C』


/Cの写真が無かったから通常版の写真


ゴジラ-1.0の白黒バージョン。通常のカラー版では獣らしさに溢れていたゴジラが色彩を削ぎ落とされた途端に一柱の「神」に変貌。
白黒で瓦礫の輪郭が浮かび上がり悲惨さがより強調された終戦直後の日本に襲いかかってすべてを薙ぎ払ったあと空に咆哮を上げる姿はまるで人類への怒りを叫んでいるようでもあり、人類が行き着いた末路にやるせない悲痛の声を上げているようでもあり。
カラー版だと少しCGみの残っていた海上の波飛沫も白黒版だとどこか禍々しい風貌をまとってクトゥルフ味さえ感じて、あまりにもカラー版とは毛色の違う作品に変わってて凄く楽しかった。
あのラストのG細胞も白黒版だとよりクッキリと見えるように調整されていたのも良かったです。そして噂されている続編?についても本当に楽しみで楽しみで仕方ないですね。
本気を出したときの山崎貴監督の作品がまた観られますように。

『ゴジラ×コング/新たなる帝国』



マイゴジとは毛色が変わりに変わり、キングコングと2人で全力ダッシュするハリウッドゴジラが拝めるモンスターバースの作品。
凶悪なオランウータン&強大な氷属性のドラゴンに対峙する善玉のゴジラ&キングコングが繰り広げる制作費130億円の怪獣プロレス。
まず伝えたいことは、これらの怪獣達は映画の上映時間中、吹き替えも台詞も一切なくひたすら鳴き声もしくは雄叫びを発している。「ガオー」とか「ウオー」とか。
冒頭のサル怪獣同士のバトルシーンは少し長めなんだけどそれも鳴き声オンリーで、ずっと人間の耳には「ウホ」か「ウホウホ」しか聞こえてこない。
やっと人間が出てきたかと思えば、コングの虫歯を治療してあげる怪獣専門の歯医者さんが出てきたりして、コング用の手にはめる強化用グローブも登場しちゃったりなんかして、もう全てがぶっ飛んでいる。
人語を全然発さない怪獣達が足元に人間を置いて繰り広げる波乱万丈の下剋上ドラマと手に汗握る激しいアクション。
何言ってるのか一つもわからないのにどうしてここまで胸が熱くなるんだろう。
この作品は世界の言語の壁を越えて、全ての人類の心と体を震わせて共通体験にして繋ぎ合わせるような究極の怪獣映画だと思っている。
日本版エンディングの「Yaffle×AI/RISE TOGETHER feat. OZworld」も初代ゴジラのテーマをサンプリングしながら歌詞の中で本作のストーリーを力強く歌い上げた最高すぎるヒップホップソングで、エンドロールが流れ終わって劇場の灯りが再点灯するまで口角上がりっぱなしでした。

『シビルウォー/アメリカ最後の日』




「もしアメリカが大統領の度を越した暴走によって分裂し内戦に突入したら?」といった少々タイムリーな題材の作品。
ある使命からホワイトハウスを目指しアメリカを横断し始めた戦場カメラマン一行の姿を通して、内戦により倫理観もドルの価値も地に落ちてすっかり変わり果てた元合衆国の姿を観客は痛烈に見せつけられる。
これは果たしてフィクションなのか?予知なのか?
自分の住む国の政治的出来事に一切興味を持たずテレビの中の事として片付ける人達、極端すぎる思想をかざして敵とみなせば容赦なく鉄槌を振り下ろす人達、恐らく現実世界にも有るのであろう存在を「街」や「赤い目の男」といったメタファーとして顕現させていて、それらを主人公達が辿っていけばいくほど、現実世界がこの映画の中の世界みたいにならない為のヒントが浮かび上がっていくような作品だと思う。
戦場カメラマンへの憧れと好奇心で旅についてきた見習いカメラマンの少女が本物の戦場の中で何度も不条理に晒されてどんどんダークサイドに染まっていく様子には切なさと背筋の冷たさを感じて震えたんですが、
震えたといえばジェシー・プレモンスについても彼の演技がXで軽く話題になっていたほど怖すぎて自分もまたしても震え上がった1人なんですが、彼の投げかけてくる「どっちのアメリカ人か」という質問がまるで昨今のアメリカの様子を表しているように思えて、震える中で深く考えさせられるものがある強烈なシーンだった。
そして、この映画は音響面がめちゃくちゃ凝られていて、最寄りのごく普通の映画館で鑑賞したんですがここドルビーシネマだっけ!?と思わず周囲を見渡してしまったほどのとてつもない音圧と臨場感。
静寂…からの静寂…からの爆音!轟音!!と魔術師のように音響や緩急を巧みに操っていて、ここぞと言う場面が訪れるたびに緊迫感と恐怖に全身が物理的に覆い尽くされて、またしても震えてしまいました。この作品はとにかく西野カナになる。大統領に会いたくて会いたくて仕方ない主人公一行。震えるのは観客。世界にトリセツはない。
音響面をさらに突き詰めた本作の監督による新作映画が現在進行中らしいので、次回はぜひちゃんとドルビーシネマで鑑賞したい。

『ツイスターズ』



竜巻を追いかけるストームチェイサー達の姿を描いた映画。
なぜ追いかけるのか?そこに竜巻があるからさ。
ディザスター・ムービーとしての楽しさは十二分にありこれでもかと盛り上がりながらも、竜巻という自然災害によって家族や家を失った人々の悲痛な姿も描かれていて、一ドラマ映画として観ても非常にクオリティの高い作品になっている。
アメリカでは実際に竜巻が日本の台風の比ではない頻度で発生していて毎回甚大な被害や犠牲を出しているだけに、劇中で描かれる被災者の様子や救援活動の様子がとても生々しくて、被災者につけ込んで金稼ぎをしようとする怪しい業者などが出てきたりするその解像度の高さは思わず唸ってしまうほど。
しかしそんな甚大な被害を生む恐ろしい竜巻の中に無謀にもビデオカメラ片手にワゴン車で突っ込んでいくストームチェイサーの存在からは、人間がこれまでの歴史で獲得してきた、大いなる自然の脅威を前にしても怯まず乗り越えていこうとする力強さや転んでもタダでは起きないたくましさを強く感じ取れて、ディザスター映画なんですがとても目頭が熱くなってしまった。
あと本作の劇中には映画館も出てくる。映画館で観た映画に映画館が出てきた時ってなんかちょっと得した気持ちになりますよね。映画館を効果的に活用した演出があって、ScreenXシアターで観たんですが臨場感がありすぎて死ぬかと思った。

『ベイビーわるきゅーれ/ナイスデイズ』



数年前に日本映画界に颯爽と現れた最高のアクション映画のシリーズ第3作目。
好きすぎる作品なのでここではざっと言うに留めると、舞台を一転東京から九州に移し、主人公となる女の子の殺し屋コンビがクセだらけの九州殺し屋コンビと出会って殺し屋カルテットを組んで歴代最強の野良殺し屋と闘う映画になります。はい。
シリーズ全体として基本的に明るめのトーンなんですが本作は殺し屋映画にとって根本とも言える「殺し」という題材を3作目にして更に深く強く掘り下げていて、それだけになかなか陰惨でエグいシーンもあり個人的には少しだけトラウマになる場面もありました。
そこにシリーズを通して描かれ続けている「何気ない日常」といったテーマもばっちりと練り込まれているものだから、生と死の強烈なコントラストが特に印象深く頭に焼き付いている作品です。
ベイビーわるきゅーれに関しては語り出すとキリがなくなってしまうのでここでは頑張って抑えておこうと思うんですが、アナザー主人公のような存在が主人公の目の前に立ちはだかって主人公コンビがお互いの大切さを改めて再認識するんです。
これが好きじゃない人って、これを好きにならない人って、果たして居るのでしょうか。
ちなみに主人公達がカルテットを組む九州殺し屋コンビは前田敦子さん演じる完璧主義者のエリート女性殺し屋&大谷主水さん演じるムキムキマッチョな紳士の殺し屋です…。
癖(へき)はさておき、深いドラマと味わい深いキャラクター達、邦画トップクラスの格闘アクションの数々が画面を華々しく彩り、
そしてコミカルであると同時に残酷でもある作品全体の空気感が現実的な人生の回廊にも共通して通り抜けていくものであるような気がして、観たあとはひたすらに心が感情の渦に巻き込まれながらゆっくりと飲み込まれていく名作映画でした。「ベイわる」、いつまでも続いてほしいな。
セット的な作品なのであえてリストには載せなかったんですがこの作品と同日公開されたメイキング映画『ドキュメンタリー・オブ・ベイビーわるきゅーれ』も是非。

『ホールド・オーバーズ/ひとりぼっちのホリデイ』


ポスター写真がなかったので劇場パンフレット


冬休みを迎えた全寮制の学校で周りの友達がみんな家に帰っていく中、誰も迎えが来なかった男子学生がクリスマスや年末年始をカタブツ教師と寮母さんとの3人で過ごす羽目になるお話。
それぞれ胸に抱えたものがありながらも多くは話さず、一定の距離感を保ったままいくらお金を出しても買えないような何物にも代えがたい時間を共にしていく。
境遇も年代も立場も越えた友情に思わず頬に雪の結晶が落ちる至極のドラマ映画です。
冬のボストンを舞台にしたクリスマス&ニューイヤー映画でありながら日本では6月下旬の既にわりと蒸し暑かった時期に劇場公開されてて、季節外れかとも思いながら観に行ったんですが、
劇中の雪景色の涼やかさで涼を取れたかと思えば登場人物達の織り成す人間模様の暖かさに心がぽかぽかしたりもして、結果うまいこと体感気温が調整されて、
地球温暖化がまだそこまで進んでなかった頃の初春を吹き渡っていたそよ風のような、何とも言い表しがたい生暖かい気持ちを大切に抱えて映画館を後にした覚えがあります。
この先も冬の季節が来るたびに、心に冬が忍び寄るときに、ふと見返したくなる予感がする。そんな優しい映画でもある。

以上10作品が2024年に特に心に残った作品です。
10作以外にも面白かった映画は色々あるんですが、初めて観て感動した古い映画もあるんですが、止まらなくなるので自重します。
どうか2025年も好きな映画に巡り会えますように。
ご覧いただき本当にありがとうございました。

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