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そして彼は「タニヲ」になった|はじめてのnote
長年使い慣れたわが家のキッチンタイマーの調子が悪くなったのは3月のことだった。
液晶の表示がすぐ消えてしまう。ボタンを押しても数字が動かない。何度も押したりしていると復活するが、イライラさせられる。
「しょうがない、買い替えよっか」。この2年ほど、毎朝の筋トレに使っていた妻がついに決断した。
2人とも液晶とボタンの大きなタイマー希望で一致。そしていくつかの店を回った。なかなか思い通りのものが見つからない。
2週間ほどして、私と妻と娘の3人で少し遠くまで散歩した時、フラっと入った店にそれはいた。
大きなボタン、そして表示部は面積にして2倍以上。液晶の数字の太さは3倍以上あろうか。
「これ、分かりやすくていいじゃん」という私に、「機能は大丈夫かな」と妻。「大丈夫に決まってるよ、だってタニタだし」「そうそう」と私と娘。
「そだね」。そしてめでたくタニタのタイマーがわが家にやってきた。
早速電池を入れて、ちょっとだけタイマーを動かしてみる。
「ピピピピッ、ピピピピッ」
音もデカい。
「やはりタニタは自信に満ちあふれてるって感じがするな」
私は満足して新しいタイマーを冷蔵庫に貼り付けた。向こうでそれを聞いた妻と娘が笑っていた。
翌朝。
「さて、新しいタイマーで筋トレするか」
妻がいそいそとタイマーを持ってきた。頭の前に置き、いつもの手順でプランクから始める。筋トレ前なのに笑顔だ。
「ピ」「ピ」
「あれ?」
「ピ」「ピ」
「あっ、できない!」
妻が大声で叫んだ。
古いタイマーではできたカウントアップ(0、1、2、3…)が、新しいタイマーではカウントダウン(3、2、1、0)しかできなかったのだ。1分筋トレ、30秒休み、また1分筋トレといったやり方は、確かにカウントアップの方が使いやすい。よく確認しなかった私たちのミスだった。
妻は無言で新しいタイマーを台所に戻し、古いタイマーをなだめ励ましながら筋トレを始めた。
カウントアップこそできないが、カウントダウンなら新しいタイマーはとても便利だ。そしてハキハキしていて使いやすい。
「できる仕事はしっかり全力でやるっす」
みたいな明るいノリで、毎日の料理に大活躍している。
タイマー2台態勢となった我が家では、彼らのことを「タニヲ」「フルオ」と呼んでいる。
いろいろな文章を書いてみながら、ニュースの表現を広げていく実験をここでしたいと思います。
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