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美徳なき時代の芸術家

このへレニズム期にいたるまでに、美術が古くから保っていた魔術や宗教との関係をおおかた失ってしまった、ということにあるだろう。 彫刻家たちの関心は、職人技そのものの優劣に向けられるようになり、このような劇的な闘いの場面を、その動きや表情や緊張感を含めてどう表現するのか、 それが彼らの腕の見せどころとなっていたのだ。ラオコーンの運命の道徳的な善悪のことなど、 彫刻家の脳裏には浮かびもしなかっただろう。 ヘレニズム期は、ギリシア風という意味ですが、このヘレニズムの時代までに、

    • 美術の実験のはじまり

      ギリシャの都市国家のなかで、美術史上とびぬけて有 名かつ重要なのがアッティカ地方のアテネである。なんといっても、美術の歴史全体を通じて最大の、 もっとも驚くべき革命が、 ここアテネで実を結んだのだ。この革命がいつ、 どこで始まった かはよくわかっていない。それはたぶん、ギリシャで最初の石造の神殿が建てられたのとほぼ同じ頃、紀元前6世紀のことだっ ただろう。それ以前、古代オリエント帝国の芸術家たちは、独特の完成形を追求してきた。彼らは父祖伝来の美術をできるだけ忠実に守ろうと

      • 美術に意味はあるのか?

        美術は本来、ただ美しいというだけではなく、機能があり目的があるものだと思います。ここではエジプトのピラミッドを例にして、お話をさせていただきたいと思います。 たんなる記念碑のためにこれほどの財をつぎこみ、これほどの労力を費やす王や人民がいるだろうか。いまではわかっているが、エジプトの王やその臣民たちにとって、ピラミッドには記念碑という以上の実際的な意味があった。人民の上に立つ王は神聖な存在であり、この世から旅立って、 もといた神々の世界へふたたび昇っていくと考えられていた。

        • アートは感情表現の手段なのか?

          これは結論としては、作り手によるとしか言いようがないかもしれません。ものづくりは、表現とよく結び付けられます。口が達者ではない作り手が、ものづくりを通じて表現するというのは、職人のようなイメージで、思いつきやすいかもしれません。ですが、意外にも多くないという話もあります。 芸術家の多くが内気で、「美」 といった大げさな言 葉を使いたがらないことだ。彼らは「自分の感情を表現する」 と たぐい いった類のうたい文句を使うことにも、照れくささを感じてしま う。彼らにしてみれば、そ

          美術の旅のはじまり

          美術、芸術、アートこれらは、何か近寄りがたく難しいものであるというイメージがあります。ですが実際には、楽しみ方にルールはなく、どんな方法で美術を好きになっても良いと考えています。美術史の本として有名な入門書として、E.H.ゴンブリッチの『美術の物語』を読み解きながら、お話していきたいと思います。 これこそが美術だというものが存在するわけではない。作る人が存在するだけだ。大昔には、洞窟の壁に、色土でもってバイソンの絵を描いた人がいた。現代では、 絵の具を買ってきて、 広告板に

          美術の旅のはじまり