五十音小説「あ」
あれは何だったんだろうか。
私は目の前に座る男の背中を眺めながら
先程の出来事を思い返す。
男とは小学〜高校まで同じ学校。
時々同じクラスだったけど、
たいして話をしたことはなくて、
正直、
「前髪がいつも目に掛かっててキモいなー」
としか思っていなかった
けど
けど!
さっきのアレはやばい。
前から渡されたプリントに触れた瞬間
明らかに自分じゃない体温を感じた。
反射的に顔を上げると
そこには凄く凄く力強い2つの目が私を見ていて
どんな表情で
どんな感情で私を見ていたのかは分からないけど
男が纏う空気に強く抱きしめられる錯覚と、
男の目に吸い込まれる感覚で
息が止まった
男の外見は別に私好みではないし
どんな性格かも正直詳しくは知らない。
でもこれは私でも分かる。
さっきのあの一瞬で
持っていかれた。
前から男のことは知ってるのに
「一目惚れ」と言う言葉が正しいのかは
分からないけど…
…すき。
そう呟きながら指先が震えた。
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