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小説のようなカフェ
エスプレッソ派の私だが、今日はブラックが飲みたくて芦屋の街を散歩しながらお店を探す。勤務している大学に向かう途中の道、いつもは車で通り過ぎるだけだが、徒歩の今日は時間がゆっくり流れているように感じる。
いつもの景色の中に、実は気になっていたカフェがあるので、そこに入ることにした。初めてなので、緊張しながら店に入ると、カウンターの中にいた上品なマダムが笑顔で迎えてくれた。
「どうぞ」と言われ、どの席に座ろうか視線をやった瞬間、私を抜かして青年が足早に入店してきた。奥のお手洗いへ一直線に向かい、出てくるとマダムの立っている向かい、カウンター席に座った。
彼がオーダーしたのはアイスコーヒーとアップルパイ。
こじんまりした店内で、店主であるマダムと彼の話し声は自然と耳に入ってくる。その様子は、常連というよりはまるで我が家で過ごしているように感じた。
今夜彼女と食べに行く店の話の相談や、就活で東京に行く話、次々に展開していく二人の会話を、私は雑誌を眺めながら聞いていた。
アイスコーヒーを二杯飲んで、ひとしきり話をした彼は、会計を済ませ、さっと店を出て行った。
「息子さんですか?」
二人の関係が気になった私は、カウンターから少し離れた席からマダムに話しかけた。聞けば、近くの大学(私が勤める大学とは違う大学)に通う学生だそうだ。
このカフェは、その大学の学生や、周辺の高校生など、若者が集う店のようで、マダムもすっかり若者の扱いになれているのだそう。
話が弾んで、私の職業の話や地域のコミュニティの話になり、さらにはマダムの昔話なども聞かせてもらった。初めて入った店とは思えないほど話が弾んだ(マダムの会話力と引き出しが凄い)。
先ほどの青年に引き続き、見ず知らずの私にまでアドバイスを下さり、自身の体験談を語ってくれたマダム。まるで小説のようなカフェだな、と思った。
ほんのわずかな時間だが、人と人とが交差し、お互いの距離感を守りながら、お互いを思い合う。
なにより、この少しレトロでカントリー風のお店に若者が集うことが意外だった。
さっきの彼とマダムの会話は、行きつけの店とはいえ、中々プライベートに踏み込んだ話をしているように感じたし、マダムの子供に対するような話し方にも愛を感じた。他人だけれど、安心するのだろう。
それは、店主である彼女が20年かけて築いてきたものなのだ。
今日は『いつもと違う選択』をしてみて正解だった。
マダムにもらったアドバイスを胸に、私も歩み続けることにしよう。また、カフェに寄る楽しみもできた。