美人やイケメンの医者は治療効果に影響を与えるのか
人は好き嫌いにより行動が変わる
もしもあなたが好きだと思っている人、または嫌だと思っている人から突然「この書類の作成、今日中にお願いできない?」と頼まれたとしたらどうしますか。多分、好きだと思っている人からの依頼であれば、多少無理をしてでも引き受け、相手が喜んでくれることを期待しながら一生懸命に書類の作成をするのではないでしょうか。一方、嫌だと思っている人からの依頼であれば、今日は忙しいとか、このあと予定があるとか言って、なんとかうまく断る方向で対応しようと思うことが多いのではないでしょうか。このように、人は同じ要件であったとしても、相手によって全く正反対の判断や対応を取ることがしばしばです。
医者の外見により治療効果が異なる
また見た目の良し悪しも当然のことながら、その人の判断に影響を与えます。よほどのひねくれ者でない限り、ルックスのいい男性や美人の女性に対する第一印象はとてもよいものがあります。もちろん実際に話をしたら幻滅したということもあるでしょうが、たいていの場合は外見のよさは相手に対して好印象を与えるものです。
当然、その状況は医者と患者との間でも生じます。たまたまイケメンや美人の先生に診てもらうことになれば、診察を受けるときにはウキウキしますし、その先生にカロリー制限を守ってくださいとか、毎日30分は散歩をしましょうと言われたら、素直に聞き入れ、先生の期待に添えるようにがんばるのではないでしょうか。またちょっとした病気や症状であれば、その際に感じる「うれしい」とか「ウキウキする」といった感覚は、まさに「心の治癒力」が活性化された状態ですので、病気や症状が早く改善する可能性も高くなると言えます。もっとも、病気がよくなってしまったら、あの先生にもう会えなくなるという心理が働き、知らず知らずのうちに症状を引き延ばしてしまうということもあるため(疾病利得)、必ずしも早く病気が治るとは言い切れないところも実際にはあります。しかし、少なくとも外見がよい医者は往々にして患者さんの「心の治癒力」を活性化するため、一般的に治療によい影響を与えると言えます。
外見による影響は医学界ではタブー
しかし、このようなことが学会や論文で発表されることはまずありません。医学も科学であるという信念からか、同じ方法で同じことをしたのであれば誰がやっても同じ結果が出るはずだという「再現性」についての思い込みが前提にあるため、美人医師であろうが変なおじさん先生であろうが、同じ薬を処方されたならば、同じ結果になるという暗黙の了解があるからです。
もし「医者の外見のよさが治療効果に及ぼす影響」などという論文を書こうものなら、差別主義者のレッテルを貼られ、みんなから非難を浴びせされることを覚悟しておかねければならないでしょう。
しかし、私たち人間は機械ではなく感情を持った生き物です。接する相手いかんで嬉しくなったり残念な気持ちになったりするのはごく自然なことであり、患者さんも、美人やイケメンの医者に診てもらうことによりときめきを感じたならば、その心の状態が病気や症状によい影響を及ぼすことになりますし、その可能性については今までもいろいろとお話をしてきました。
もちろんこのことは医者側だけではなく、患者さんが美人だったりイケメンだったりした場合にも言えることです。そんな患者さんが来たら、いつもよりも丁寧に話を聞いたり、診察時間が長くなったりすることは容易に察しがつきます(私も思い当たる節があります)。もっとも医者のこうした態度や判断の変化は、通常、患者さんにとってはよいことなので、これはさほど大きな問題になることはありません。
裁判官の判断も犯罪者の外見に影響を受ける
では裁判官や陪審員の場合はどうでしょうか。もちろん、被告人の外見のよし悪しにより刑期が左右されるなどということは決してあってはいけないことですし、裁判にかかわっている誰もが外見などに左右されることなく、公平かつ客観的な判断に基づいて刑期を決めていると思っています。ところが実際にはそうではないのです。
例えば、裁判官や陪審員が裁判で判決を下す場合、外見のよさが判決の結果を左右するのかという研究があります。同じような窃盗容疑で捕まった犯人に対して懲役何年を求刑するかという場合、美人の窃盗犯は、普通の外見の窃盗犯より明らかに刑期が短い傾向にありました。逆に美人が詐欺で捕まった場合は、普通の詐欺犯よりも刑期が長くなる傾向にありました。これは裁判官からすると、こんなに美人なのに人のものを盗むというのは、きっと気の毒な事情があるのだろうという同情の思いが働き、逆に美人の詐欺犯の場合は、自分の美貌を利用して人を騙すなんて許せないという心理が働くことで、刑期に影響がでると考えられています。
また同じような軽犯罪を犯しても、イケメンや童顔の犯人は通常の犯人と比べると刑期が短くなる傾向があることもわかっています。もちろん、公正に人を裁くという立場にいるので、本人からすれば外見で刑期が変わるなんてことは決してないと思っているかもしれません。しかし、頭で考えていることと無意識に感じてしまうことは別であり、物事を判断したり行動を起こしたりするのは無意識の方がずっと影響力が強いので、このような結果になってしまうのです。
他にも、コーネル大学のジャスティン・ガネルは、魅力的出ない人は、魅力的な人よりも22%も有罪にされる割合が高く、平均22ヶ月も長い実刑を受けるという論文も出しています。
公平に接するはずの裁判官であっても、被告人の外見により判断が変わる可能性があるのです。裁判官とて感情を持った人間なのですから当然です。
このように、外見のよさは日常においては様々な影響を及ぼしますが、医療や裁判といった公平なかかわりが当然と思われているところでも、実は知らず知らずのうちに大きな影響を与えているのです。
イラスト:子英 曜(https://x.com/sfl_hikaru)
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