[二次小説]忍者スレイヤー少女
忍者スレイヤーが放送されていたひと夏のセピア……フィメール忍者スレイヤーDIY
姥捨山真頂上火口、付近。火山岩と朽ちた白骨の山地に、ジプシーめいてまばらにたむろする者たちの姿あり。「我々は此の地を母と父のシカバネに埋め馴らし、今こそ歩み出す」標高3000メートルを超える地に雪が舞う。ある者のバストは豊満であり、またある者は平坦だった。口の周りは皆一様に布で覆っており、息が白くなって透かされることもない。
「星になった者らを降らせ取り戻す夜々が来る、いや、来ているのだ……もはや何者も産まれない、産まれさせはしない……始まるのだここから、蘇った火山と共に……」火口の傍らで謳い上げる者の声は打ち震え、嗚咽を帯び、怒りに燃えている。「行こう、我々は行こう、すべての星灯りが尽きるまで、忍者のすべてを降り注がせる、おお、約束を果たしに行くのだ、我々と、我々の、約束を……」
忍者スレイヤー少女
生活指導室のタタミに正座させられ、益荒兌サキは正面の壁に貼られたショドーを睨みつけていた。「暴力がキライ」「ちょっとやめる勇気」「ユウジョウ」……「アンタはバカ!」ヒステリックな罵声と共に背後から竹刀が振られ、サキの肩を打擲! サキは唇を噛み、耐えた。しかしその態度が、生活指導教員の松村を余計に苛立たせる。
「スゴイ・バカ!」さらなる罵声と共に唸る竹刀! 今度は肩ではなく脇腹を打擲! 痛みに視界が歪み、「暴力がキライ」のショドーがぐにゃりとうねったように見えた。さらにトドメとばかりに逆の脇腹へ突き! 「ンッ……オゴーッ……」サキは背を丸め嘔吐! タタミに胃液が散る。
彼女はいかなる非行のために、このような仕打ちを受けているのか? それは……今まさに指導室の外の廊下で、ドアに耳をつけオロオロしている学ラン少年と無関係ではない! ……少年はサキよりひと学年下の後輩であり、今は独りで暮らすサキと家が隣同士で実際幼馴染だ。サキにとって唯一の家族であった母は、サキがまだ幼い頃に姥捨山麓サーキットでのバイク訓練中に事故爆死した。サキには小さな平屋と母のバイクだけが残された。隣の家の少年は実の姉めいてサキを慕い、孤独なサキにとっても唯一の家族じみた存在であった。
少年は、喧嘩沙汰を問い質されて指導室行きとなったサキに非がないことを弁護すべく、駆けつけてきたのだが……黙って責めを受けているサキのアティチュードは「アンタは出てくるんじゃないよ」との気遣いを無言のうちに告げている……と、その時!
「ヘイヘイ!」「益荒兌サキどこだウラー!」「サキヘイヘイ!」「昨日のお礼してやっコラー!」指導室が面する校庭へとなだれ込んでくるゾク車騒音、スケ番不良学生たちのイキり声! 教員の松村は、正座に痺れたサキの足をヒールで踏みつける! 「ンアッ……!」無慈悲! 「アンタ、ドゲザして帰ってもらうよう頼んできなさい! 今は授業中よ!」松村がサキのセーラー服の襟を掴み、校庭へ放り出そうとした……その時! 「さっ、サキ姉ちゃんは、いない! 今日は風邪とかで休みだ!」少年の震え声が校庭に轟いた。それは、つい先ほどまで廊下でオロオロしていた学ラン少年!
校庭……総勢8台のゾク車、15人のスケ番。「ナメッテンコラー!」リーダーの武田が2メートルあまりの体躯と怒声で少年を威圧する。「梅太ヘイヘイ!」「姉弟まとめてバキバキに殺ッコラー!」囃し立てるスケ番たち! 因縁は、昨日の放課後に始まった。武田の子分たちが梅太をカツアゲしようと取り囲んだところを、サキが叩きのめしたのだ。子分たちは武田のアネゴに泣きつき、サキを不良少女に仕立てあげたのである! ちなみにふたりは実際に姉弟というわけではないが、そんなことを気にするスケ番はいない。
「アネゴ! こいつを人質にすれば、サキの野郎もおとなしくサンドバッグ重点!」ニュービースケ番の提案に、他のスケ番たちが思わず息を呑む……人質作戦、それは逆に言えば武田のアネゴの強さを見くびる以外のなにものでもない! 実際、武田は小細工が嫌いであり、子分たちはあくまでタイマンの見届け役として連れてこられた……はず、だった。
武田のマトイの袖口からジャラリと鎖が垂れ落ちて足元にとぐろを巻く。壊れた蛇口めいて鎖は垂れ流され続け、とぐろは見る間に大きくなっていく……到底、マトイの内側に隠し持っていられるはずもない量の鎖だ。フシギ! 「イヤーッ!」武田が腕を振ると鎖は跳ね上がり、タタミ5枚の距離に立っていた梅太に巻き付き締め上げた! 「ウワーッ!」少年の華奢な身体が締め上げられ、「イヤーッ!」腕のもうひと振りで一挙に武田のもとへ引き寄せられる!
一方、指導室では窓からこの光景を目にした松村がさらに怒り狂っていた。「騒ぎを大きくしちゃって、アンタも弟もスゴイ・バ……」「バカハドッチダー!」無抵抗を貫いていたサキが梅太の危機に激昂、松村を殴り倒した! 「アバーッ!」 竹刀を奪い、窓を叩き割って靴下のまま外へ飛び出す!
「ヘイヘイ!」「出たな益荒兌サキ!」スケ番たちの歓声、そして、今まさに武田の足元へと引きずり倒された梅太の姿。「動くんじゃねェー!」梅太の眼前にゾク車のタイヤが迫り、鼻先ワンインチで空転! 卑劣な人質作戦である。「ヤメテ!」サキは叫び、手にしていた竹刀を放り捨てて両手を上げた。
「わかってンじゃねぇか、なァ」武田がその場で一回転し、マトイの背に刺繍された「仏はアタイより尊くない」の文字を見せつける。「昨日はあたいの舎弟たちとナカヨシしてくれたそうじゃねェか、エェッ?」「……」サキは答えず、黙って梅太を見て唇を噛んだ。梅太を縛り上げてまだ余りある長い鎖を拳に、全身にまで巻き付け巻き取りながら、武田はサキの直前にまで歩み寄る。
「イヤーッ!」鎖拳のパンチが腹を抉り、サキは声も出せず前のめりに武田へと倒れかかった。白いマトイが吐血に濡れ、「イヤーッ!」武田は振り払うように回し蹴りを放ち、サキの身を校舎のほうへと吹き飛ばした。……吹き飛ばした? もはや人間技ではない! 今や舎弟たちも唖然としたまま、ダンプに撥ねられた猫めいて校舎の窓を激突破壊しサキの姿が粉塵に消える光景を見送っている。
武田は振り向くと、まずは手近にいたニュービー舎弟をカラテ!「イヤーッ!」「アバーッ!」吹っ飛んで校庭端のフェンスに激突し引っ掛かり、ハリツケ! 「イヤーッ!」「「アバーッ!」」さらに二人、吹っ飛んでフェンスにハリツケ! 梅太は芋虫めいてグラウンドの砂を噛みながら、武田のマトイが生き物のように蠢き、奇怪な忍者装束へと変貌を遂げる様子を目撃していた!「アイエエエエ!!」
投げ込まれた資料室の中、薙ぎ倒された書架・散乱した紙束に溺れて身悶えるサキ……息をするたびに血泡が喉を焼き、手足が冷たくなっていく。「アー……アタシ、死ん……」『グググ……フフフ、そうラクに死なせてはやらぬ、非忍者の子よ』投げ出されたサキの指先に、紙とは違う硬質な感触が伝った。『わらわは奈落忍者……そなたの肉体、要らぬなら寄越すがよい』まるで指先から声が流れ込んでくるかのよう。
サキは苦しみを堪えて首をもたげ、それを……オモチャめいて太いベルト装具を、見た。書架の上にでも置き去られていたのだろうか。金属質に黒光りする幅広のベルト、中央には太古のビデオカセットテープぐらいの長方形バックルがあり、貼り付いた銀の手裏剣が獰猛な輝きを放っていた。『そなたはもうわずかももたぬ……わらわを腰にあてがえ、さすれば――』最後まで聞かず、サキは最期の力を振り絞ってベルトを自らの腰に当てた!
一方、校庭にはもはやスケ番の姿無し! 残っているのは忍者モンスターと化した武田、そして、今まさに踏み殺されようとしている梅太!「アイエエエエ!」 その時!KRAASH!資料室から放たれた閃光衝撃波が校庭の砂を巻き上げ嵐と変える! 校舎の窓がすべて砕け散り、授業中の生徒たちがパニックのどん底!「アイエエエ!」「ナンデ!? アイエエエエ!」
『なッ、そなたっ、わらわに肉体を譲ら……』「イヤーーーーーッ!!」資料室を飛び出し、嵐の中を色つきの風めいて跳び荒ぶシルエットあり。「グワーッ!」忍者モンスターの長身に何者かが衝突、ワイヤーアクションめいて跳んだ身体がゾク車に激突炎上! 「なッ、何だッ、テメッコラー……」炎を振り払いバク転で体勢を直したモンスターは、見た。再度爆発する炎の向こう、ぜいぜいと肩を揺らし腰を落とし、今にも飛び掛からんとする姿勢でこちらを見据える白い忍者を。
「どうも初めましてッ、忍者スレイヤー少女です……」その声はひどく掠れ、喘ぎ、痛みに満ちていたが……梅太がサキの声を聞き間違えようはずもなかった。しかし、ふたりの眼差しがほどけあうことはない。「……我が名は姨捨剛強丸。なるほどアンタも選ばれちまッたッてワケかい」「イヤーッ!」間髪いれず飛び掛かる少女、ブリッジで回避する剛強丸! 少女はグラウンドを削って着地すると同時に反転、ブリッジ姿勢から戻ろうとする剛強丸の喉元へ踵落としを見舞った!
剛強丸も咄嗟に反応、少女の踵を喉元寸前で両手で挟み込んだ……直後、いまだブリッジ姿勢の後頭部へ、下からの蹴り上げ!「グワーッ!」「イヤーッ!」緩んだガードを擦り抜け、踵が喉を潰す!「オゴッ……!」背泳ぎめいて腕を振り回しながら仰向けに倒れる剛強丸、少女がその襟元を掴み宙へ高く放りあげた。「アバッ……ナンデ……」「イイイヤアアアアーッ!!」地を蹴って跳び、空中ケリ・キックの体勢で一挙に迫ってくる少女。ベルトの手裏剣が高速回転し風を唸らせた、瞬間、白装束の右脚にカラテと筋肉が漲り、剛強丸の胸を貫いた。
「グワーッ!!」身体が発光、そして爆発四散!炎、黒煙が散らばり、マトイの破片が風に消えた。少女は着地に失敗しブザマに転がると、残心ポーズすら忘れて梅太のもとへ這い寄った。鎖は忍者モンスターと共に消えた。そして少女は自身でも驚くほど軽々と梅太を抱き上げると、かろうじて難を逃れていたゾク車にまたがり、校庭から走り去った。(((変身……ナンデ?))) 胸中の問い掛けに答える者は、なかった。
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