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イグナイト・イグニッシヨン・ブレイズアンドG--完結篇

承前

ブレイズ(ニンジャ)とG(真の男の中の男)が製菓メガコーポ陰謀に立ち向かうDIY小説です。


「ファック…オフ!!」

ブレイズの罵声が轟くのは、暗黒製菓メガコーポが擁する工場内……秘密裏に設けられた研究室。企業ニンジャ・ドリトスキラーの霧農薬攻撃に倒れたブレイズは、こうして実験室めいたアジトへと運び込まれ……チャブ台座じみた円型のステンレス手術台に括りつけられていた。

「グゥッ……クソッ!」

大の字で仰向けに横たえられた身をもがかせるが、手足首を台座に繫ぎ止める拘束具はニンジャ膂力をもってしても軋みもしない。ブレイズは唯一自由な首を巡らせ、台座を囲み立つナース研究員たちを順繰りに睨みつけた。虚しい抵抗だ。ブレイズが内なるカトンを取り戻しかけるたび、ナース研究員が蛍光色の薬品が入った注射器をその腕や脚へと突き立てる。すると、体内の熱が失われるばかりかエレキショックめいて頭が痺れ、ドンタコス思想が脳を蝕まんとスパークするのだ。

聖なる三角形スナック。メキシコの荒野にあるオアシスめいたプールサイド、ドンタコスの大皿を囲んで歓談するカチグミ、外の荒野ではバイオハゲタカのエサと化している屈強な男の死骸、プールサイドにはドンタコス・ニョタイモリとネギトロ・ディップソース、荒野では男が呻き干からびていく、プールサイドのサラリマン、豊満なオイラン、ドンタコス・スシ……荒野の風に吹かれて消えていくドリトスの赤い袋……。

「イタマエッ、のッ……ちか、くのッ、ヤツ……コナイ……スシガ……」

ブレイズはチャントめいて歌詞を唱え、邪悪ドンタコス思想に抗った。太鼓、オコト、ベースが奏でる振動は、この身体に確かに刻まれているのだ。反抗。アンタイセイ……暗黒製菓メガコーポの宣伝媒体になどされるわけにはいかない。

「マワッテェ……コナッ、イッ、スシ……ガ、モガッ!?」

研究員がボール猿轡をブレイズの口に押し込む! もはや反抗のスベなし! めちゃくちゃにもがき乱れるブレイズの腕を押さえつけ、さらに薬物注射!……途端に彼女は大人しくなり、猿轡の隙間から涎をこぼした。真上から、覗き込むように見下ろしてくるナース研究員たちの顔が、ぐるぐる回る。三角形に回る。ドンタコス。三角形。ドリトスは腰抜け。美味しさ。農薬が一切ない三角形は私、あなたのポンチョ、タコス、明日も食べたい、スシよりもドンタコス……。

ブッダ……彼女はこのまま洗脳を受けさせられ、ノボリを生やしたドンタコス人間になってしまうのか!?

「ウオオーッ!」

「アバーッ!?」

レジスタンシアの男の拳が砲丸めいた勢いで振り回され、子供を泣かせていたドンタコス人間の頭を一撃のもとに粉砕した! メキシコ!

「ウオーッ!!」

「グワーッ!」

続けざまの屈み蹴りがもう一体のドンタコス人間の腹部を蹴破り、モロコシめいて黄色い体液を撒き散らかす! 男はすかさずパンチを見舞って頭部粉砕、瞬く間に二体の人間を片付けた。そして奥ゆかしく身を屈め、子供の目の高さに自身を合わせて頷くと、その広い肩の上に子供を肩車した。家まで送ってあげることにしたのだ。

道すがら、子供は拙いながらにこれまでのあらすじを話した。それを聞いて、男はブレイズのことをかなり認めた。そして屈強な嗅覚を発揮し、子供の首に巻かれたマフラーから闘いと反抗のアトモスフィアをあますところなく察した。そう……この街はもはやメキシコと化したのだ。生きていれば死ぬ、風と砂煙のファイヤー・ヴェールは切って落とされたのだ。

子供のナビに従って住宅街を進みながら、男は来し方を噛み締める……メキシコの苛酷とサツバツを生き抜いた果てに辿り着いた一時の安息の地、ネオサイタマ。男には荒野と銃撃戦のほかにも、なすべき宿命があった……テキストを書くことだ。腰抜けばかりが跋扈する腐敗の地にメキスコをわからせるために。新たな苛酷と孤独のひびが始まり、ドリトスは機関銃に代わる真の相棒となった。

だが、真の男の中の男に安らぎは許されぬ宿命。至高の三角形コーンは突然に農薬過剰の嫌疑をかけられ、販売を止められてしまったのだ! 男は打ちひしがれ、吠え猛り、泣いた。そして欺瞞が控え目なラジオとかを聴いて、この陰謀は腰抜けどものやり口であることを理解した。束の間の安らぎは終わり、闘いの時が来たのだ。映画とかでも、続編が作られるときは一作目の舞台から遠く離れてエキゾチックアジアが戦場になりメキシコになるかくりつが高いということを男は知っていた、つまり彼もまた戦士だということだ。

「アイエエエエ狂人!!」

子供の家に辿り着いた男を迎えたのは、他ならぬ男自身に向けられた母親の悲鳴だった。まだ若い母親は子供を男からひったくるように抱き奪うとぴしゃりと鍵を下ろした。男の上半身はハダカであり、かなりの筋肉がある。男が奥ゆかしく立ち去ろうとしたとき、子供の家のドアにほんのわずかの隙間が開いて、赤いマフラーが汚物めいて投げ捨てられた。男は拾って砂を払うと、歩き出した。

「ヘイヘイ! 野郎ヘイヘイ!」

直後、違法改造バイクの爆音と共に道を向こうから走ってきたのは……ナムサン、モヒカンだ! 渇いた血の染みでマーブル模様になった黒いクルーザーバイクが興奮バイオ水牛めいて迫り来る! モヒカンは当然薬物高揚下にあり、男をボウリングのピンめいて撥ね飛ばしポイント倍点を狙っているのだ! バイクは時速100kmを超えており実際アブナイ!

「ウオオォーッ!!」

男は道の真ん中でアスファルトを踏み締め、吼える! 男のパーマ長髪が、握り締めた赤いマフラーが、風に躍る! そして激突の直前……男はドロップキックめいてその屈強な長身を地面と平行に跳び上がらせ、回転し、メキシカンブーツのかかとでモヒカンの鼻を粉砕した。

「アバーッ!」

振り落とされてアスファルトをバウンドするモヒカン、そして入れ代わるようにシートへまたがり、男はアクセルを握る! ドルゥゥゥン!! メキシコの暴れ馬めいたいななき、そして……なんたるレジスタンシア器用さか! 赤いマフラーはいつの間にかクロームメッキのハンドルバーに固く結びつけられ、「地獄お」の字を決断的に風に波打たせている! ドルゥゥゥン! 暴れ馬の咆哮、スピードメーターの針が跳ねる!

男はフルスロットルのまま、偶然道ばたで宣伝行為行脚をしていたドンタコス人間を撥ね飛ばし、駆けた。

「アナタいま体温何度あるのかナ?」

ナース研究員がオイランめいた手つきでブレイズの剥き出しの腹に触れ、体温計をシャツの下に這い込ませた。

「モゴーッ!?」

ブレイズは身をよじって足掻くも抵抗不可能。プガー! 計測完了を告げる電子ブザーがしめやかに鳴り、研究員は彼女の体温を確認しドリトスキラーに伝えた。その数値はいまだ洗脳処置が不十分であることを示している。

「ムウー……やはりニンジャ、やすやすとは進まぬか……イヤーッ!」

ドリトスキラーは壁際に並ぶ機器のひとつから飛び出しているレバーを握り、思い切り倒した。

「モガーーッ!?」

ブレイズが寝かされているチャブ台座に火花が散り、高圧電流が襲う!

「アアアババババーーッ!!」

近くにいたナース研究員の一人が巻き添えで感電! 黒焦げ即死! さらに、ボール猿轡のバンドが焦げ切れ、ブレイズの口からボールがこぼれ出た!

「グワーーーーッ!!」

なんたる強硬手段! ブレイズのニンジャ耐久力に痺れを切らしたドリトスキラーは電流責めによって一挙に体力を消耗させ、洗脳を完遂しようというのだ。彼女はたしかに記念すべき100体目のドンタコス人間素材……しかし手術の順番待ちリストに載ったマケグミ工場労働者はまだまだ山ほどいるのである。モータルだろうとニンジャだろうと、作業は流れライン工程めいて滞りなく進められねばならない。

「観念せよブレイズ=サン! 無駄な抵抗は諦めてドンタコス神聖思想を受け入れるのだ!」

「グワーーーーッ!!?」

黒焦げ死体がしめやかに運び出される傍ら、電流責めはなおも続く! 赤髪をふり乱してもがくブレイズの、おお……その全身、バチバチと弾ける火花の密度が徐々に濃く、まるでヴェールめいて身体を覆い始め……そして、ドリトスキラーがレバーを上げて電流を止め、スパークが一斉に散り消えると……おお……ブレイズの身体は、黒のレザー衣装、稲妻パターンのニンジャ装束姿と化していた!

「ハァーッ……アー……ァ……」

肩で息をしながら、ブレイズは首をもたげ、拘束されている自身の身体を見渡す……しかし首に力が入らず、すぐに台座に頭をつけてぜいぜいと喉を鳴らした。身に馴染んだ感触だ。薬物の過剰投与に加えての電流が防衛機構めいた何かを刺激し、装束を生成させたのだろうか。試しに手足に力を込めてみるが、やはり拘束具は不動。力そのものはまだ薬物の影響下にあるらしい。

咄嗟の事態に備えてカラテ警戒していたドリトスキラーだったが、ブレイズがまだ拘束下にあることを察すると警戒を解いた。そして、彼女の体力を再度ネコソギにすべく電流レバーを下げ……ようとしたその時! BRATATATATATA!!

機関銃掃射音! チャブ台座から一歩下がって控えていたナース研究員の頭がひとつ、ふたつと順に爆ぜてネギトロと化し、残された首から下が丸太めいてバタバタと倒れた。BRATATATA! 研究室内を舐め尽くさんとするかの勢いで続く機銃掃射、あちこちの機器が弾け、火花を噴き、壁が抉れガラスが割れる! 弾幕は人の頭の高さより下へ飛んでくることはなく、チャブ台座手術台に横たわるブレイズは無傷!

「アバーッ!」「アバッ……!」「ヌゥーッ……!!」

まるでスシヤのごとく次々ネギトロに変わる研究員たち、そして手近な肉の盾を用いて被弾回避するドリトスキラー! 弾丸の発射元は、製菓工場エリアとこの研究室とを繋ぐ唯一の扉のほう……見れば、扉は今や蜂の巣を通り過ぎて豆腐めいて崩れ落ち、向こうから扉越しに機銃掃射をかけてきた男の姿は明らかとなっていた。

ブレイズもまた首をめいっぱいひねり、扉の方へとどうにか眼差しを向けていた。掃射のマズルフラッシュが止み、遅れて薬莢がカラカラと床を叩く。両脇に機関銃を抱えたレジスタンシアの男が、そこにいた。

「…………ナンデ?」

男は室内を見渡し、チャブ台座のブレイズ、そして肉の盾を放り捨てたドリトスキラーの姿を確認した。そして言い放った。

「……よくきたな。おれはレジスタンシア・Gだ」

「ドーモ。ドリトスキラーです」

BRATATATATA! 機関銃が再度ファイアし、ブレイズが横たわるチャブ台座手術台へ集中砲火! 機器が弾け火花が火花を呼び、蜂の巣! 拘束具も解除! ブレイズはすぐさま跳ね起き、そして見た……ドリトスキラーがこの隙をついてGへと一挙に迫り、ノボリ凶器を振り上げる!

(((イケルか?……)))ブレイズはまばたきの一瞬の暗闇の中にニンジャ集中力を注ぎ込む! 今も体内を巡っているアンタイ薬液の居所を捉え、自浄の体内ファイアを次々ぶつけて燃焼! 体温が一気に取り戻されていき……まばたきを終えて瞼を開けば、目の前に炎のリングが燃え上がる!

「イヤーッ!!」

ドリトスキラーの主観時間がスローモーションに変わる。突如Gと自分との間に割り込んできたブレイズの脚がノボリ凶器を蹴り折る。火を噴く肘、ロケットめいて放たれる炎の拳、が、サボテン調装束の胸板ど真ん中めがけて迫り来る。ブリッジがもう、間に合わない!

「グワーッ!」

ドリトスキラーは胸を焼かれながら後方へ吹っ飛び、壁の機器に激突感電!

「アバババーッ!」

だが機器はすぐにクラッシュ沈黙し、ドリトスキラーを感電から解放! 生成したノボリ凶器を手に再び身構えた時、Gが放った赤いマフラーが吸い寄せられるようにブレイズの首に巻き付き、「地獄お」の字が輝くのを見た!

「イヤーッ!」「イヤーッ!」

ドリトスキラーとブレイズが同時に跳躍、空中で切り結びすれ違った後、互いがもといた場所へと着地……すなわち、ドリトスキラーはGのすぐそばへと! もちろん、Gとてただ待っているわけがない。両脇の二丁機関銃が吼える!BRATATATA!

「チィーッ! 神聖ドンタコスにたてつくファック野郎めが!」

ドリトスキラーはバク転回避してチャブ台座に飛び乗りながら、メキシカンポンチョ展開! サボテン装束の噴射孔から解き放たれる霧農薬! ブレイズはマフラー防御して接近を一時回避! だがGは無事なのか?……おお、霧めいて立ち込める農薬の中、Gの両の目がけものめいてギラついている!

「いまさら農薬など、屁だ」

Gはメキシコめいて告げ、機関銃を撃ち続けようとするが……その背後、ドンタコス人間たちが工場エリアから殺到!

「ニンジャはアタシがやる! イヤーッ!」

Gがドンタコス人間殲滅に切り替える一方で、ブレイズがカトンとともに飛び掛かった! 炎が霧農薬に引火し、ドリトスキラーの体内目がけて逆流するが……咄嗟に噴射孔を遮蔽! もちろん、ブレイズは併せての蹴りをも繰り出しているが……装束のせいか、自身のニンジャ身軽さが一層に軽くなっていたことに今きづいた。予期せぬパワーアップに狙いがブレる!

「イヤーッ!」「グワーッ!」

ドリトスキラーが身を反らして回避しながらノボリ凶器攻撃! ブレイズの脛を下から打ち上げるように強打! 打たれた衝撃を回転に変えて着地、バク転で突きを危なげにかわし、チャブ台座に飛び乗ろうとするが……やはり急な身軽さが慣れず、ブレる! 風を鳴らし迫り来るノボリ凶器、側頭部への突きを間一髪回避するが、赤髪が数本散った。

「死ね! イヤーッ!」

ドリトスキラーはノボリを連続生成、投げ槍めいて連続投擲! ブレイズは側転回避、「愛されて三十周年な」「独自さ」「逆噴射殺る」とショドーされたノボリが次々床に刺さる!

「アー……逆…?」

ブレイズのニンジャ注意力はその決定的メッセージを見逃さない! ニューロンとカトンがスパークし、閃いた!

「イヤーッ!」「イヤーッ!」

決断的に床を蹴り、飛びケリ・キックを繰り出すブレイズ! ドリトスキラーは渾身のノボリ投擲! その角度は実際、ブレイズの足の裏を貫き頭の上へと一直線に突き抜ける精確さ!

「イヤーッ!!」

ブレイズはノボリとの接触直前でつま先を下げ、軸を下から突き上げるように蹴ってその軌道をマトハズレなラインへズラした! しかしこれによりブレイズ自身の軌道もブレる! ドリトスキラーはブリッジで容易に回避……上下逆さになった視界の中、自分の上を素通りしていったブレイズが……おお、それは、逆回し映像めいた光景! 変わらぬケリ・キック体勢のまま、ブレイズだけが時間を巻き戻されるかのようにドリトスキラーの真上を通って、先にノボリを蹴った位置まで戻る!

彼女は正面へ向けて突き出した両肘からのカトン逆噴射を行い、このワイヤーアクションそのものな軌道を作り出したのだ! そして肘を背に向け、フルスロットル通常噴射! これこそ逆噴射反転ケリ・キック! ドリトスキラーは今ようやくブリッジ姿勢から身を起こし、己に迫る炎の脚先を見たところであった。「アバーッ!!」蹴りちぎられて燃えながら飛ぶ首! 黄色い体液の噴水! 「サヨナラ!」

深く身を沈めた着地でザンシン! その背後、チャブ台座上のドリトスキラーが爆発四散! その爆発音が一度響いて消え去ると同時に、絶え間なく聞こえていた機銃掃射音もまた止んだ。哀れなドンタコス人間たちもジゴクへと送り返されたのだ。

★エピローグ

タソガレ・アワーの風。ふたりは工場を背にして砂利めいたアスファルトの道を歩んでいく。踊るマフラー。揺れるパーマ長髪。交わす言葉もない。ただ……

「そろそろだな」

ブレイズがつぶやき、束の間だけ足を止めた。振り向くこともない。その格好はもう、元のジャケット姿に戻っている。

「ドリトスチョーウマイ!」

Gが不意に叫んだ、のと同時に後ろの工場が爆発した。極大の炎と黒煙が続けざまに巻き起こり、風を熱し、空を焦がし、製菓工場を灰燼に変えていく。振り向くこともなく、再び、歩き出す。Gは自転車でも引くかのような調子で大型クルーザーバイクを押しながら歩む。

終わらない爆炎を背負い、どこへともなく歩いていくふたり。やがて、Gはおもむろにバイクにまたがり、エンジンをスタートさせた。ドルゥゥゥン! 荒野の馬、レジスタンシアの唸り。男は何も言わずに走り出す。遠ざかっていくテールランプ。爆音。もうあの場所に帰りはしないのだろう、とブレイズは何となく思った。


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