[二次小説]忍者スレイヤー少女 EP2
忍者スレイヤーのひと夏、あのセピア……カムバック・フィメールDIYな
「平等な」「コメが高すぎる」「バカ」……力強く書道されたプラカードを掲げて街を練り歩くフィメール・デモ団体。五十人に満たないほどの参加者だが、不満を募らせた人々の熱気は高い……しかし……その最後尾、ジプシーめいた巻布装束姿、ひとりだけ異質に気だるげに歩く者あり。プラカードも持たず、コールに唱和もせず、渇き傷んだ長い髪に隠した目元を俯かせ、ただただ最後尾を歩いていく。
行進はしばらくは滞りなく進んでいた。通行人の無関心、あるいは明らかな蔑みの眼差しにもめげず、彼女たち活動家は決断的に歩んだ。道端に点々と立つマッポたちがとにかくも囲んで警棒で叩きたくて目を凝らしている。言い掛かりのつけどころを探っていた……その時。ちょっと風が吹き、ジプシーめいた参加者の巻布装束をふわりと煽った。何かが反射してキラリと光った。
「お前! 所持品検査執行!」「執行!」「黙秘権!」
マッポが一斉に群がり、標的を取り囲む。警棒が巻布装束を乱暴にまくると、
「グワーッ!」「アバーッ!」「アババーッ!!」
警棒を握ったままの腕が肘から先で切れて次々に乱れ飛んだ。尻もちをつき、ぽかんとしたまま事態を呑み込めずに惑うマッポたち。見咎めた不審者の姿は消えている……いや、つい一瞬前まで不審者がいた場所のアスファルトが抉れ、人ひとり通れるほどの穴が空いていた。尻もちをついたマッポは、尻の下の地面が地震めいて不可解に小刻みに揺れ出すのを覚えた。
「イヤーッ!」「アバーッ!」
直後、尻もちマッポの真下のアスファルトを抉り貫いて飛び出したのは忍者モンスター、姨捨土遁丸! アスファルトを下から粉砕した巨大爪がそのままマッポをネギトロ血霧へ変えた! 土中から飛び出してきたその姿はモグラめいて鼻の長い面頬、両手に鋼の爪、そして土色の装束であり実際モグラである! 警棒を捨てて震える手でチャカを構えるマッポたち。しかし、そこに銃声が轟くことは一発たりともなかった。
忍者スレイヤー少女 EP2
「頼む、この通りだッ!」
スケバンがサ店の床に額をつけて土下座! ここは梅太の家がやっているサ店であり、スケバンのすぐ前のカウンター席には益荒兌サキが座っている。
「あたいのアネキが死んだんだッ、昨日……アンタもニュース見ただろ、隣町、マッポとフィメール・デモの団体がひとり残らず路上でネギトロに……」
カウンター、アボガドクリームソーダの氷がカランと奥ゆかしく鳴る。サキはグラスのふちに刺さったアボガドをつまんで食べた。
「武田先輩のときと同じだッ、忍者の……こんなことッ、忍者のバケモノの仕業に決まってンだッ!」
スケバンが突然立ち上がり、サキの革ジャンの胸ぐらを掴む! そのままカウンター上へ背中を押し倒す! グラスが倒れ、クリームソーダが四散! グラスも落ちて四散! ナムサン、食べかけのアイスクリーム!
「だから頼むッ、アンタのあの力で、アネキの仇を……」
スケバンは怒りの半泣きになりながらサキの革ジャンのボタンを外し、はだけさせ、その腹に巻かれているあのベルトを確認した。VHSテイプほどもある大きなバックル、その中心に光る手裏剣。
「……わかった。アタシも忍者のバケモノ、だから。仇とったげる」
サキはスケバンをそっと押しやりながら答えた。助太刀の義理はない。しかし、身近な者を唐突に奪われた怒り、哀しみは、サキもよくわかった。自分には、この怒りをぶつけるやり場がなかった。事故死だったからだ。だが、スケバンにはそれがある。確かな仇がいる。手を貸す理由は、それだけで、いい。
「アッ、わりッ……あたい、バケモノなんてッ、そんなつもりじゃ……」
スケバンがうろたえ、また土下座しようとするのを、サキは遮った。
★
翌日! スケバンは特攻服を纏い、待ち合わせ場所のサ店の前へ五分前に着いた! ゾク車には「アネキ・フォーエバー」「忍者モンスター殺る」と書かれたノボリが風にはためく! そして時間通りに隣の自宅から出てきたサキも、母が遺したフルカウル六気筒バイクにまたがり、エンジンを吼えさせた。
走り出したふたりが向かうのは、また別の街で実行されるフィメール・デモ。神出鬼没の忍者モンスターを追う手掛かりはそれしかないのだ。サキは赤信号をちゃんと守って止まった。スケバンもしぶしぶながら止まった。赤信号で止まるゾク車など、通常であれば即座にムラハチである。しかしスケバンはサキを見やって、少しはにかむように笑った。サキもちょっと笑った。
やがて目的の街に入り、すでに行進を始めていた集団を見つけると、ふたりはバイクを停めて列の最後尾に参加した。「めげない」「マッポが悪い」「非暴力」といった先の事件を意識したプラカードも掲げられている。そして……サキは着いた瞬間からすでに、邪悪忍者モンスターの鼻息を感じ取っていた!
「匂う……剛強丸の血反吐……」
むろん、それは相手の忍者モンスターにとっても同じこと。ジプシーめいた女は振り向き、今やってきたばかりの少女ふたりへ向けて突然襲い掛かる!
「イヤーッ!」
サキがスケバンに抱き付き押し倒した、直後、宙を薙ぎ払うハガネの爪!
「イヤーッ!」
縦に振るわれる二撃目、すでにその姿は忍者モンスター姨捨土遁丸! サキはスケバンと一緒に転がって避けながら足払いをかける、が、跳躍回避!
(((変身せよ……ニンジャ・ドライバーを使え……)))
ベルトから伝わる声! そして土遁丸の爪追撃! サキは転がったまま両脚を振り上げ、ライダースブーツのかかとをモンスターの腕に横から叩き付けた! 狙いが逸れ、サキの腹のすぐ横のアスファルトに爪がめり込む!
「羅生門!」『ニンジャ・ゴウランガ』
サキの叫び、それに応えるように合成電子音声がベルトから放たれ、閃光が衝撃波と化して広がる!
「グワーッ!」「イヤーッ!」
吹っ飛ぶ土遁丸、変身した忍者スレイヤーが追いすがってケリ・キック! 土遁丸は重厚な見た目に似合わぬ身軽さで空中ブリッジ回避&後退、そのへんにいたデモ参加者を薙ぎ払い殺!
「ウワーッ!仇!」
我を忘れ駆け寄ろうとするスケバン、しかし忍者スレイヤーが割って入り、土遁丸を体当たりで遠ざける! 着地と同時にそのへんにいたマッポをツメ殺! 血飛沫を散らして暴れるその爪を忍者スレイヤーがチョップで粉砕!
「グワーッ!」「巻いていくよ!」
キック、ジャンプ、そしてチョップ、ジャンプ! 手刀が、脚先が土遁丸の肉にめり込むたび、噴き出す血が忍者スレイヤーの白装束を赤に染める! やぶれかぶれで暴れる土遁丸、マッポとかが巻き添え死! 装束が赤に染まるほどに漲る力、張り裂けんばかりの鼓動脈動!
「カイシャク、きめる!」
真っ赤になった忍者はブリッジでツメの横振りを避け、キックにキックを絡めて動きを封じ、ベルトの手裏剣が高速回転! 土遁丸の胸、豊満なバストの谷間ど真ん中をチョップ突きで貫いた!
「アバッ……サヨナラ!」
爆発四散! 残心ポーズ! そして悲鳴!
「ンアーッ!!」
スケバンの声! 忍者スレイヤーが慌てて悲鳴のほうを見ると、死屍累々となった路上の端、うつぶせに倒れたスケバンが背を踏みつけられて呻いていた。新手の忍者モンスターか? いや、少なくとも今はまだ人間の姿のその襲撃者は……
「サキ……そのベルトを返しなさい」
忍者スレイヤーは……サキは、呻いた。スケバンの背を踏んでこちらを見ている人物、それは、十年前に事故死したはずのオフクロ。土遁丸のとよく似た巻布装束、そして、彼女の腰には、サキのニンジャ・ドライバーとよく似たベルトが巻かれている。
「サキ。お友達の背骨が砕ける前に。早くよこすのよ」
時が巻き戻ったかのよう。彼女は若くして死んだときのままの姿、はたから見れば親子ではなく姉妹にしか思えないほどだ。オフクロは自身のベルトに触れ、五つ棘の星型の手裏剣を回転させた。『ニンジャ・ブッダファック』機械合成音声が無感情に告げ、閃光を解き放った。
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