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【読書記録】〝永田町小町バトル〟西條奈加 著

 みなさんこんにちは、こんばんは、そしておはようございます。
 人生のB面に入ってから読書に目覚めたオヤジ、タルシル・ヨムノスキーです。

 みなさんは政治に興味はありますか?
 こう質問されて「はい、あります!」と答える人はそんなに多くはないと思います。
 それは、いろいろ問題はあるけれど、表面上は何とかこの国が微妙なバランスを保ちつつも成り立っているから。これがもし、政治家の横暴で国内が大荒れに荒れて国民一人ひとりの人権が無視され、命が軽々しく扱われるようになったら、選挙の投票率はグッと上がるのではないかと思います。まぁそういうことになったら、選挙がまともに機能するかは疑問ですが。
 そんな偉そうなことを言う私も、選挙は一応毎回投票はするものの、立候補者のマニュフェストをきちんと読んで、その候補者の志を理解して投票しているかというと…。

 前置きが長くなりましたが、今回紹介するのは、西條奈加さんの〝永田町小町バトル〟です。

永田町小町バトル/西條奈加 著
【内容紹介】
「夜の銀座」専門の託児施設を立ち上げた行動力を買われて出馬、初当選した芹沢小町。現役キャバクラ嬢でシングルマザーという経歴、物怖じしないキャラクターがメディアで話題となり、働く母親達を中心に熱い支持を集めている。ひとり親家庭、貧困、埋まらない男女格差。“ジェンダー不平等国”ニッポンに、小町のパワーは風穴を開けられるのか!?
裏表紙より

 タイトル、そしてポップでキャッチーな書影と、主人公が現役キャバ嬢の国会議員、しかもライバルが同性の二世議員という設定から、勝手に三谷幸喜さんの映画のような、永田町を舞台にしたドタバタ痛快政治コメディみたいな物語かと思いきや、まったくそんなことはなく、至って真摯に現代日本が抱える少子化問題、待機児童問題、子どもの貧困問題に真っ向から切り込んだ物語でした。この物語を読めばそれぞれの問題が何故起こっているのか、どんな現状なのかがとても詳しく解説されていて、とても勉強になりました。
 この知らない知識を無理なく獲得できるというのも物語の良さだと、私は思っています。

 まず目を引くのが主人公・小町の行動力。夫と離婚しシングルマザーとなった彼女は、娘と生きていくためにキャバ嬢という夜の仕事を選ぶわけですが、ここで夜間に娘を預かってくれる場所がないことに気づきます。そんな時小町はどうしたか?
 「無いなら自分で作っちゃえ!」とばかりに、あれよあれよと言う間に夜のお仕事の人たちが安心して子供を預けられる夜間の保育所を立ち上げ、昼間はその場所で子育てに関する悩みを聴き解決をサポートするNPO法人を立ち上げてしまうんです。このバイタリティの延長線上にあったのが国会議員。まぁ国会議員は無理だとしても、たとえ小さなことでも、思ったことは実行してみると言う姿勢は、何歳になっても必要だと感じました。
 最後には絶対に通らない法案をどうやって通していくか。この辺りが一番の読みどころだと思います。

 この物語には主人公の小町以外にも魅力的なキャラがたくさん登場します。
 まずはやっぱり物語には欠かせないライバルの存在。小町と同じ新人議員の小野塚遼子。彼女は名門大学卒で外資系の証券会社勤務のエリート。しかも祖父が総理大臣で、父も曽祖父も与党議員の重職を経験しているといういわゆる政界のサラブレッドという、いわば小町とは真逆の設定。この二人がどう関わっていくのかと言うのも、この物語の楽しみの一つです。
 そして小町を支える秘書の面々。まずは小町の第一秘書・遠田瑠美。彼女は小町が働いているお店の同僚で、大企業の秘書経験者。第二秘書の柴野原稔は、与党議員の秘書の経験があり、芹沢小町事務所のブレイン的存在。そして政策秘書の高花田新之助はちょっと頼りないところもあるけれど頭脳明晰な青年。この他にも二人の私設秘書がいて小町をバックアップしています。この5人のチームワークがとにかく素晴らしい。

 読み終えてまず感じたことは「この後一体どうなるのか?」ということでした。小町は物語の中で「どうせイロモノなんだから、派手に花火を上げて去っていく」みたいなこと何度も言っていますが、これだけ行動力と影響力がある議員さんが一期だけで政界を去るのはもったいなく感じます。どうせなら日本初の女性総理大臣とまではいかなくても、ライバルの小野塚さんと共闘して、永田町に巣食う魑魅魍魎をバッサバッサと叩き切ってほしい。続編を強く熱望します。


 ここからは面白くてためになる政治エンタメ小説をピックアップしてみます。

衆愚の果て/高島哲夫 著
【内容紹介】
 無職の二十七歳、大場が衆議院議員になった。二千万円超えの年収、都心の一等地に立つ宿舎、海外視察費約二百万円など、特権を手にして歓喜する。だが、多すぎる議員数や手厚い議員年金など、自身の身を削らずに国民にばかり負担を強いる政治家に次第に嫌悪感を抱き、自ら制度改革に動き出す…。政界の実態を抉る痛快エンタテインメント。
裏表紙より

 モデルはやっぱり○村●蔵さん?
 暴走族上がりでプータローだった主人公が、たまたま見つけた政党の候補者募集に応募。合格し、比例区で当選するところから始まる物語。物語の中で「ファーストフード店の店員でも政治家はできるけど、政治家にファーストフード店の店員はできない」みたいな例えがあって、妙に納得。文庫化する前の単行本のタイトルが〝タナボタ!〟というのが衝撃的。

国会議員基礎テスト/黒野伸一 著
【内容紹介】
 三世議員の黒部優太郎は自身の相次ぐスキャンダルと、自らが政治家になるという野望を隠さなくなった秘書の橋本が周到に準備した策略にはまり、議員辞職を余儀なくされた。橋本は補欠選挙を勝ち抜き、晴れて代議士となる。三権分立のうち、一番大切な立法を担う国会議員にだけ試験がないことに疑問を感じていた橋本は、政治家にも資格試験を義務化する「国会議員基礎テスト」法案の立法に向けて邁進するのだがー。モラルの低下を問われて久しい国会議員の在り方に一石を投じる、まさに全国民必読の政治エンタテインメント。
裏表紙より

 なかなか衝撃的なタイトルで思わず手に取リマした。内容は簡単に言ってしまえば、見てくれはいいが中身はない3世議員が、一度どん底に落ちて再生するという物語。「公務員や裁判官には試験があるのに、政治家には試験がない」という言葉は眼から鱗でしたが、単に「政治家になるために試験が必要」と言い切っているわけではないところがこの物語のすごいところだと思います。合言葉は「ブラック国家撲滅!!」

総理にされた男/中山七里
【内容紹介】
 「しばらく総理の替え玉をやってくれ」-総理そっくりの容姿に目をつけられ、俺は官房長官に引っさらわれた。意識不明の総理の代理だというが、政治知識なんて俺はかけらも持ってない。突如総理にされた売れない役者・加納へ次々に課される、野党や官僚との対決に、海外で起こる史上最悪の事件!?怒涛の展開で政治経済外交に至る日本の論点が一挙にわかる、痛快エンタメ小説!
裏表紙より

 総理大臣が病に倒れ、その代役として総理のモノマネを売りにしていた売れない舞台俳優が、突然総理の替え玉として国民の前に立つという、これまた三谷幸喜さんお得意のコメディを想像してしまいましたが、読んでみれば至って真面目な政治小説でした。かと言って堅苦しくはなく政治の仕組みや今の日本が抱える問題を素人にもわかりやすく解説してくれています。恥ずかしながらこの歳にして党三役も答えられ奈買った自分としては、ある意味教科書的な物語でした。最終的にはなんとかボロを出さずに難局を乗り切ったものの、この後どうなる?どうする替え玉総理。

 いかがでしたか?
 一見敷居が高いように感じる政治問題ですが、物語として読むと想像よりもすんなり心に入ってきます。
 興味のある方は、ぜひ手に取ってみてください。

 最後に、
 「読書って、いいよね!」


【この記事で紹介した本】
タイトル:永田町小町バトル
著者:西條奈加
出版社:実業之日本社
レーベル:実業之日本社文庫
ページ数:448
解説:斎藤美奈子(文芸評論家)

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