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神田ひっそりマウント酒

大手町の端の方で仕事を終えたので、
近くにある神田・稲荷湯へ行く。
ここ1年ほど銭湯が好きで、
さまざまなところに行っている。
ただ、サウナは苦手なので、
湯舟だけを楽しんでいる。
割と少数派だと思う。

すべての湯舟を楽しみ、スーツから私服に着替える。
楽しく酒を飲みたいときは私服でなければ落ち着かないため、
「今日は飲む日!」と定めたときは、
リュックの中に着替えを忍ばせることが習慣になっている。

銭湯から5分ほど歩く。
東京最古の居酒屋と言われている「みますや」に着く。
写真は何度も見ていた店で、
実際に入ってみると、居酒屋らしい喧騒がすぐに耳に飛び込んでくる。
店員さんは忙しそうに動き回っており、
存在に気付いてもらうまで少し時間がかかった。
会社の人と来ているか、カップル、友人と一緒にいる人しかおらず、
この日は唯一の一人客だった。申し訳ない。
一人でも良いか聞くと、少し悩んで隅っこのような場所に案内された。
入れただけでもありがたいものの、
この日は、ひとりで座っていると少し悪目立ちをしていたため、
若干の気まずさは感じる。
隣の席は4人組で、たぶん別会社の人同士で打ち上げだろうか。
少しこちらを見てから会話に戻っていく。

メニューを見る。
文字はすべて手書きで、
食事の方は少し年季が入っている。
まずは、日本酒の『神亀』(銘柄しか記載していない)を1合と、
アナゴの煮つけ、串焼きを頼む。
付き出しはめかぶが来る。
日本酒はまろやかな辛さで、料理とよく合う。
アナゴもちょうどよい甘さで酒と合う。
串焼きはただただ旨い。

一人で楽しく飲んでいると、
隣の会話が漏れ聞こえてくる。
映画の話だろうか。
「黒澤とか見なきゃだめよ、ほんと」と、たぶんおじさん。
その後もこの映画が名作で、
今の作品は良くないと豪語していた。
正面には若い人が座っており、
「そうですよね・・・」とだけ返事をしている。
大変だなあ、と思いながら日本酒を飲む。
若い人は瓶ビールが無くなると注文し、
それを注いで回っていた。

神亀が無くなったので、
『南部美人』(銘柄しか記載していない)と焼きおにぎりを注文する。
日本酒は旨さと辛みのバランスが良く、
これも料理とよく合う。
焼きおにぎりにはみそ汁も付いてきた。
焼きおにぎりはカリっと香ばしく、
みそ汁は素朴な旨さが身に染みる。
日本酒との相性も良い。

隣では唐揚げや桜肉などを注文しており、
おじさんはどんどんと盛り上がっていく。
若い人へのマウントも続く。
大変だなあ。
一方の私は、ただ好きなものを好きなように食べ、
ぼんやりと周りの雰囲気を楽しめている。
これも一人飲みの醍醐味だ。
入店時は気まずかったが、
酔いも進んだのだろう、
周囲に気を使いながら飲むよりも断然楽しい。
店の雰囲気もあるだろう、
緩やかに時間が過ぎるのが心地よかった。

店を出るとき、
女性の店員さんが
忙しいにも関わらず笑顔で送り出してくれる。
一人暖簾をくぐり、
暖かな気持ちのまま次の店に向かう。

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