僕の殻を割った君へ
綺麗な顔だと言われるのが怖かった。
第一印象が内面までも勝手な想像で固められ、
顔が良いから頭がいい、優しい、冷たそう、何でも出来そう、期待と敬遠に囲まれて過ごすのが苦痛で、それに拍車をかけていたのが期待を裏切る事が出来ずに無理やりにでも応えようとする自分だった。
本当は一緒にいたくない人とも傷付けるのが嫌だったから一緒にいた。その内、どれが本当の自分の気持ちなのか分からなくなってしまった。
特に学生時代の恋愛なんて酷いもので、何番目でも良いから付き合って!なんて言葉を何度聞いて受け入れたか分からない。付き合ってみたら、『もっと派手なタイプかと思った』などど勝手に落胆されて顔だけ恋愛は自然消滅の繰り返しだった。
「おはよう、テヒョナ。どうしたん、変な顔して」
キッチンに入ると卵の焼ける音とトーストを用意しようとしているジミンが気遣ってくれる。ラフなシャツに細身のパンツの上にエプロンを着けたジミンの背後に周り細い肩に顎を載せる。
しっとりした肌から落ち着く甘い香りがして鼻先を首筋に埋めて吸い込む。
「もっと言って」
「何を?なんなん?」
慌てながらも持ってるフライ返しが顔に当たらないように遠ざけるジミンに笑うと吐息が擽ったいのか竦める身体を抱き締める。
「変な顔ってとこ」
「そこなの?」
「めっちゃ落ち着く」
「……マジでどうしたんだよ、お兄ちゃん話くらい聞くよ?」
「身体で?」
「僕らいつからそんな関係だっけ?」
「……あと一歩です」
「あと一歩!ウケる」
学生時代の負の坩堝を打破してくれたのはジミンの今と同じ「変な顔」という言葉だった。
放課後、人の居なくなった教室に残ったまま机に頬杖をついていたテヒョンが呆気に取られていると前の席から椅子を引っ張ってきて目の前に座ったのは色白で目の細い男子、それがパク・ジミンだった。
「具合でも悪いの?」
ああ、変な顔ってそういう意味か。変にほっとして頭を振って別にと答えると途端に彼の顔が明るくなる。なんと言うか、今まであんまり関わった事ないけどころころ変わる表情は魅力的だ。
「良かった!実は此処に西面に新しく出来たクレープ屋さんのサービスチケットが4枚ありまして。テヒョン一緒に行かない?」
女子に人気のある男子は男子から嫌われる。正にそんな状態で友人の少なかったテヒョンはこうして男子から遊びに誘われることに戸惑い、差し出されたチケットとジミンの顔で視線をさ迷わせた。答えないテヒョンに次第に気落ちしていくジミンに慌てて「行く!」と答えた。それは、テヒョンが初めて傷付けたくない以外の感情で出たジミンと一緒に遊びたいという本心だった。
「そんな深刻だったんだ、あの時のお前」
ジミンが焼いてくれた目玉焼きとハムが乗った白い皿にサラダを添えてトーストと一緒にテーブルに運び、スープとホットミルクを受け取る。
ジミンも珈琲を持ってテヒョンの向かいに座る。
今明かされる学生時代のテヒョンの心情にジミン
は少し驚いたようだった。
「そうだよ。学校の男友達と学校の外で遊んだんも初めてだった」
「後から友達めっちゃできたやん」
「ジミナのお陰」
「顔芸のテヒョンが開花したしな」
「感謝してる」
「お前の変顔好きだけどさ」
「取り巻きの女子は減ったな」
「男子は増えたな」
思わず二人して笑いだしてしまう。
貼り付けられた固定概念を引き剥がして、ありのままの自分で過ごせるきっかけをくれたのはジミンだった。ジミンが自分を変えてくれた、学校を卒業するまでに親友とまで言える程になった。
卒業してからは連絡は取り合ってもそれぞれ仕事の為に会う頻度は少なくなっていった。
そんな中で同じタイミングでソウルに越す事になったのは偶然だけど家賃と生活費抑える為に一緒に暮らそうという口実通りにテヒョンはルームシェアを持ち掛けた訳じゃない。
「ジミナ、俺の事好き?」
「好きだよ、何で?」
ああ、やっぱり。テヒョンは自分の中にある抗えない感情を認める。
「あと一歩、踏み込もうと思って」
終
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