(株)中央経済社ホールディングスの現状と課題について(無料版)
こちらの投稿は、2024年6月に公開した同タイトルの記事の無料版になります。基本的には全文同じなのですが、体裁直したり画像を貼り付けたりするのが手間なので、テキストのコピペのみとさせていただいております。体裁崩れなど発生しているかもしれませんが、細かな確認まではしておりません。読みにくい部分もあるかと思いますが、ご容赦ください。
無料公開に至った理由ですが、12月に行われる株主総会に向けて株主提案を実施した中で、基礎データであったり考え方であったりという部分について、こちらの見方を共有したいのと、株主様におかれましては是非とも株主提案をご検討いただければ、という意図です。図とかも含めて見たい、という方はすいませんが買ってください…。印刷用のWordからnoteに変換するの、めちゃめちゃ手間かかるので…
以下、本編です。
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この資料及び資料に含まれる情報(以下、「本資料」)は、(株)中央経済社ホールディングス(以下、「中央経済社」)の株主である渡辺敏行(以下、「作成者」)が中央経済社の経営陣に質問・要請・議論するための基盤資料として作成したものになります。
作成者は、2024年4月23日提出の大量保有報告書にあるように、中央経済社株式の5%を保有する個人投資家です。同日時点で中央経済社と経済的利害関係を有しているだけでなく、将来においても株式を保有、または経済的利害関係を有する可能性があります。
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免責事項(ディスクレーマー)は以上です。
エグゼクティブサマリー
この資料及び資料に含まれる情報(以下、「本資料」)は、(株)中央経済社ホールディングス(以下、「中央経済社」)の株主である渡辺敏行(以下、「作成者」)が中央経済社の経営陣に質問・要請・議論するための基盤資料として作成したものになります。
はじめに、作成者は中央経済社の持つ資産(IP、不動産、現金同等物)を高く評価している一方、企業価値の向上・株式市場における評価が改善されない状態に強い不満を抱いています。
中央経済社の株価は、過去10年間にわたってPBR1倍割れが継続しています。PBR1倍割れとは、市場から解散価値以下の評価をされているということであり、10年という長期にわたり企業価値の向上が実現できていないということに他なりません。2024年2月には日経平均株価が約34年ぶりにバブル絶頂期の水準を超えたにも関わらず、中央経済社の企業価値・株式市場における評価は2024年5月末の終値で530円、PBR 0.46(2023年9月末における株価:453円・PBR0.395、2024年3月末における株価:525円・PBR0.458)にとどまっています。この水準は、東京証券取引所より2023年3月31日付で公表された「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願いについて」において「プライム市場・スタンダード市場の全上場会社が対象」とされている「プライム市場の約半数、スタンダード市場の約6割の上場会社がROE8%未満、PBR1倍割れと、資本収益性や成長性といった観点で課題がある状況」の指摘に当てはまるように「今後の各社の企業価値向上の実現に向けて、経営者の資本コストや株価に対する意識改革が必要」であり、至急是正に向けた改革を行う必要があります。
出典:日本取引所グループ「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願いについて」(赤枠は作成者による追記)
https://www.jpx.co.jp/news/1020/20230331-01.html
そもそも、中央経済社の有価証券報告書にあるように、中央経済社は「経営の基本方針」として【当社グループは、企業経営に関する書籍・雑誌の出版を通して社会活動に参画し、その発展に貢献することを基本理念としております。1948年の創業以来、この理念に根ざした真摯な姿勢は高く評価され、出版物は広く世に受け入れられてきました。今後も経営、経済、法律、会計、税務、情報など広範にわたる企業実務のすべてを取り扱う専門出版社としての社会的役割を十分に認識しながら、読者からの信頼を拠り所にして企業価値を一層高めてまいります。】とする企業体です。
経営・会計などの知見を有しているはずの出版社が、自社の企業価値については上場取引所からの要請すら満たせない状況で、どのように読者の信頼を得ることができるのでしょうか。昨年7月には雑誌にて「PBR1倍割れ」問題の特集をしていますが、自社のPBR1倍割れが10年以上も継続している状況を改善するのが先だったのではないでしょうか。
出典:企業会計2023年8月号(中央経済社刊)
中央経済社は2023年5月25日に「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」と題して現状の課題認識と対応策を公表していますが、一年以上が経過した2024年5月末時点においてもPBRは1倍に大きく届かない状況が継続しています。
出典:中央経済社「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」(赤枠は作成者追記)
https://www.chuokeizai.co.jp/ir/press/pbr/
このような状況を改善するために、作成者は経営陣に対し、ROE8%、DOE2%、PBR1を最低目標とした中期経営計画の策定を強く求めます。中央経済社の取締役は2015年9月期より『代表取締役最高顧問・山本時男、代表取締役会長・山本継、代表取締役社長・山本憲央、取締役・松尾武(いずれも敬称略)』というメンバーで構成されていますが、直近10年における中長期的な企業価値の向上実現はおろか、数値目標を株主と共有することすらできていません。
この中期経営計画策定をはじめとし、作成者は以下の6項目を早急に実現すべきだと考えています。
中期経営計画の策定と取締役のコミットメント
組織体制と経営報酬の見直し
株主優待の中止と中間配当の開始(増配)
保有不動産資産の圧縮
労働生産性の向上
デジタルへの投資
なお、作成者は本資料をもとに経営陣と対話・議論を進め、中央経済社の中長期的な企業価値の向上と中央経済社のステークホルダー(作成者は上場企業におけるステークホルダーを「株主・経営陣・従業員・ユーザー」のコミュニティだと定義しています)にとって意義のある将来像を提起していきます。
表1:過去10年間の年度末(9月末)における日経平均・TOPIX・時価総額・PBR・売上高・営業利益
(中央経済社の有価証券報告書、Yahoo!ファイナンス等のデータを元に本書作成者が作成)
・中央経済社の企業価値について
作成者は中央経済社の持つ資産(IP、不動産、現金同等物)を高く評価しており、2023年9月末時点における中央経済社本来の企業価値について、54.84〜73.6億円と評価しています。
評価の内訳について説明します。2024年5月末現在、中央経済社は100%子会社を4社持つホールディングスとなっており、以下のような構成となっています(2024年3月に株式会社CKDを吸収合併したため、2023年9月の決算短信には5社と記載)。
出典:中央経済社HP「会社案内」
https://www.chuokeizai.co.jp/company/organize.html
2023年9月期 決算短信における「セグメント情報」において「当社グループは、全セグメントに占める『出版事業』の割合が高く、開示情報としての重要性が乏しいことから、事業セグメントは単一と判断し、記載を省略しております。」と説明されているように、4社を含む業務セグメントは単一の出版事業から成り立っています*1。出版事業の直近10期(2014年9月期〜2023年9月期)における業績の平均値は、売上高が約31億円、営業利益は約9800万円と安定しており、コロナ禍の最中を含め、一度も営業赤字になっていません。作成者は、これらの事業規模及び過去の出版物やブランドを勘案し、保有資産(現金・不動産等)を別に15億円と評価しています。
*1出典:2023年9月期 中央経済社決算短信より
この評価額は、インプレスホールディングスによるイカロス出版の買収額を参考としています。2021年の買収当時、イカロス出版の年間売上高13億2700万円、買収金額は13億6900万円とされています。当時、イカロス出版の2021年6月期決算(見込み)は、純資産1305、総資産1779、売上高1240、営業利益-26、経常利益-15、当期純利益-15(いずれも単位は百万円)。2019年6月期より3期連続で営業赤字となっていたにもかかわらず、売上高及び純資産額を上回る金額にて買収が行われました。
出典:インプレスHD「イカロス出版株式会社の株式取得(完全子会社化)に関するお知らせ」
https://www.impressholdings.com/pdf.php?neid=559
他にも、大手教育出版社のベネッセHDによるMBOも挙げられます。こちらは時価総額にして約2660億円という大型案件ですが、ベネッセHDの2024年5月期における売上高は4100億円、営業利益202億円、PER38.9、PBR1.58(参考までに、自己資本比率30%、一株あたり純資産1642.88円)という数字です。
このような事例を勘案し、売上高30億円、営業利益1億円とした場合の中央経済社の出版事業について15億円という評価をしています。
次に、保有資産についてです。有価証券報告書を見てみると、「出版業界では、長年市場規模の縮小が続いて」という記載があるものの、中央経済社の資産状況は安定しています。2023年9月末の時点で現金及び預金13.6億円(1,363,481千円)、投資有価証券2.8億円(280,319千円)を保有しています。
これに対して、借入金(2023年に竣工した自社ビルの建築費だと思われます)は4.8億円(482,326千円)にとどまっており、借金を一括返済しても11.6億円(現預金13.6+投資有価証券2.8-借入金4.8)の現金同等物が手元に残る計算になります。実際には2024年9月期に旧本社ビルの解体等に伴い2億円(205百万円)の赤字計上を予定していますが、それを勘案しても時価総額の半分、10億円弱の現預金を保有している計算になります。また、2023年9月末(当時の日経平均株価は31872.52円)と比較して世界的に株価は上昇しており、2024年5月末時点でEIDハノイ・みずほFGは20%、東京エレクトロンは50%以上株価が上昇しています。
出典:中央経済社「有価証券報告書-第86期(2022/10/01-2023/09/30)」
さらに、中央経済社は東京都千代田区神田神保町に二つの優良不動産を保有しています。2023年まで使用していた旧本社の不動産資産(以下、「旧本社))は神保町駅A7/A9出口から至近、大通り(白山通り)に面した約522平米の土地であり、大通りを挟み集英社の入る神保町ビルがあります。こちらの評価額を試算するに当たっては、令和6年の地価公示(千代田5-27:千代田区神田神保町2丁目2番15)が参考になります。この地価公示対象物件は、神保町駅0m、前面道路33m、建蔽率80%、容積率700%の地積163平方メートルの物件(下図赤丸1)です。令和6年におけるこの地価公示価格は5,750千円(年間変化率は+6.5%)。千代田区都市計画図によると、中央経済社保有の旧本社と同等の建蔽率・容積率となっているため、単純な試算で522.74*5,750=3005755千円、つまり30億円強の資産価値として計算できます。
出典:地価ランキングマップ(令和6年地価公示&令和5年地価調査)を元に作成者追記
http://www.tikara.jp/rank/ranking_map.cgi
出典:東京都・財務局 令和6年地価公示価格
https://www.zaimu.metro.tokyo.lg.jp/kijunchi/chikakouji/R6kouji/
近隣の物件事例を参考にすると、旧本社と通りを2本挟み、「いちごオフィスリート投資法人(旧クリード・オフィス投資法人)」保有の「いちご神保町ビル」があります。いちごオフィスリート投資法人の第36期有価証券報告書(2023年5月1日〜2023年10月31日)及び第36期 資産運用報告によると、いちご神保町ビルは敷地面積399.73平方メートル、延べ床面積2586.94平方メートル、B2F/11Fの1994年3月竣工物件です。同報告書によると、この物件の期末評価額は2370百万円となっており、これを中央経済社の敷地面積に当てはめると、522.74/399.73*2370=3099百万円、約31億円の評価額として試算できます。
出典:いちごオフィスリート投資法人「第36期 資産運用報告(2023年5月1日〜2023年10月31日)」(赤枠は作成者による追記)
https://www.ichigo-office.co.jp/portfolio/O-16.html
https://www.ichigo-office.co.jp/ir/news/news_file/file/IchigoOffice_36th_Shisan_Unyo_Hokoku_JPN.pdf
旧本社は更地となるため厳密な数字にはなりませんが、用途及び建蔽率・容積率等の不動産価値を勘案し、30〜31億円という評価額はある程度の信頼性を持つと考えています。なお、中央経済社の2023年9月期有価証券報告書によると、旧社屋の土地建物を保有していた株式会社CKDにおける帳簿価格は2.5億円(建物との合計256,109千円、うち土地が245,369千円)となっており、27.5億円以上、つまり中央経済社の時価総額を超える含み益が発生していると考えられます。
出典:中央経済社「有価証券報告書-第86期(2022/10/01-2023/09/30)」
最後に、2023年に竣工した新本社ビル(以下、新本社)、敷地面積307.04平方メートル1、延床面積1,711.3平方メートル2については、竣工よりそれほど経過していないことから、2023年9月末の帳簿価格17億円(合計1,699,797千円、うち建物955,459千円、土地682,175千円)と評価します。ただし、神保町駅周辺は2024年地価公示にて全地点で6%以上の上昇率を記録しており、帳簿価格と比較しても評価額が上昇している可能性が高いと認識しております。
*1出典;中央経済社2021年プレスリリース「固定資産の取得(新社屋建設)に関するお知らせ」
https://www.chuokeizai.co.jp/pdf/press/20211021.pdf
*2出典:TOKYO BEST OFFICE「株式会社中央経済社ホールディングスオフィスビル」
https://best-tokyo.com/office/items/18048
その他、柏倉庫などの資産については金額規模が小さいため以上の内容にて保有資産を合計した場合、出版事業15億円+現金同等物11.6億円+旧本社30億円+新本社17億円=73.6億円となります。もし事業を解散する仮定で出版事業及び過去の知的財産(IP)を0円と評価し、不動産評価額については2024年5月末における「いちごオフィスリート投資法人(東証8975)」のNAV倍率を参考に0.92倍に減価しても43.24億円((30+17)*0.92=43.24)。現金同等物11.6億円との資産合計は54.84億円となり、まず中央経済社の時価総額がこれを下回るようであれば、会社の解散を検討するべきではないかと考えられます。
なお、上記試算に基づき、保有資産等の合計評価額を73.6億円とした場合の1株あたり資産額は1673円、評価額54.84億円と試算した場合の1株あたり資産額は1246円となります。日本取引所グループが公開しているPER・PBR一覧(2024年5月末)ではスタンダード市場の単純PBRは1.0倍、加重PBR1.3倍*1となっており、経営陣には早々にこのPBRを超える企業価値の創造を行なう必要があります。
*1出典:日本取引所グループ「規模別・業種別PER・PBR(連結・単体)一覧」
https://www.jpx.co.jp/markets/statistics-equities/misc/04.html
中央経済社の企業価値について、作成者の評価額とその根拠を示してきました。ここからは、中央経済社の現状と課題について、改革が必要と考える6つの項目について記していきます。
1.中期経営計画の策定と取締役のコミットメント
中央経済社の取締役には、ROE・ROIC・PBR・DOEといった明確な数値目標を記載し、3年間、5年間といった期間における中期経営計画を作成、公表するよう求めます。また数値目標の達成に責任を持ち、未達の場合は報酬の返上や取締役辞任などを自主的に行なってください。
2024年5月末時点において、中央経済社は各種経営指標に基づいた中期経営計画の作成有無について公表していません。表2のように過去10年で経営体制に変化がないにも関わらず、どのように企業価値を向上させていくのか、企業としてのロードマップも無く、明確な目標数値が説明されていません。またROEやPBRといった指標となる数値を公表しないままでは、株主として経営陣の続投を採否する判断材料に欠けると言わざるを得ません。
表2:直近10期における中央経済社の取締役体制
(有価証券報告書を元に本書作成者が作成)
どのように企業価値を高めていくかについて、経営陣は具体的なロードマップを作成し公表してください。その中には当然経営陣はその数字に対するコミットメント(安易な下方修正は許されない)することを続投の条件として求めます。なお、これらは作成者独自の案ではなく、株式会社東京証券取引所より公表されている「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」に記載があるように、中央経済社の一株主が考える特殊な要求ではなく、すでに多くの上場企業で取り組まれている、一般的な話です。
出典:日本取引所グループ「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」(赤枠は作成者による追記)
https://www.jpx.co.jp/news/1020/20230331-01.html
その上で、中期経営計画においては、3年以内にROE 8%以上、PBR 1倍以上、DOE 2.0%以上を最低限の定量目標として定めることを求めます。(DOE:株主資本配当率=年間配当総額÷株主資本×100%)
特にPBR1倍=解散価値については、前述の資料に「PBR1倍割れは、資本コストを上回る資本収益性を達成できていない、あるいは、成長性が投資者から十分に評価されていないことが示唆される1つの目安」とあるように、中央経済社が上場を維持していくためには最低限の数値であると言えます。なお、中期経営計画においては新本社・旧本社について帳簿価格のみならず、不動産評価額を記載し、中央経済社の保有資産についてより透明化を進めることも併せて要求します。
参考までに、2023年9月末の株主資本(4,173,141千円)から試算した上記指標は、純利益ROE8%で約3.3億円(333,851千円)、PBR=1倍で株価1141円、年間配当DOE2%で22.8円となります。これらの数字を、今後3年間で達成するための方策を検討・公表してください。
2.組織体制と経営報酬の見直し
複数の役員が兼任している持株会社体制から単体企業に移行し、役員報酬総額を2023年9月期の単体役員報酬総額まで引き下げてください。
中央経済社は2016年に持株会社体制へ移行し、現在は子会社4社を含む5社でのグループ構成になっています。しかしながら、ホールディングスの社員数および規模と比較して子会社の役員数および報酬が不透明な上に高額となっています。2023年9月末の時点では株式会社中央経済社(および中央系グループパブリッシング)の社員数67名に対し、(株)プランニングセンターは従業員数2名・役員の兼任1名。(株)CKDは従業員数4名・役員の兼任2名(なお、CKDは2024年に吸収合併)。(株)シーオーツーが従業員数21名・役員の兼任2名。いずれも100%子会社であり、本社所在地が同じであるだけではなく、役員の兼任が複数行われ、別会社化する意義に疑問の残る状況となっています。
出典:中央経済社「有価証券報告書-第86期(2022/10/01-2023/09/30)」(赤枠は作成者による追記)
持株会社体制における役員報酬についても、中央経済社単体での役員報酬総額50,934千円(23年9月度・有価証券報告書p.35)に対し、連結での役員報酬総額が92,283千円(23年9月度・有価証券報告書p.40)計上されています。複数の役員が兼任であるにもかかわらず、41,349千円もの連結役員報酬が計上されていることは、持株会社体制に起因する無用なコストと言わざるを得ません。100%子会社であるプランニングセンターが保有している自社株(2023年度末5.5%、25万株)についても、配当支払い時に課税対象となるため、無駄なキャッシュアウトが発生していることになります。
他企業を見てみると、東証スタンダード市場に上場しているインプレスホールディングスは連結の売上高約151億円・従業員数689名と中央経済社の5倍近い規模ですが、2022年度の役員報酬総額は160,302千円、2023年度は142,839千円(インプレスHD有価証券報告書-第31期 2022/4/01-2023/3/31)でしかありません。また、より規模の近い企業としてはグロース市場に上場するnote株式会社(23年11月期の売上高2,777百万円)が社員数163名の単体企業ですが、役員3名及び社外取締役の2023年度報酬総額は41400千円にとどまっています(note有価証券報告書-第12期 2022/12/01-2023/11/30)。
役員報酬は各期の営業利益・純利益に直接の影響を及ぼします。日本総研によると、上場企業における各社の当期純利益に対する役員報酬総額の割合は中央値で6.1%でしかありません*1。表3に示すように、中央経済社における役員報酬総額割合は、対営業利益比で104.05%、純利益比率では160.22%(いずれも最終赤字となった2020年度を除く)となっており、明らかに過剰な報酬割合といえます。
*1出典:日本総研「東証一部・二部上場企業における役員報酬の支給実態調査(2021年度版)」(赤枠は作成者による追記)
https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/column/opinion/detail/20220517_aya.pdf
表3:過去10期の売上、営業利益、純利益、及び役員報酬総額と営業利益・純利益に対する割合
(中央経済社の有価証券報告書を元に本書作成者が作成)
このような状況を勘案すると、中央経済社は持株会社体制を廃止して役員報酬総額を抑えるとともに、利益に応じた業績連動型の役員報酬制度に移行する必要があると考えます。併せて役員退職金・慰労金等の制度も廃止し、100%子会社のプランニングセンターが保有する自社株も株主還元の一環として消却するべきです。
3.株主優待の中止と中間配当の開始
検討の終わらない株主優待は中止し、前項にて指摘した役員報酬の減額分を原資に中間配当を年10円に増額してください。
中央経済社は2023/12/07に公表されたIR「株主優待制度実施に関するお知らせ」にもあるように、取締役会にて株主優待の検討をしているようです。本来であれば、株主として株主優待の実施は歓迎すべきことですが、すでに公表から6ヶ月以上が経過しており、これでは取締役会の貴重な時間を浪費していると言わざるを得ません。特に、同資料3に「株主優待制度の実施に伴う業績への影響は軽微なものと見込んでおります。」との記載があるにも関わらず、長期にわたり決定・公開できない取締役会の状況には疑問を抱かざるを得ません。
出典:中央経済社「株主優待制度実施に関するお知らせ(2023年12月7日)」
https://www.chuokeizai.co.jp/ir/press/pdf/20231207kabunushiyutai.pdf
株主優待を新設することで、年度末等に向けた短期的な株価の上昇は見込まれるかもしれません。しかし、「業績への影響が軽微な」株主優待が、中長期的に企業価値の向上に資するのでしょうか。もしそうであるなら、なぜ現時点で株主優待は実施されていないのでしょう。取締役会には、これ以上の時間を浪費する前に、株主優待の実施について中止を求めます。
本来、株価の向上は一株あたりの利益及び配当を高めることが基本であり、このためには株主優待ではなく、収益の拡大と配当による株主還元で株主に応えるべきです。つまり、現在は0円としている中間配当を10円に増額するなど、明確かつ定量的な株主還元策を打ち出すべきです。前項2【経営体制と役員報酬の見直し】にて指摘した役員報酬を減額することで、(連結と単体の役員報酬差額は、2023年度は年額41,349千円)配当の原資については充当可能な金額となります。
なお、項番1の【中期経営計画の策定と取締役のコミットメント】にて記載したように、今後3年以内にPBR1倍、DOE2%(年間配当22.8円)を求めていきます。つまり、2025年9月度は中間配当10円、期末配当12.8円を求めているということです。
4.保有不動産資産の圧縮
旧本社不動産は売却し、売却益を用いた出版事業のデジタル化・株主還元の強化など、中長期的な企業価値の向上に向けた原資としてください。新本社も売却し、必要なフロアのみリースバックすることを検討してください。
企業の評価について記載した通り、中央経済社は千代田区神保町に二つの優良不動産を保有しています。作成者はこれらの資産について、中期的にはいずれの資産についても売却するべきだと考えています。
はじめに旧本社の土地です。中央経済社のIRによると、現在の経営陣はこの土地の収益物件化を検討しているようです(「上場維持基準の適合に向けた計画書に基づく進捗状況」における「現社屋の収益化」の現社屋は旧社屋のことを指していると思われます)。
出典:中央経済社「上場維持基準の適合に向けた計画書に基づく進捗状況について(2023年12月28日)」
https://www.chuokeizai.co.jp/ir/press/2023/
出典:中央経済社「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応(2023年5月25日)」
https://www.chuokeizai.co.jp/ir/press/pbr/009989.html
しかし中央経済社は、有価証券報告書にもあるように出版事業の単一セグメントで成り立ってきた企業です。不動産投資・収益化等の事業経験が無い中で、年間売上高が30億円・営業利益が1億円弱の出版社が、評価額30億円の土地に億を超える建築費用を追加して不動産投資を行うのは、無謀としか言いようがありません。財政基盤や投資規模に対する不安だけではなく、現在は建築資材や人件費が高騰し、金利の上昇も見込まれる中であり、ビルの建て替え工事が先送りになるケースが相次いでいる状況です*1。
*1出典:日本経済新聞「TOCビルなど建て替え工事延期 資材高騰と人手不足深刻2024年5月22日」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC059WR0V00C24A4000000/
このような状況を考慮すると、旧本社の不動産は売却し、売却益を用いた出版事業のデジタル化や株主還元の強化など、中長期的な企業価値の向上に向けた原資とするべきです。旧本社は今期ビルの取り壊しが行われ、更地での売却が可能になります。土地の売却時には消費税がかからない上に、現在は土地等の譲渡益に対する追加課税が停止中(令和8年3月末まで)ですので、タイミングとしても適していると言えるのではないでしょうか。
出典:財務省「土地等の譲渡益に対する追加課税制度(重課)の停止期限の延長」
https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2023/request/mlit/05y_mlit_k_05.pdf
出典:国土交通省「土地の譲渡に係る税制」
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/totikensangyo_tk5_000074.html
ただし、旧本社の不動産に関して、将来的な再開発等、周辺地権者もしくは行政との交渉が始まっている事実があれば、売却を保留することは理解できます。神保町界隈では三省堂本店や学士会館といった再開発も進行しており、旧本社の南に建つ東京パークタワーで用いられた第一種市街地再開発事業といった手法が検討されているようであれば、将来的に大幅な価値向上が見込まれるため、これらも含め株主に対して状況の説明をしてください。
一方、新本社は地上8階建て、延床面積1,711.35㎡。「建築物省エネルギー制度(BELS)」最高ランク☆5及び「ZEB Ready」の認証も取得した最新のオフィスビルだと認識しています*1。しかし、この新本社についても、社員数に対して広すぎるのではないでしょうか。
*1出典:中央経済社「(仮称)株式会社中央経済社ホールディングスオフィスビル新築計画[2023 年竣工予定]が「建築物省エネルギー制度(BELS)」の「ZEB Ready」認証を取得」
https://www.chuokeizai.co.jp/news/009266.html
出典:TOKYO BEST OFFICE「株式会社中央経済社ホールディングスオフィスビル」
https://best-tokyo.com/office/items/18048
中央経済社の社員数は2023年9月末で90名、2014年9月末の114名からは漸減が続いています(社員数はいずれも有価証券報告書より)。新本社の延べ床面積を90名の従業員数で割ると、一人当たりのオフィススペースは19.015平方メートルとなりますが、労働安全衛生法に基づく事務所衛生基準規則によって定められている最低面積は「第二条 事業者は、労働者を常時就業させる室(以下「室」という。)の気積を、設備の占める容積及び床面から四メートルをこえる高さにある空間を除き、労働者一人について、十立方メートル以上としなければならない。*1」とされており、新社屋の天井高を2.5メートル(2500mm)と仮定しても、最低限必要となる一人当たりオフィス面積(4平方メートル)と比較し、明らかに過剰なスペースになっていると推測されます。
*1出典:eGOV法令検索「事務所衛生基準規則」
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=347M50002000043_20221201_503M60000100188
コロナ禍によるテレワークの普及なども勘案すれば考えづらいですが、中央経済社の全社員が連日出社しているとしても、最低400平方メートルあれば十分であり、新本社のうち30%程度(全8フロアのうち3フロア)で賄える計算になります。この試算に合わせるのであれば、新本社は売却し、必要なフロアについてのみリースバックを行うべきです。もし売却できない理由があるならば、早急に新本社の一部を賃貸するなど収益化を行なってください。重ねて述べますが、今の中央経済社には遊休不動産を保有しておく余裕はありません。旧本社の不動産収益化を検討する前に、まずは現有不動産の収益化を行い、旧本社の収益化における実現可能性を証明してください。
なお、出版社として類似企業であるインプレスホールディングスは、新社屋ビル近隣にある神保町三井ビルディングの2フロア(22・23F)を賃借しています1。神保町三井ビルディングの基準階面積は約710坪であり2、2フロア合計としても約4700平方メートルのオフィスに689名(株式会社インプレスホールディングス第31期有価証券報告書より)の社員が働いていることになります。この数字から計算する一人当たりの占有面積は6.82平方メートルと、中央経済社の半分以下にとどまっています。
*1出典:神保町三井ビルディング「テナント一覧」
インプレスグループ 株式会社インプレスホールディングス
https://www.jinbochomitsui.com/guide/tenant.html
*2出典:オフィス移転ナビ「神保町三井ビルディング 7階 711.67坪」
https://www.officeiten.jp/detail/1/10019/664349.html
5 労働生産性の向上
平均年収681万円、一人当たり営業利益98万円という低い生産性を改善してください。付加価値の増加で対応できないのであれば、事業売却やリストラなどコストダウンによる方法も検討してください。
中央経済社の有価証券報告書に「出版産業全体の業況は低迷が続く一方で…」という記載が最初に現れたのは、2006年(平成18年)9月期のようです。これ以降、毎年のように「出版業界におきましては(中略)厳しい経営環境が続きました。」という文言が出てくるようになりました。
このような厳しい経営環境が15年以上も継続している中で、直近10年においては、売上高・営業利益とも大きな変化なく黒字を継続できている点については、一株主として深く感謝しております。
しかし、中央経済社における企業としての労働生産性、つまり従業員一人当たりの営業利益については、相当に改善の必要があると考えています。
会社四季報2024年2集(東洋経済新報社刊)でも生産性指標の特集がありましたが、中央経済社の2023年9月期における社員一人当たりの営業利益は0.98百万円、つまり98万円でした。直近10年間における従業員一人当たりの年間売上高及び年間の営業利益を表にすると、売上高は平均3036万円、2023年9月期においては3367.8万円。従業員一人当たりの年間営業利益は平均96.4万円、2023年9月期においては98.9万円となっており、2023年9月期の数字が極端に低いわけではありません。
表4:過去10期の売上高、営業利益、従業員数、及び従業員あたりの数字と人件費総額。社員数および平均年収は、有価証券報告書提出会社のみ
(中央経済社の有価証券報告書を元に本書作成者が作成)
項番2「組織体制と経営報酬の見直し」にて指摘したように、中央経済社は役員報酬総額が営業利益に対して非常に高い割合(2023年9月期で営業利益比103.69%)でした。それに加え、従業員の給与についても非常に高い割合(2023年9月期で営業利益比356%)となっていることがわかります。つまり、8900万円の営業利益に対し、役員報酬が9200万円、3億1700万円を超える人件費がかかっているということです(有価柾券報告書に記載されている「提出会社の社員数に各種手当を含んだ平均年収」を乗算すると4.5億円を超えます。人件費として挙げた3億1700万円は、有価証券報告書の給与及び手当・賞与の項目のみで単純化しています)。これは、単純計算で82%以上*1の分配率となります。
*1:(1-(8900/(8900+9200+31700)))*100= 82.1(%)
平均的な指標を見てみます。「2023年 経済産業省企業活動基本調査(2022年度実績)」によると、2022年度実績での労働生産性は910.2万円、労働分配率は47.7%です。つまり、単純計算で従業員一人当たりの年間営業利益は476.2万円(910.2-434)、給与総額は年間434万円となり、中央経済社の労働分配率は日本の平均を大きく上回っていると言えます。
出典:e-Stat政府統計の総合窓口「経済産業省企業活動基本調査・2023 年経済産業省企業活動基本調査速報(2022 年度実績)調査結果の概要」
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00550100&tstat=000001010832&cycle=7&tclass1=000001023508&tclass2=000001213820&stat_infid=000040139484&tclass3val=0
経済産業省による「2024年版 中小企業白書・小規模企業白書」を見てみると、企業規模別で見た労働生産性の中央値は315万円となっており、中央経済社の一人当たり営業利益(この資料における労働生産性は従業員一人当たりの営業利益と同義)98万円という数字は中央値比較で31.4%にとどまっています。いずれの指標と比較してみても、中央経済社の生産性は明らかに低すぎます。
出典:経済産業省「2024年版 中小企業白書・小規模企業白書 概要」(赤枠は作成者による追記)
https://www.meti.go.jp/press/2024/05/20240510002/20240510002.html
*中央経済社は上記白書において「中規模企業」に分類される
出典:中小企業庁「中小企業・小規模企業者の定義」
https://www.chusho.meti.go.jp/soshiki/teigi.html
優秀な人材が高い給与をもらうのは一向に構いません。しかし、生産性が低い一方で高い給料を維持することは認められません。前述のとおり、中央経済社の従業員平均年収(有価証券報告書による、中央経済社の本体従業員のみ)は10年間平均が646.7万円、2023年9月期においては681万円となっています。これは東証スタンダード市場の上場企業1,599社において254位(2024年5月末時点)の水準です。
出典:ullet「東証スタンダード - 平均年収順」(2024年5月末に確認・赤枠は作成者による追記)
https://www.ullet.com/search/market/2/ranking/50.html
これら各種指標と比較すると、中央経済社における従業員一人当たりの年間営業利益である98.9万円(2023年9月期)という数字は日本の中規模企業平均の半分にも満たない一方で、平均年収は681万円とスタンダード上場企業内でも高い水準に位置していることがわかります。端的に言うと、中央経済社は労働生産性が低い一方で従業員給与が高く、直近10年で見ても生産性を向上させることができていません。
経営陣には、出版事業における収益性を高めるための施作(保有不動産の収益化ではありません)を検討し、至急実行していただく必要があります。項番1で述べた中期経営計画における具体的な数値目標としてROE8%を提示しましたが、これは2023年9月期であれば社員あたりの年間売上高3367.8万円に対し、年間営業利益を269.4万円まで引き上げるということです。
生産性の改善には、付加価値の向上だけではなく、当然コストダウンという手法もあります。作成者はデジタル展開等での付加価値向上を想定してはいますが、短中期的な施策として痛みが伴う構造改革、つまり役員報酬および従業員給与を適切な水準まで引き下げるなどの施策(リストラ等も含まれます)が必要と考えています。
政府による賃上げ要請は理解していますが、一方で経産省・金融庁・東京証券取引所等によるPBR1倍割れの状況も問題視されています。中央経済社の株主として、賃上げしたため生産性が上げられない、などという都合の良い捉え方・ダブルスタンダードは認められません。
出典:首相官邸「物価高を上回る所得増へ」
https://www.kantei.go.jp/jp/headline/chinage/index.html
6.デジタルへの投資
デジタル化を進め、紙と電子書籍の同時リリースを早急に実現してください。データベース・生成AIなどストック型のビジネス拡大に適切な投資を行なってください。
最後に、中央経済社の抱える課題の中で、デジタル化の遅れについて記載します。
インプレス総合研究所『電子書籍ビジネス調査報告書2023』によると、電子書籍の市場規模は2013年度には文字もの等(文芸・実用書・写真集等)の電子書籍市場規模は205億円、雑誌は77億円でしかありませんでした。しかしながら、縮小する出版市場とは反対に電子書籍市場は拡大を続け、2022年度においては文字もの等(文芸・実用書・写真集等)は601億円(市場シェア10.0%)、雑誌は226億円(市場シェア3.8%)と2013年の3倍規模まで成長しています。
出典:インプレス総合研究所『電子書籍ビジネス調査報告書2023』
https://research.impress.co.jp/topics/list/ebook/673
このような状況にもかかわらず、中央経済社の有価証券報告書「経営環境及び対処すべき課題等」において、「書籍電子化への速やかな対応。」との記載が出たのは84期(2021年9月期)からであり、経営判断のミスにより大きな機会損失を招いたのは明白です。
出典:中央経済社「上場維持基準の適合に向けた計画書に基づく進捗状況について」
https://www.chuokeizai.co.jp/ir/press/pdf/20231228joujouiji.pdf
2024年、多くの出版社においては、すでに紙と電子の同時出版が当たり前になっている状況にもかかわらず、中央経済社には電子出版すらされない書籍があるなど、書籍の制作フロー・デジタル化が圧倒的に遅れていると言わざると得ません。さらに、電子書籍が配信されていないにも関わらずAmazonや中央経済社のオンライン販売サイト「ビジネス専門書online」において新刊の欠品が発生するなど、読者としても許容できる範囲を超えています。例えば6月5日の時点で、これから本格化する株主総会に向けた書籍である「アクティビスト対応の実務(2024年4月9日発売)」は、Kindle版が発売されていないのはもちろん、前述の両サイトにおいて品切れが発生しております。また、6月17日時点において、中央経済社ウェブサイトのトップページで紹介されている6冊については、いずれもKindle版は発売されておりません(いずれも作成者調べ)。
書影掲載の6冊とその発売日(作成者調べ)
就活・受験に効く! 自分キャッチコピー 単行本 – 2024/4/12
「経理の仕組み」で実現する決算早期化の実務マニュアル〈第3版〉 単行本 – 2024/4/12
目からウロコ!これが増減資・組織再編の計算だ!〈新訂版〉 単行本 – 2024/5/11
医療法人M&Aの実務Q&A 単行本 – 2024/4/22
アクティビスト対応の実務 単行本 – 2024/4/11
M&Aを成功に導くESGデューデリジェンスの実務 単行本 – 2024/4/25
経営陣はこの惨状を早々に理解し、不動産ではなく書籍デジタル化のワークフロー構築にこそ投資すべきです。場合によっては、旧本社の売却益を用いて、インプレスホールディングス(2024年5月終値で時価総額5,867百万円)などの出版社と資本提携を行い、電子出版のノウハウを獲得しても良いとすら考えています。経営陣には、2025年9月末までに、発売されるすべての書籍について紙と電子の同時出版が行えるワークフローを整える「書籍電子化への対応」を速やかに進めることを要求します。
その上で、データベース販売や生成AIといった周辺領域におけるR&Dを進め、書籍出版の付加価値を最大化することに注力してください。
生成AIに大きな波が来ている現在、本来であれば中央経済社はメディアとしてテキストデータ提供を交渉すべきタイミングでした。欧米では先日、WSJがOpenAIと5年で2.5億ドル(1ドル157円換算で392.5億円)の契約をリリースしているほか1、メディアとテック企業との提携も複数リリースされています2*3。日本においても、日本語・日本国内法特化型生成AIのファインチューニングに向け、正確かつ閲読性の高い書籍データには需要があると予想されます。
*1出典:The Wall Street Journal「OpenAI, WSJ Owner News Corp Strike Content Deal Valued at Over $250 Million」
https://www.wsj.com/business/media/openai-news-corp-strike-deal-23f186ba
*2出典:The Information「OpenAI offers publishers as little as $1 million a year」
https://www.theinformation.com/articles/openai-offers-publishers-as-little-as-1-million-a-year
*3出典:THE BRIDGE「OpenAI、Financial Timesと提携——「ChatGPT」の回答にニュース記事の引用が可能に」
https://thebridge.jp/2024/05/openai-licenses-financial-times-content-for-chatgpt
中央経済社が得意としてきた法務・税務などの分野は、過去の国内事例・判例が大きな参考となる分野であり、海外の判例などがそのまま流用できるわけではありません。このようなビジネス環境において、中央経済社が長年にわたり出版してきたコンテキストの積み重ねは、実用性の高い日本語・日本法に特化した生成AIの構築に貢献できるものと考えています。
中期的には、書籍出版というフロー型ビジネスに加え、データベースおよび生成AIへのコンテンツ提供といったストック型のビジネスの収益を拡大し、中央経済社のコンテンツ力を最大限に活かすことで日本企業の成長に貢献してほしいと思っています。株主として収益の拡大を願ってはいますが、高齢化・人材不足・デジタル化の遅れといった日本企業の課題を解決するための一助となり、日本の競争力・知力・価値向上に大きく貢献できる企業として成長することを望みます。
以上の6点について、取締役会は早々に分析をおこない、課題の認識と改善策について公表されることを望みます。改めて、作成者は中央経済社の保有資産について高く評価する一方で、現状の体制や市場における評価には満足していません。今後、中央経済社の取締役及び監査役との面談を通じ、それぞれの課題認識と対応策、企業価値の向上についての考えを伺った上で、対応を検討しようと考えています。
最後に、株主としての考えを示して終わります。
・上場廃止を選択肢として検討すべきです。東洋経済新報社・ダイヤモンド社をはじめ、集英社・講談社・小学館など、多くの出版社は上場していません。特定分野においては、これらの企業以上に中央経済社は高い知名度を誇っており、上場維持のメリットは薄いと思われます。昨今は経営方針の迅速化などを理由に、ベネッセや焼津水産、大正製薬等の大企業においてもMBOもしくはTOBによる上場廃止が相次いでいます。迅速な意思決定と構造改革を進めるため、上場廃止は十分に検討できる選択肢と言えます。
なお、東証スタンダード市場において上場維持に必要となる流通株式比率は25%、流通株式時価総額は10億円となっています。流通株式比率と時価総額10億円から逆算すると、ハードルとなる株価は以下表5のようになります。参考までに、個人株主が10%以上を所有した場合、その株式は流通株式として取り扱われないため、表5のように上場維持に必要な株価が増加していきます。2023年12月時点でのIR(上場維持基準の適合に向けた計画書に基づく進捗状況について)では流通株式比率42.9%でしたが、その後プランニングセンターの株式売却(2024年4月23日:8.64%→5.62%)があったため、現在の流通比率は45%強ではないかと思われます。
表5:各浮動株比率における流通株式時価総額10億円を維持するための株価(発行済株式数を元に作成)
中央経済社が上場廃止となった場合、J-ESOPの解約(払い戻し)、相続税計算時の評価額が変化する(不動産等の資産比率が高いため、大会社かつ土地保有特定会社と認定され純資産価額方式により評価される可能性があります)といった変化はありますが、資産売却の迅速化などを考慮すると、上場廃止の上で試算売却を実施し、デジタル化を含んだビジネスモデルの再構築に注力するタイミングではないかと考えています。
・企業の構造改革を進め、早急にPBR1倍(=解散価値)以上の株価を達成してください。過去10年における中央経済社の業績を見てみると、事業規模と比較して高額な役員報酬や従業員給料の一方で、配当と生産性は改善されず、結果として企業価値の向上がなされませんでした。本資料は経営陣には現状を認識した上で、構造改革を通じ株主への分配率を上げること、企業価値の向上を目指すことを求める提案となっています。コストダウンだけではなく、収益化を検討している保有不動産を売却し出版業のデジタル化に投資することで、書籍販売というフロー型ビジネスに加え、過去のコンテンツを活用したストック型ビジネスの収益化を進め、メディアとしての中央経済社に中長期的な企業価値の向上を行うことも提案しています。作成者はステークホルダー全体に価値ある状況を願っていますが、その一部が個々の利益を追求し改革を拒むようであれば、事業売却・会社解散といった手法を用いることも否定しません。株式会社の解散請求に必要となる議決権は議決権の10%以上または発行済株式総数の10%以上(44万株)となっています。
本質的に言えば、株式会社は株主のものです。事業売却・清算まで行かずとも、たとえば6項目の改善内容に基づいてコストダウンのみで対応をした場合、項目2「組織体制と経営報酬の見直し」による役員報酬の減額(41百万円)、項目4「保有不動産資産の圧縮」での新本社オフィスの賃貸(8フロアのうち半分の4フロア・約850平方メートルを神保町のオフィス坪単価23000円で計算して年額71百万円)、そして人件費の削減(一律20%削減として63百万円)を実施し、年間175百万円の営業利益を捻出した上で、旧本社を売却、利益の全額を配当に振り分けることも可能なわけです。
・不動産は売却し、メディアとしての本業に注力してください。旧本社の土地は確かに希少な物件ですが、不動産業に投資した結果、経営に甘えが生じるだけでなく、制作能力への投資が減少し、本業である出版分野のコンテンツ力が低下する可能性は否定できないはずです。中央経済社は創業70年を迎えていますが、今一度社是を読み、企業としての本質はどこにあるのか、日本企業の経済発展にどう貢献できるのか、中央経済社の魅力は何であるかを改めてご認識ください。
なお、資産売却等の株主提案に必要となる議決権は最低300個(3万株)となっています。
以上