福司が山廃を始めた理由②
前回、山廃を始めた理由①の記事はこちら。白麹をきっかけに様々な学びや成長があったことなどを書かせてもらいましたが、今回はなぜ白麹から山廃になったのかの部分を書きたいと思います。
いつかは山廃を。
私が知る限り「福司酒造の創業から山廃はやっていなかった」のではないかと思います。私が現在杜氏の役割をしていますが、私が知っている中で最も古い杜氏は「力石 八十吉(リキイシ ヤソキチ)」杜氏です。私の4代前の杜氏になります。大層腕がよかったと聞いていおりますが、その時代に山廃はなかったですし、社長が知る限りもない。私が幼少期の思い出で、正月に祖父の家に泊まったら、元旦の朝に力石杜氏が蔵元であった祖父の家におせちを食べに来てたことを覚えています。
弊社が酒を造り始めたころには速醸酛が主流で、現在はその技術は受け継ぎ仕込みを行っていますが、弊社には山廃の技術は受け継がれていませんでした。私の代まで山廃を造れる杜氏もいなく、その技術は日本酒の蔵であっても遠い存在でした。山廃や生酛をやることは、憧れでもあり、高く分厚い壁のようなものを感じていました。
そんな分厚い壁に感じていた山廃にチャレンジできたのは、端的に言うと今の製造部のメンバーのおかげです。私が「やろう!」という事に「やってみますか!」と答えてくれること、そしてその準備をしてくれていたことが1番の要因だと思います。
それと前回に書いた白麹ではないかと思います。白麹というステップ1をクリアし得たことは知識的にもありましたが、彼らの技術者としての意識にも良い影響だったと思います。速醸酛だけでは1つ視点でしかとらえられなかったことが、白麹を使い速醸酛との違いを検討する際に多角的に物事をとらえる必要に迫られ、そこでのトライアンドエラーが結果的に彼らに自身と知識を与えてくれました。
弊社の白麹による酛つくりは2種類行っています。一つは安全な対策をとって行う簡易的な酛。もう一つは白麹の酸によって雑菌の繁殖を抑制し酛つくりをする方法です。この後者の方法の理論はやや山廃にも近しく、雑菌を乳酸で抑制するかクエン酸で抑制するかの違いと言ってもいいでしょう。正確には山廃の方が亜硝酸還元を引き起こす工程がある分複雑です。近しい要素を持った白麹の酛を経験したことで山廃の歴史のない蔵で山廃にチャレンジ出来ました。
なぜ今なのか?
いろいろな要因が重なりました。1つはコロナウイルス感染症により製造の見直し。もう一つはヒトの成長です。コロナウイルスの影響で製造数量の見直しをする必要が出てきました。これは酒蔵としては出荷が減少するというマイナスの要因ではありましたが、我々製造部にとって製造技術を上げるまたとないチャンスでもあり、製造計画を大幅に変更することでデータをとりトライアンドエラーが出来る環境になりました。これによって通常だと数年かかる検証が1年で可能となり、山廃へのチャレンジする見通しがたちました。
もう一つのヒトの部分ですが、実は福司酒造の製造部は7年ほど前に一新しています。私以外、全員が清酒製造未経験者いわゆる素人集団でした。そこから白麹や山廃のチャレンジを行うためには、まず製造部の人間を「育てる」必要があったのです。その結果が実り、今はゼロベースから山廃を学んで仕込めるまでに成長したのです。学ぶ過程においてご教授いただいた上川大雪酒造の川端杜氏に感謝を申し上げます。
山廃まで行きつけたのも7年前から福司がヒトの育成に力を入れてきた結果だと思います。逆にヒトがあり技術が受け継がれ、文化として酒が存続すると思います。
そしてこれから
山廃を初めて今年やってみたわけですが、今年は福司酒造にとって山廃0年目となります。まだまだ技術的には何も得ていないというべきでしょう。まぐれかもしれません。これからこの技術を確かなものにし、福司酒造の山廃造りを確立するまでには数年、あるいは数十年かかるかもしれません。また、釧路で唯一の酒蔵としてある福司が始めえて山廃を造ったわけですから、この地域の山廃の文化も0年目となるわけです。この地で山廃を文化にしていくことも私たちの大事な役割と考えます。
今回の山廃シリーズは今までの福司の商品と異なり、製造部を主体として販売まで行うことにしました。初めて製造部で出荷の管理や案内状、営業回り等を行い、今までとは違う新たな福司としてお取引先にもあいさつに回っています。少しでも思いを届けたくて製造部の手作りでフリーペーパー風の冊子も作りました。(下の写真)福司を知らなかったり、そこまで気にかけていない方々にも弊社の取り組みを知っていただくためにも紙の媒体は有効ではないかろ思い作りました。データでも発信し多くの人に届くように工夫したいと思います。
次に山廃のことを書くころには商品の案内もできることと思います。この記事で福司酒造のことを知った方もいるかもしれませんので、今回の山廃のことを少しだけ触れておきます。
今年度の山廃は実は2種類仕込みました。なのでリリースは2種類します。1つ目は弊社の純米酒と同じ原料米で、北海道の酒造好適米「吟風(ぎんぷう)」を原料にした純米酒。これは速譲と比較ができるようにしています。もう1つは山田錦を使用した山廃の特別純米酒です。実はこの山田錦、北海道で作った山田錦で、現在試験的に作っております。本来北海道では冷害の為山田錦の栽培は不可能であるとされていたのですが、芦別でチャレンジをされている農家さんがあり、この度この山田錦を使った試験的な醸造を頼まれました。そういった珍しい米を使用して山廃を仕込みリリースするのでお楽しみに!道内産山田錦を使用して初めての山廃という事になりますね。道内の他の酒蔵さんでも試験醸造されているので、利き比べも可能も可能です。発売は7月中を予定しております。現在製造部でお取り扱いいただける酒販店さんを回っているところです。専門は酒造りの集団ですので、お取り扱いいただく酒屋さんにはご不便などおかけするかもしれませんが、思いだけはありますのでよろしくお願いいたします。
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