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物理的移動のススメ

  旅好きになったのは、いつからだったのだろう。それまでの人生では、学校の遠足や修学旅行などの行事で行く以外、ほとんど遠出を経験しないできた。好きも何も、わからなかった。唯一、県内の祖母の家に電車で行くことがあった。まだ小学生の頃から妹と一緒に、在来線を乗り継いで行く旅は、好きだった。東仙台駅から東北本線で小牛田駅まで。そこから一両編成の栗原電鉄(のちに「くりはら田園鉄道」になり2007年3月31日廃線)に乗り換え、沢辺駅まで。沢辺駅に叔父が迎えにきてくれた。小学生の私には、最高に自由を感じた旅だった。当時の私の世界は、自宅と祖父母宅くらいの狭い世界だった。
 高校受験に合格した15歳の春。妹と二人で、東京の叔母たちの家にそれぞれ泊まり、1週間くらい東京を満喫したこともあった。音楽好きな叔母一家に滞在した時には、東京フィルのコンサートに連れて行ってもらった。中村紘子さんのピアノを聴いて、ものすごい衝撃だったことを今でも思い出す。池袋のサンシャインにも連れて行ってもらった。妹と二人で原宿へ行ったり、高田馬場の名画座(シブい!)に映画を観に行ったりもした。いつもと違う景色の中に溶け込んでいく。ワクワクしながらも、そこにいるのが当たり前のようでもあった不思議な感覚だった。
 就職してからは、出張で東北6県に行く機会に恵まれ、ご当地料理を楽しんだりできた。仕事で行くと、送迎がついて、お食事もご馳走になるからか、自分で旅行したという感覚からは遠くなるものだと思った。私は自由を求めているということがよくわかる感覚だ。

 夫とは、遠距離恋愛だったため、会いに行くのは旅行だったと思える。恋とはパワフルで、制限さえも軽々超えていく。早朝のまだ薄暗い時間に家を出て、近くの公衆電話でタクシーを呼び、朝一番の電車に乗る。早朝5時台の電車には、当時、まだ行商のおばさんたちが乗車していた(!)まだ二十歳だった私は場違い感半端なかったが、おばさんたちは優しかった。
「おねえちゃん、こんなに早くどこへ行くの?」(標準語変換:実際は、もっと訛っていた♡)酒田まで彼に会いに行くと言うと
「あらー、いいこと!今が、一番いい時だね。」と言ってくれた。
人生の先輩方に会うたびに、「今が一番いい時だ」と言われ続けてきた。結婚したばかりの頃、子どもがまだ小さい頃によくそう言われた。だけど、振り返ってみれば、どの瞬間もいい時で、比べられない。大変なことも含めて、それは俯瞰してみれば最高にいい時だった。そして、今。子育てが一段落して久しく、子どもたちがそれぞれ愛する人に出会え、子どもが生まれ、私は4人の孫に恵まれている。更に、夫が元氣で私を大切にしてくれて、私は好きなことを極め続けている。今が一番いい時だとも思える。苦労や挫折、悲しみもたくさんあったけど、それも含めて大切な瞬間だった。苦労や挫折の隣には、誰も止められない情熱があり、悲しみには、紛れもなく大きな愛と共にあった。そして、氣がついて見れば、私が「今が一番いい時だね」と言う方の立場になっている。当時出会った行商のおばさんたちと同じくらいの年齢になっている。驚。旅の話をしようと思って脱線した。

 夫と出会って、旅が私の人生の一部になった。結婚してからも、車でいろんなところに連れて行ってもらった。30歳で仕事復帰したけど、飛行機に初めて乗ったのは、その前後ではないかと記憶している。夫と二人で札幌二泊三日の旅。飛行機にビビっていた私だったが、雪のために飛行機は大いに揺れ(笑)、おまけに除雪のために上空を揺れながら30分旋回という洗礼。「やっぱり揺れるんだな」と納得。ところが帰りの便は、離着陸以外は、どの乗り物よりも揺れず快適そのもの。最初に揺れて良かった。天候や気流によって揺れる。だけど、快適な乗り物でもあるということがわかった。その後、父の退職祝いの家族旅行で沖縄に行って、片道3時間のフライトを経験して、すっかり飛行機好きに。
 初めてパスポートを取ったのは、37歳の時。妹の結婚式に出席するためにボストンへ行くためだった。初めての海外旅行も自分で手配した。シカゴで入国、トランジットしてボストンへ。仙台を出てから24時間くらいはかかったと思う。大冒険だったけど、最高にたのしかった!シカゴの入国の緊張感。日本とは違う雰囲気、匂いにドキドキ、ワクワクした。
その時、私も、妹も、自分の人生に大きくダイブした直後だった。会えた瞬間になんだか泣けた。あの時に、一生分くらい妹と過去の振り返りをした。感動の結婚式、文化の違いの衝撃は最高にワクワクした。
 それからというもの、私は一人でも、飛行機に飛び乗り、海外に行った。アメリカが多めで、ボストン、ニューヨーク、ハワイ、ニューメキシコ、セドナ、ローマ、パリ、バンコク。まだまだまだまだ世界は広い。
 日本国内も、いろんなところに行った。まだ中国、四国地方で行っていないところがある。来年は、海外に行きたいと思っている。

 さて、この物理的な移動は、ものすごく人生に価値をもたらすと思っている。オンラインが普及し、便利になったが、物理的移動の情報量が楽しすぎる!学びのために国内外も移動してきたが、行き帰りも含めていい。意識だけでなく、物理的な肉体を通じて体験することの凄さは、生きている醍醐味なのだろうと思う。そのうち、肉体的体験感覚から意識的感覚へ向かっていく。体験できるって、最高。

 

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朝水久美子
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