2-2 父の逆襲に
ちょうど生理が始まった11歳に父の暴力はなくなった、かに見えた。就職してから、まさか父から暴力を受けるなんて想像してなかった。それはショックだったな。社会人になっても親から暴力なんて。
子どもの頃と違って、長い時間、殴り続けられることはなく、ハイヒールを脱ぐ間もなく、髪を鷲掴みにされて、廊下に叩きつけられる。足の爪が剥がれたこともあった。父は激昂していたけど、別に父の心配するような何も悪いことなどしておらず、でも言い訳をする隙間もなく、私もいちいち説明する気もなかった。この頃は、まだ私は父の暴力を受け止めていた時期だということが、今、わかる。父の苛立ちや葛藤のことを理解することを優先してしまって、自分を守ろうという考えが発動していない。どこか自分の力では止めることができないことだと思い込んでいた。
「早く仕事に慣れて、経済的な基盤を作って家を出よう」と、そんなささやかな願いに向かっていた。状況は、一時期より悪くなっていたにも関わらず、私の心は暗くなかった。自分が選んだ道を一歩だけ踏み出したのだから。そして、これは始まりなのだと、静かな希望を持つことを赦せたような。自分は完全に無力ではない。それを自覚し始めたような気がする。それは、私にとってすごく大きかった。父がどう振る舞おうと、仕事を一日も早く覚えて、仕事場で自分の居場所と経済的な基盤を作ることを最優先しようと思えた。
まさか私が実家でこんなことになっているなんて、誰も気づかなかったと思う。家の中のことを知られたくなかったのは、私が知られると辛いからだと思っていた。もちろん、それもある。今まで親友にすら話していなかった。ずっとずっと後になって、私は親を守っていたということに気づくのだが、そんな発想はなかった。私は誰も頼れないのだから、自分で生きていく力をつけなければと思っていた。仕事で組織のためになれるほどの力をつけていく。まずはそれだ、とばかりに頑張った。その頑張りは全然辛くなくて、楽しかった。女性職員が少ない組織だったこともあり、とても大切にしてもらって、ありがたい場所だった。もちろん嫌なことだってあったし、自分に落ち込むことだってあったけど、社会人になって、精神的に大いに楽になった。