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27年前の手紙

 サロンをお片づけしてたら、見慣れない名前からの手紙が出てきた。読んでみたら、すぐにわかった。カウンセラーになる前も、前、専業主婦時代の終わりころに参加した市が主催の心理学系のセミナーでご一緒だった方だ。「二人三脚のようなステイルで片方の足を相手の足とつなぎ、一切の言葉を交わしてはいけない。終始無言がルール。会場を出て、近くの公園で何かを持ち帰る。」というワークだった。

久美子さんへ
 話をしないで アイコンタクトだけで お互いに不自由を感じながら 一つの目的を達成するって 不思議な感覚でした。 最初は 体は結ばれていても心は別々のように思っていました。でも次第に歩き方のリズム、どちらの足からふみ出すか、どっちへ行くか、何を持って帰るかなどの選択の時、久美子さんの目を見ると、私への思いやりと優しさが強く感じられ、こういう形でもコミュニケーションできるんだと思いました。それから久美子さんのウエストに私の左手を回していたのですけど、思ったよりふくよかでしっかりしていて 不自由さの中で とても私に安心感を与えてくれました。
物を選ぶ時 私の拾ったものを「いいよ、OK!」というまなざし。 一緒に大きな木の幹に感嘆し、その大きな木を下から二人で見上げた時の共感など セミナーでの忘れられない思い出のひとつとなりました。
 久美子さんから感じたものは 決して強引ではない相手の気持ちを思いやりながらのリーダーシップ、何かに立ち向かうたくましさ、人を気遣う心の温かさなどです。 正直 私には もう少し欲しいものばかり。自分へのこれからの課題だと思いました。どうもありがとうございました。                 M.N

 私はまだ28歳か、29歳になったころだろうか。託児ありのセミナーで、末息子を初めて預けて参加した。この後に、私は法律関係の仕事に就くのだけれど、やっぱり心は心理学に向いていたんだと思い出させてくれたお手紙。私も同じように彼女に手紙を書いたと思うのだけど、あの時の私はどんな手紙を綴ったのだろう。この手紙には、嬉しいことがたくさん書かれていて、手放せなかったのだと思う。まだカウンセラーになるなんて夢に描くことはあっても、全く現実的ではない頃のこと。強引ではないリーダーシップ、何かに立ち向かうたくましさ、温かい心。私が何も語らずして伝わったものがそれだったなんて。肩書きのない「わたし」。きっとそれが「わたし」なんだと、時を超えて教えてくれたような瞬間だった。一期一会を大切にしてきたつもりで、これからもそうありたいと思っているが、また会いたくなった。あれから、どんな人生を歩んでこられたのだろう。今頃、何をしているのだろう。出会いは人生の醍醐味であり、奇跡だと思う。それをしみじみ感じさせてくれた手紙だった。

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朝水久美子
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