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若きスタローン(30歳)が語る【映画論】
原田眞人(1949-)監督は「原田真人」として在米の映画ジャーナリストだった時期がある。1977年3月にアメリカで行われた『ロッキー』(76/米)に関する「シルヴェスター・スタローン(1946-)」のインタビューを一部引用。
【原田】 「ロッキー」を見てすごく感激したんだけれど、後になって、子供のころ、これとまったく同じ感激を抱いた映画を思い出した。それは「黒い牡牛(ザ・ブレイヴ・ワン)」なんだ。
【スタローン】 ボクもあの映画には昂奮したな。ボクはね、ちっちゃな存在がすべての制約を超えて巨きなものを打ち倒す映画が好きなんだ。ここ数年、そんな小っちゃなヒーローというのは脇の方へおしやられ、アナーキストやら反逆者、殺人狂がハイカイしている。最近の例だと「マラソン・マン」などもそうだ。~~お客を湧かせ、泣かせ、最後はちょっとさびしげに去っていくけど、観客は別に彼の未来に不安を感ずるでもない。あいつなら、どんなことでもやっていける、とね。これを「ロッキー」としてやろうじゃないかと思ったんだ。勝ちはしないが全てを賭けてひとつのことに挑戦する男。だから観客はこの主人公を愛するわけだ。~~現在、多くの脚本家というのは、主人公をリアルに描こうとするだろう。例えば女房を引っ張たいたり。これは実際に起こっていることには違いないんだけど、観客は映画のヒーローにこんなもの望んでないと思うんだ。彼らが見たがっているのは気高さ(ノービリティ)。誰もが皆これを望んでるってわけじゃないけれど、そんなことだと思うんだ。映画にはファンタジーを求めているんだ。~限界を超えてガンバリぬくってのは人の賛嘆に値する。そういうことなのさ。
【原田】 スライ(※スタローンの愛称)が惹かれた映画のヒーローというのは最近ではまったくないわけ?
【スタローン】 そうだな……。「マーティ」(55[~])だなあ。それ以外は……あまりいないな。少な過ぎるよ、このテのキャラクターは。~~最近じゃ、ライターはとにかくひとくせもふたくせもあるキャラクターを描くだろ。「タクシー・ドライバー」。ボクはあんなキャラクターに会ったことはないよ。精神病んでる人間とはつき合いたくないもの。お客はあの映画を見て主人公素敵!ぞっこんだわ、なんて言わないよ。「マラソン・マン」もね。映画を見終わって決していい気持ちになれない。人間であることを誇らしく思えない(笑)。
【原田】 「長距離ランナーの孤独」をどう思う?
【スタローン】 好きだな。好きな映画ですよ。しかし最後でね、殆どレースに敗けそうになって勝つ、その勝つところを見たかったね。だって彼はあれだけ過酷なトレーニングを経て来たんだからさ。それはもちろんボクの考えであって、あの監督は彼なりのテーマを展開したんだから、どうこう言えることじゃないけど。ボクはね、ヒーロー指向なんだ。オヤジがセガレを映画につれてってね、あんな男になってくれなんて言えるようなヒーロー。ゲーリー・クーパー、ケイリー・グラント、カーク・ダグラス。彼らみたいなスター、ヒーローを演ずるスターが今いるかい? いない。「ゴッドファーザー」のような男か「ダーティ・ハリー」のような男になってくれっていえるかい? これはね、ボクはとっても大切なことだと思っている。映画というのはお金を儲けなければどうにもならないんだから、芸術をめざしても客が少なければ何にもならない。ボクが「ロッキー」でやりたかったのはシリアスな映画で、同時にコマーシャルな映画ということだった。セックスや卑猥な言葉を並べれば「芸術」だと思っているアーティストが多過ぎる。そういうものから離れて、ボクは大衆娯楽と「カッコーの巣の上で」のような芸術的な映画の接点を求めているんだ。
【原田】 あなたの好きな映画は?
【スタローン】 「道」が好きだ。それから「羅生門」。黒沢の人物描写の力ってのはすごいねえ。それほど多くないんだな、ボクの好みの映画って。だから「ロッキー」を書いたというわけさ。「ロッキー」にはぞっこん惚れている(笑)。
【原田】 確かに40代のロッキー、50代のロッキーというのも見たい気はするな。
【スタローン】 うん。ボクも8年か10年おきに「ロッキー」を演っていきたいと思ってるんだ。今までどの映画も試みてなかっただろ。~~「ロッキー」は構造的には単純なんだけど[~]。~メインのストーリーはシンプルだから、このストーリーの裏にひそむさまざまな要素を観客は読みとれるんだ。「ネットワーク」(※1976年)のような、あまりに多くのキャラクターが乱舞するものってお客はのれないんじゃない? 2時間というものひとりかふたりのキャラクターに集中できるように作れば、映画の後で、お客は彼らを家まで連れ帰るものね。「ネットワーク」のような作品だと、映画館を出て車にたどりつくころにはどのひとりのキャラクターも印象に残らない。そんな感じだ。~~~
【原田】 その「ロッキー」(※『ロッキー2』)の監督は自分でやるつもり?
【スタローン】 それはね、ジョン・アヴィルドセンのスケジュール次第なんだ。彼が出来なけりゃボクがやるしかないんじゃないか。マーティ・スコシージ(※マーティン・スコセッシ)演出の「ロッキー」なんて想像出来ないもの。
↑のインタビューは『ハリウッド・インタVュー 俳優篇』(1978年)に収録。
インタビューの他の部分では、母親や弟(フランク・スタローン)についての話、米国人作家「エドガー・アラン・ポー(1809-1849)」の伝記映画を監督・脚本・主演でやる計画(1977年3月当時)等をスタローンが語っています。
念のために書くと、私は「スタローンの映画論」に同意しているわけではありません。しかし真っ当すぎる?映画論を新鮮に感じ感銘を受ける部分が多い。当時の原田眞人監督は「ナイーヴ過ぎんか?」みたいな印象のようだ。
↓無知で詳細は不明ですが2020年のインタビューの一部を邦訳されたtweet。
スタローン「リアリズムよりも現実逃避としての映画を好んで観て育ったので、西部劇よりも10才のときに観た『シンドバッド 七回目の航海』に感銘。あとは”Roogie’s Bump”という野球少年の腕がベーブ・ルースになる映画。そういう現実逃避系からの流れでカーク・ダグラス映画」https://t.co/JarDeblJPM
— 鶴原顕央 (@tsuruhara) June 7, 2020
スタローン「ダグラスの『バイキング』や『スパルタカス』を観て、その流れで『荒野の七人』。だから常にヒロイズム」「『冬のライオン』と『アラビアのロレンス』。演技が素晴らしい。あの身体性が必要なのだが、自分は持ち得てない。デヴィッド・リーンのレベルに行きたいと思うが、行けるかどうか」
— 鶴原顕央 (@tsuruhara) June 7, 2020
スタローン「『ロッキー』は扱いとしては同時上映の本命じゃないほうの映画。監督組合で試写をして500人だれも拍手をしないし、音も立てない。これはダメだったなと落胆して最後に劇場を出たら、エスカレーター待ちの列で拍手が起きた。何が起きているかを自分では理解できないが、何かが起きた瞬間」
— 鶴原顕央 (@tsuruhara) June 7, 2020
スタローン「『ロッキー』でアメリカの映画がシフトした感。ハッピー寄りに。初稿ではダークだった。廃品収集業で、ボクサーですらなかった。ビジュアル的にファイトシーンが必要だっただけ。アカデミー賞を受賞して、学歴は関係ないと証明したし、多くの人に門戸を。奇跡が起きた。奇跡は実在する」
— 鶴原顕央 (@tsuruhara) June 7, 2020
↓こちらがインタビュー動画の全編?らしいです。
◆『ハリウッド・インタVュー(インタビュー) 俳優篇』(1978年) 書影と目次
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