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「村上春樹(1949-)」と映画評論家「山田宏一(1938-)」による、戦争映画『最前線物語』(1980/米)評

ずいぶん昔にビデオで一度観ただけですが、私の評価は◎傑作です。本作は『映画の快楽』という映画ガイド本の文庫本に、各執筆者の「80年代映画ベスト10」というのが載っていて、そこで何度も目にして知った映画。「B級戦争映画」「戦場が舞台のロードムービー」といった感触。感動しました。


--------------------------------------------------------------------------------------☆村上春樹(1949-)氏の評。『映画をめぐる冒険』(1985年/講談社)より。

なんだかよくわからないうちに半伝説的存在にまつりあげられてしまったサミュエル・フラー監督の「比較的」大作である。大作なのか大作じゃないのか判断のつかないところがこの人の人徳――というのかね――である。ヴェテランの下士官が戦場で新兵を叩きあげていくという、まあよくある話だが、実際にはそれほどのまとまった構成が存在するわけではなく、物語はやたらだらだらと脈絡なくつづく。エピソードとエピソードのあいだにはとくにこれといった関連性はなく、深い人間の絡みがあるわけでもなく、最後はわけのわからない因縁物語風に話は終息してしまう。あとには殆ど何も残らない。しかし実に不思議なことに、見終ったあとでこの作品は何かしら心に
ひっかかるのである。そこには我々の価値基準ではすくいとることのできない何かがひそんでいるような気がする。B級映画の好きな方はきっと気に入ると思う。


--------------------------------------------------------------------------------------☆山田宏一(1938-)氏の評。『シネ・ブラボー 小さな映画誌』(1984年)。

ゴダールの『気狂いピエロ』を初めて見たのは、一九六六年のことだったが、そのなかで特別出演していたサミュエル・フラーというアメリカの映画監督が、「映画とは何か」という問いに、こう答えていたのが強烈に印象に残った。「映画とは、戦場のようなものだ。愛、憎しみ、アクション、暴力、そして死。ひとくちでいえば、感動だ。」同じころ、[]サミュエル・フラーが「目下執筆中の小説で、できたらそのあと映画化したいと思っている」という戦争をテーマにした作品について語っているインタビューを読んだ。「五人の男が出て来て、七人の女と七つの戦場と七つの国をめぐることになる。男たちに名前はない。彼らはシンボルだ――兵卒、中尉、軍曹、大尉……。彼らは一人も死なない。わたしはこれまでずいぶんたくさんの戦争映画を見てきた。もちろん、すばらしい作品もたくさんあった。ただひとつ、許せないのは、戦争映画なのにメッセージがあるということだ。“戦争は醜い”とか、“戦争は愚劣だ”とか、そんなたぐいのメッセージをさもらしくかかげた映画――これほど滑稽でばかげたものはない。歯医者に小さな子供を連れて行く。子供は歯科医の椅子にすわらされただけで恐怖に駆られて泣きだすだろう。それは自然の反応であって、メッセージでも何でもない。戦争のメッセージよりも、エモーションを描くほうがずっと強烈だし、興味深い。たとえば、わたしの小説には、第一次世界大戦の戦場で、戦争が終わっていたことを知らずにドイツ兵を殺し、そのため、人殺しをしたというショックから立ち直れないまま第二次世界大戦に従軍することになる男が出てくる。~~さまざまな戦場が出てくる。それらの異なった国の戦場の体験をとおして、わたしの作品の人物たちは、戦争と呼ばれる〈殺人の芸術(アート・オヴ・キリング)〉の場において完全な人生修行を終える……。 戦争映画では、よく敵を撃ってうまく仕止めると“やった、やった”とよろこぶ。ひどい話だ。戦場では、ただ敵を狙い撃つとき、だれにもそんなところを見られたくないと思うだけだ。映画化を想定して書かれていたこの小説の題名は《The Big Red One》――それがやっとそれから十五年後に映画化されて見られることになった。日本公開題名『最前線物語』である。流行のベトナム戦争ものの暗い後味のわるさとは対照的に、心ときめかせる爽快な、ある種のアナクロニズムと言ってもいいくらいのオプチミズムに貫かれた映画だ。第一次世界大戦で生き残った男(リー・マーヴィン)が第二次世界大戦にも参戦し、古参の軍曹として彼の息子と言っていいほどの年齢の四人の若い兵士を率いて北アフリカからヨーロッパ各地の最前線を転戦していくという物語で、すぐれた父親のような指導者を得た四人の若者は彼らの〈戦争〉をとことん生き抜き、「戦争の栄光は生き残ることだ」と胸をはって言い切れるまでに成長するという、真の〈教育映画〉、異色の戦争ものである。ありとあらゆる戦争映画が、たてまえとして、死者を追悼し、死者の霊に捧げられてきた。『最前線物語』は、おそらく、生き残った人間たちに捧げられた初めての、唯一の〈戦争映画〉である。安易な残酷描写もなければセンチメンタルな抒情も一切なく、硬質な画面は明るく、快く、透明なまでの美しさだ。~~〈ベトナム後遺症もの〉などと呼ばれた一連のアメリカ映画の、いわば父なき世代の若者たちが、なにもかもベトナム戦争のせいにして、血に飢えた犯罪者になったり、発狂したり、異常性欲に走ったり、性的不能者になったりしたのに対して、『最前線物語』の戦争(つまりは人生)をたたかい抜いた四人の若者はたくましく、はつらつとしていて、最後には、父親的存在である軍曹を逆にその〈コンプレックス〉から救い出すまでになるというのが印象的だ。『最前線物語』は、また、戦争という環境の〈暴力〉の脅威にさらされて生きぬく無防備の傷つきやすい子供たちの物語だ。戦争映画というジャンルを超えて、[]〈子供の映画〉のエモーションに貫かれた作品でもある。

」は「省略」の意味で使用


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◆『最前線物語』(1980/米/The Big Red One)の関連リンク集


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VHSとDVDのジャケット写真

戦争についての見識が不足しているのは承知ですが、「戦勝国だから作れる戦争映画」だと思う。
https://www.buyuru.com/item_1092068_1.html
https://www.buyuru.com/item_992262_1.html


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