「さくらんぼのTシャツ×2」
小さな歩幅で砂を蹴る二人の男の子が、お互いにちょっかいを出しながらこちらにかけてくる。
「海幸くんと山幸くん。双子の兄弟じゃ。」
「ゴール!僕の勝ち〜!山の負け〜!」
「海、セコいよ!絶対、僕の方が先だったもん!」
同じ顔、同じ身長、同じ髪型、同じ服、同じ声の二人の男の子は僕と神様の間を通過して、すぐに言い争いを始めた。
「ねぇねぇ、おじいちゃん!絶対、僕の方が早かったよね?」
「ん〜同着の様な気がしたがの…。どっちかの…。」
「海のが遅かったもん!絶対、僕の方が早かったもん!」
一位への執着心が凄い。
僕はこの執着心を大人になって、どこかへ置いて来てしまった。
相手はまだ子供なのに、二人を羨ましく思えた。
「初めて見るお兄ちゃんは、どっちが一番だったか見てた?」
「え?あ、あぁ…ごめん。僕も同着に見えたよ。」
「何だよ…チェッ。」
流石、双子。
同じ言葉が同じタイミングで飛んで来て、倍の重みで僕にのしかかって来る。
そしてプイッとお揃いのさくらんぼのTシャツが一人は海へ、一人は山へ向く。
「海幸くん、山幸くん。このお兄ちゃんは佐藤くん。新しいこの島のお友達じゃ。」
「…海幸です。」
「…山幸です。」
先程の熱は急に冷め、しょげているのか二人は靴の先で砂に穴を掘りながら名前を教えてくれた。
「海幸くんと山幸くん、初めまして。僕は佐藤。宜しくね。君らは仲良いんだね。とても良い事だ。」
「…別に仲良くねぇし。」
またそう二人で同時に答え、そのまま僕と神様を置いてけぼりに砂をかけて行った。
「彼らにとってここの住人は皆、対等なんじゃ。友達の一人として沢山遊んでやっておくれ。」
そう神様は微笑みながら、手に持つ木の棒で彼らが靴の先で掘った小さな穴を交互に突いた。
「一旦、今日から佐藤くんも住む事になる場所の案内でもするかの。その間に残りの二人にも会うじゃろう。」
そう神様は言って、茂る森林に視線を向けてゆっくりと歩き始める。
黄土色の砂に残る小さな二人の足跡が遥か遠くまで続いていた。