新美南吉を歩く
撮影:osamu137
note・YouTubeの配信で、小さな方にも「どうぞ」と言えるものを作りたくなった。新美南吉作『おじいさんのランプ』(『おぢいさんのランプ』という表記もある)を、聴く物語にしてみよう。
知る方も多いこの作品で印象に残るのは、主人公・巳之助のたくましさと潔さ。しがない村の使い走りだった天涯孤独な少年が、自分の力でランプ屋となり、文明開化に翻弄されながら商売を替え、身を立てていく。葛藤と成長の物語だ。老年となった巳之助は、最後に孫に向って訓示めいた事を言うが、物語の中心部である彼の述懐だけで十分伝わると個人的には思う。教師でもあった新美南吉は「先生、最後にもう一回言うぞ。大事だからよーく聞け」という念押しをせずにはいられなかったのかもしれないが(笑)。
そして新美南吉の故郷、愛知県知多半島の半田へ小さな旅をした。
南吉が生徒たちを連れて行ったという雁宿公園。「貝殻の碑」がある。
畳屋と下駄屋だった生家。説明アナウンスも聴けて、出入り自由。
生家から徒歩数分。安川と矢勝川に合流するところにつくられた〈ででむし広場〉。南吉が安城高等女学校で生徒達と創っていた詩集に載せた詩にちなんで名付けられた。川沿いに広がる田園風景も素晴らしい。
半田は運河と醸造の街。半島ならではの情緒が漂う。運河沿いに続く黒い蔵造り、ビール工場…。
JR武豊線半田駅の跨線橋が、高架化に伴い、110年の歴史に幕を下ろすので、多くの方がカメラを手に詰め掛けていた。間もなく電車が到着!皆でシャッターチャンスを待っているところ。
駅付近にはSLが展示され、地元の方の熱心な説明を聴ける。それによると、JR武豊線沿いにレンガ造りの小さな古いトンネルがあるという。折角だから行ってみた。
新美南吉記念館はファンシーな雰囲気だが、充実の展示内容。女学生たちと共に満面の笑みをたたえる、南吉の教師時代の写真は必見!
到る所にキツネがー。
↑ ↑ ↑ これはトイレ ↑ ↑ ↑
おじいさんのランプにも会える。
南吉の死後、彼の作品を世に出す尽力した一人が巽聖歌(「たきび」の作詞家)。南吉が兄と慕い、原稿を託した。巽聖歌は原稿を校正し出版。後々、南吉の筆そのままの形も本となり、差異のある同じ物語が存在する。
周辺の〈童話の森〉散策も楽しい。
墓参も終わり、最後にどうしても行きたかったのが『おじいさんのランプ』クライマックスの舞台。古本屋で入手した文庫(1999年出版 小学館文庫 新撰クラシックス『ごんぎつね』)巻末に半田マップがあり、モデルとなった半田池が町はずれに載っている。しかし記念館HP等を見ると、残念ながら現在はもう池に水は無いらしい。さて、どうなっているのだろう。
ココか?と思われる場所の道路を挟んだ反対側に、立て看板。
南吉は、一方の岸から対岸へ石を投げられる程のスケールに凝縮して描いたが、実際の半田池は半田市、阿久比市、常滑市にまたがる広大さ。今、そこに水は無い。あるのは、ソーラーパネルだ。水は抜いたのではなく枯れたらしい記事もあった。とは言え、想像の翼は全く物語の世界へ拡がらない。世の中の変化に淘汰された様子が「おじいさんのランプ」と照らすと皮肉にも感じられ、言葉を無くした。『手袋を買いに』の名ゼリフ然りだ。
水をたたえた半田池の画像アリ➡ https://www.shunyodo.co.jp/blog/2018/07/niiminankichi_3/