『覇者』誇り高く、『紳士』凛々しく男らしく(その3)〜関東大学ラグビー早稲田対青山学院を観て〜
1.再び開演のベルは鳴る
秩父宮ラグビー場は、青学の独走トライに興奮した観客の高揚感に満ちていた。
まるでいい『舞台』を見終わった後の様に、心地よい疲労感が私を満足させていた。
今振り返ると、そんな気持ちは両チームの選手に対して失礼だったと思う。
この『舞台』はまだ終わっていない。
単に、幕間の短い休憩時間に入っただけだった。
そして、早稲田と青学が紡ぎ出す『物語』の第二幕は、
観客の予想以上に早く、そして『華やかに』始まったのだった。
2.第二幕は、華やかに、スリリングに
前半はまだ終わっていない。
青学ボールラインアウト。空中戦で早稲田は青学選手を引っ張ってしまう。
早稲田ペナルティー
40分 青学PG成功 早稲田対青学 19-10
その美しい軌道に、白いフラッグの上がる前から観客の拍手は始まっていた。
ここで前半終了。点差は9点。
両チームに大きな拍手が送られた。
ハーフタイムは短い。すぐに後半が始まった。
早稲田のキックから青学ボール獲得、左へ右へ、青学13番は加速してまた左へ、ボールは選手の手と手を経由しながら勢いを増し早稲田陣内に運ばれていく。
早稲田ここでハイタックルのペナルティー。
42分 青学PG成功。早稲田対青学 19-13
ついに6点差!
しかし、直後、青学は自陣でノックオン。
早稲田ボールのスクラムに。その後早稲田はスクラムで青学ゴールラインに迫る。そして、右へ左へとボールを動かしていくが、その都度青学の速く低いタックルが突き刺さる。
しかし、青学ペナルティー。
再び早稲田ボールのスクラム。ボールは早稲田に出るが、選手の手からボールはこぼれ落ちた。
早稲田ノックオン
ここまでで、ハンドリングエラーは、早稲田の5つ、に対して、青学は2つ。
早稲田は相変わらずギアが上手く入らない。
青学ボールのスクラム。
出たボールをキックするが早稲田キャッチ、早稲田15番が走り出す。ボールは右へ右へ。最後は余裕を持って早稲田13-14とスムーズにつながった。
49分 早稲田トライ コンバージョン成功
早稲田対青学 26-13
エンジンが上手くかかれば、あとはアクセルを踏み込めばよい。早稲田はやはり『覇者』だった。
観客の拍手は『納得』の拍手だった。
その後、早稲田は左へ右へと選手は高速で連携していくが、ここでまた
早稲田ペナルティー
ギアの調子はまだ悪いようだ。
青学は早稲田陣内へ入っていく。
ボールを得た青学は、猛然と早稲田ゴールラインを目指す。青学6番はキックしたボールを自らキャッチ、そしてボールは青学8-10と鮮やかに渡り、青学10番は落ち着いてボールを地面に置いた。
51分 青学トライ コンバージョンはポストに当たって失敗 早稲田対青学 26-18
トライを決めた青学10番に数人の選手が弾ける様な笑顔で抱きついた。
会場の拍手は一際大きく響いた。
その後も青学の低く鋭く速いタックルは続く。
早稲田ペナルティー。
青学はラインアウトから左へ右へと大きくボールを動かしていく。
再び早稲田ペナルティー。
57分 青学PG成功。早稲田対青学26-21
ついに5点差!これは1トライ1ゴールで逆転可能な僅差だ。
会場は、後半中盤になっても奮闘を続ける青学に称賛の拍手を惜しまなかった。
残りあと20分!
とはいえ、早稲田にとって、与えられた20分間という時間は、昨年度の覇者の貫禄を示すには十分すぎる時間だったのかもしれない。
この舞台にはやはり、『第3幕』があったのだ。
3.そして、フィナーレ
早稲田ボールのラインアウトから、早稲田は右に速くボールを運んでキックする。青学陣内ゴールラインに向けて転がるボールの勢いは強く、青学の選手はボールを外に出すのが精一杯だった。
早稲田ボールのラインアウト。ボールを獲得した早稲田19番が飛び出す。青学は残り1メートルで必死の防御。その時、ゴールライン左側の防御は手薄だった。ボールは左へ渡り早稲田10番が悠々と駆け抜けた。
60分 早稲田トライ コンバージョン成功
早稲田対青学 33-21
その後、早稲田は右左右と走りながら青学陣内に入るが、ここで青学がボールを奪う。しかしその後ペナルティーを取られ、早稲田は再び、左へそして右へ、大きくボールを動かしながら青学陣内へ。
青学にはエネルギーがまだ残っていた。
前進する早稲田を低いタックルで止め続ける。そして、早稲田ペナルティー。
青学はピンチを脱した。残りは15分、12点差。
青学ボールラインアウトだったが、ボールは早稲田に渡る。
ところが、またしても早稲田の選手の手にボールが収まらない。再び早稲田は前進を試みるも、青学のタックルは衰えず、早稲田はボールの出し所を迷ってしまう。そして、早稲田ノックオン。
その後スクラムを組むも双方にペナルティーがあり、70分、早稲田ボールのスクラムとなった。
早稲田はボールを大きく右に出して速く繋いでいく。ついていけない青学がペナルティー。早稲田は大きく蹴り出し青学陣内へ。
早稲田ボールのラインアウトから左右左とボールは前へ動いていく。青学ペナルティー。
早稲田は即座にボールを動かし、右へ。青学6番が低くタックルに入るがわずかに間に合わない。
彼はしばらく動けなかった。
早稲田12番はボールを大きく右へ。最後は待っていた21番が手にしてそのまま駆け抜けた。
73分 早稲田トライ コンバージョンも成功
早稲田対青学 40-21
試合はこれで終わらなかった。早稲田はラインアウトから青学陣内に入る。青学は懸命に守るが、早稲田10番は青学8番のタックル直前に速く右へボールを渡す。そして早稲田13番は、青学の防御を振り切り走り抜けた。
77分 早稲田トライ コンバージョンも成功
早稲田対青学47-21
これは、この日早稲田7つ目のトライだった。
早稲田は今度こそギアが入ったらしい。
パスとキックを織り混ぜて青学陣内に突入する。
既に青学の選手は肩で息をしていた。時計は既に80分を回っている。
早稲田は青学ペナルティーの後、すぐ攻撃を再開、左へボールを運ぶが、青学も必死で守る。
ボールは早稲田8番から11番に渡り、彼は防御をかわしてゴールライン左隅に片手で押し込んだ。
しかし、その前に足がライン外にでていた。
ここでノーサイド
早稲田対青山学院 47-21
彼らは中央に集まり互いの健闘をたたえあった。握手禁止と言われていたらしいが、そんなことは忘れてしまったのだろう。
この素晴らしい試合
観客の多くは、スタンディングオベーションで選手達に賞賛の拍手を送った。
試合結果を見れば、早稲田はやはり『覇者』たる姿を観客に示してくれた。たとえ本調子でなくとも、最後は7トライ、26点差。快勝だった。
帰宅後、改めてこの試合の録画を見た。後半途中から一緒に見ていた娘が呟いた。
『青学って、貴公子って感じね。』
たしかに、この最後まで情熱と規律を忘れなかった青年達は、落ちついた響きを持つ『紳士』と呼ぶにはあまりに若々しい。
この日、私が秩父宮ラグビー場で出会ったのは、間違いなく、気品高き
『黒衣の貴公子』達だった。