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08年〜18年のドラフトから見る 巨人軍生え抜き選手事情


 待望のプロ野球開幕まで残り1週間

 各チーム、空席に囲まれながら練習試合で調整を進めている。

 巨人軍は、先日坂本勇人と大城卓三のコロナ静養の為、開幕に間に合うかが微妙なところである。

 そんな中、ここぞとばかりに2つのポジションを巡る争いが白熱しており、ショートのポジションでは3年目の湯浅が好調を維持。坂本の状態次第では開幕一軍どころか開幕スタメンまで視野に入るレベルである。
 捕手は小林誠司と炭谷銀仁朗のバットでポジションを争っている。6月打率が小林.600、炭谷.400と両者譲らない。
 原監督も頭を悩ませる1週間になるだろう。


 さて、前置きが長くなったが、このように、主力が離脱した時にすぐ代わりの選手が埋め合わせることの出来るチームは強いチームのひとつの象徴といえるが、他球団から選手を獲得するのも良いが、自軍から「我こそは」と台頭してくるとチームにとって大きいのは間違いない。

 そこで今回は巨人軍の"地力"の検証と今後の注目選手をピックアップしていきたい。

 検証方法としては、
「高校生」と「大学・社会人」の括りが統合され、現行のドラフトが始まった2008年から2018年ドラフトまでの11年間で入団した選手を対象に、様々な傾向や特性を調べ、独自に設けた【評価基準】をクリアした選手を絞り込む。

【評価基準】
(投手)
・年間平均30登板、もしくは80投球回

(野手)
・年間平均70試合、もしくは200打席以上

※注意事項※
・一軍での出場がなかった年は実働年とカウントしない
・各年間平均成績は小数点以下四捨五入する。

 おそらく長くなるとは思いますが興味のある方はお付き合い頂けると幸いです。

 では早速、08年〜18年のドラフトで入団した選手をおさらいしてみよう。


1.08年〜18年ドラフト入団全選手とその内訳


【表1】08年〜18年ドラフト入団全選手の巨人通算成績

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【表1】で示したのは、08年〜18年のドラフトで入団した全選手(育成は除く)の巨人軍での通算成績(2020/6/12現在)と、その成績を実働年1年辺りに換算した成績である。
 11年間でのべ65名の選手が入団しているのだが、これはソフトバンク(64名)に次ぐ2番目に少ない数字になる。
 ちなみに育成ドラフトでの指名数は両チーム同数(62名)でトップなのも面白い。

 これらの選手の内訳は【表2】のようになる。

【表2】各種内訳

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 投手が多めなのは分かるが外野手が極端に少ないのが目立つ。90年代〜00年代半ば頃までは松井秀喜、高橋由伸、清水隆行らが磐石であり、その後は矢野謙次や鈴木尚広、亀井義行らを獲得したものの、その後は谷、ラミレス、陽岱鋼、丸佳浩と移籍組が務めることが増えた。
 松本哲也が育成出身野手で初の新人王となったのも、亀井が25HRをかっ飛ばして松本と共にGG賞を受賞したのも10年以上前の話である。

 出身別で見ると、高卒、大卒、社会人の内訳はバランスが良く見える。


2.【評価基準】をクリアした選手

 次に、私が独自に設定した【評価基準】に当てはまる選手を絞り込んでみる。

【表3】評価基準クリア者

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 クリアしたのは、投手12名、捕手2名、内野手2名、外野手1名 の計12名となった。
 こうして見ると、現在レギュラーを張っている選手や頭角を現している選手が並んでおり、納得の面子である。
 ただ、私が設定した【評価基準】は決してハードルは高い訳ではないし、あくまで評価の基準であることは確かなのだが、12名まで絞られたというのは少し寂しい気もする。


3.選手詳細と傾向 注目選手(投手編)

 投手陣で特筆すべきは、澤村拓一菅野智之か。

 澤村は入団当初は先発としてルーキーイヤーにいきなり200イニング投げたタフネス右腕だったが、2015年からリリーフに転向。2016年にはセーブ王にも輝くなど、適応能力の高さを見せた結果、チームで唯一、平均30登板と80投球回の両方をクリアした。

 菅野は1年目から6年連続で規定投球回をクリアし、昨季までの7年間で6度の二桁勝利、更に2017年、2018年には2年連続の沢村賞を受賞するなど、言わずと知れた日本のエースに成長した。平均174イニングは評価基準の倍以上をマーク。ダントツである。

 他にも高卒投手で唯一クリアした田口麗斗は、昨季のリリーフ起用もあり、平均27登板と登板数でも基準クリアまで割と惜しいところまで来ていた。
また、上記の澤村、菅野両投手に加えて、故障がちではあるがポテンシャルの高さを見せている戸根千明や、ブランクがありながらも平均33登板をマークしている高木京介、ルーキーイヤーに93イニング投げた高橋優貴など、投手に限ると、【大卒投手】は割と務めを果たしている印象を受ける。
 大卒投手では他にも、昨季ローテーションの一角を担い、ブレイクを果たした桜井俊貴や、クローザーにセットアッパーとフル回転でリーグ優勝に貢献した中川皓太、スペ体質ではあるが、トッププロスペクトの畠世周も大卒だ。

 高卒選手は結果が出るまで期間がかかるとはいえ、入団から9〜12年経っているはずの08年〜11年ドラフト組の高卒投手は7名中5名が引退、残りの2名の宮國椋丞今村信貴もなかなかレギュラーを掴みきれずにもがいており、いよいよ後がない立場なのを見ると、高卒エースの育成というのはいかに難しいかが分かる。

 社会人出身投手は即戦力として、高木勇人田原誠次など、一定の成績を残している選手がいる一方で、ほとんど一軍で花を咲かせることが出来なかった選手も多い。
 年齢的にもアラサーの選手がほとんどの為、入団から3年以内で全く結果が出なければ見切ることも必要だろう。

 これらの点をまとめると、

・高卒投手は育成に時間がかかる上、チームを背負って立つ主力が育った例が少ない。
・社会人出身投手は年増な選手が多いため、入団3年以内がカギ。
・大卒投手は即戦力な上、社会人ほど年も食っていないので即戦力、または中長期的な運用が計算しやすい。

 これらを踏まえて注目選手をピックアップすると、昨年のドラフト2位で入団した太田龍だろうか。
社会人出身という括りではあるが、大学を経ていないので21歳と若く、アマ球界での実績も十分。
 まだ先発かリリーフか運用方法は固まっていないようだが、6月7日の二軍練習試合ではプロ入り最長の6回を投げ2失点と粘り強い投球を見せた。
 細かい制球が身につけば1年目から一軍で投げる可能性は大いにある。

 先程、高卒投手は育った例が少ないと言ったが、昨季高卒1年目で優勝決定試合で先発デビューし上々のピッチングを見せた戸郷翔征や、4年目の高田萌生も一軍に近い投手であり注目したい存在だ。


4.選手詳細と傾向 注目選手(捕手編)

 続いて捕手を見てみよう。
 評価基準をクリアしたのは小林誠司大城卓三の2名。

 小林は1年目から一軍の舞台で経験値を積んでおり、阿部慎之助現二軍監督の、現役捕手時代をベンチから見ていた唯一の男であり、一時正捕手に座っていた男でもある。
 トレードマークの強肩はもちろん、リード、壁能力、フレーミングなど、"捕手力"はセ・リーグでも随一であり、それは6年間で既に3度のノーヒットノーランを演出している事からも分かる。
 課題は打撃だが、冒頭でも紹介したように、6月は月間打率.600と打ちまくっている。
 しかし、小林といえば春先は打撃好調なのが有名なので過度な期待はできない?かもしれない...
しかし普通にやれば正捕手に1番近い存在といえる。

 大城も入団1年目から1年間一軍に帯同して実績を積んでいる。小林とは対照的に打撃センスに溢れており、放物線を描くホームランは背番号24の先輩、高橋由伸を彷彿とさせる。そのため、打撃を生かすため捕手としてでなく、一塁手として起用されることも多かったが、「打てる捕手」として期待し、阿部慎之助の影を重ねてしまうのも事実だ。
 課題は守備で、盗塁阻止率が低く、フレーミングや壁能力にも課題を抱える。
 メルセデスや田口ら左腕との相性が良い反面、右腕とはあまり息があっていない印象を受けたので投手によって相性の善し悪しを少しでも減らし、リードの幅を広げることが大事だろう。小林や炭谷に学ぶことは多いはずだ。
 まずはコロナ静養から復帰して実践感覚を取り戻すことが先決である。

 正捕手争いとは言うものの、リーグ優勝を果たした昨季は小林、大城、炭谷の3名の併用という形で運用し、1年間を回した。どうしても投手との相性は少なからずあると思うし、チームとして、足りないところの補い合いをする事も大切であることは間違いない。

 また、小林、大城の両選手はともに社会人出身である。
 高卒捕手は経験値が足りない為、1年目から一軍のマスクを被る例は少ない。その点、大卒や社会人出身は経験値の面で1歩2歩差がついている点が大きいのかもしれない。

 これらの点をまとめると

・捕手は経験値が重要な意味を持つ為、高卒捕手と大卒、社会人ではプロ入り時点で差がある。
・ある程度年齢を増してもレギュラーを担える。

 これらを踏まえて注目選手を挙げると、大城と同期入団の岸田行倫だろうか。
 指名順位を見ても分かるようにアマ球界では非常に高い評価を受けていた大型捕手だ。
 広角に強い打球が打て、肩も強い。粗さはあるが、十分にレギュラーを狙えるポテンシャルがある。
 しかし現状は上記3捕手に次ぐ4番手扱い。まだ23歳と若い為、一軍での経験値を積みたいところ。

 その岸田に加えて、昨季のドラフトで獲得した山瀬慎之助も注目だ。高卒なので、長い目で見て5,6年後の話ではあるが、同名の憧れ 阿部二軍監督の英才教育を受けながらのびのび育ってほしい。


5.選手詳細と傾向 注目選手(内野手編)

 次は内野手。
 基準をクリアしたのは岡本和真田中俊太の2名。
この2人はタイプも経歴も対象的であるので比較が難しい。

 岡本は当時の高校No.1スラッガーとして鳴り物入りで巨人に入団。高卒1年目ながらいきなり初HRをマークするなど、速いテンポで一軍の舞台を駆けた。2年目3年目は一軍での目立った活躍はなかったが4年目に才能が開花。史上最年少で3割30本100打点をマークするなど4番の役割を務めあげた。5年目の昨年も30本塁打をクリアし、名実共に巨人軍の4番に君臨している。
 また、一塁、三塁、左翼と、複数ポジション守れる点で一般的なスラッガーと差別化を図れ、チームでも使い勝手が良い。
 今年も当然4番として3年連続での30本塁打だけでなく、2年ぶりの3割30本100打点達成にも期待がかかる。試合数が少ないものの十分期待が持てる。

 田中俊は社会人出身の3年目。1年目から一軍に帯同し、吉川尚輝の離脱後は二塁のレギュラーを担い99試合に出場した。
 2年目は同学年の山本泰寛、若林晃弘と二塁のポジション争いを繰り広げたが、自身の不振でポジションを明け渡す格好になった。それでも本塁打、打点は1年目を上回った。
 走攻守のバランスが取れた選手であるが、逆をいえば突出したものが無いとも取れる。93年組の中で抜け出すには何か突出したものが欲しいところ。

 岡本もそうだが、いつの時代も高卒の内野手というのはどこかロマンに溢れた存在である。
 08年の大田泰示、13年の和田恋、そして14年岡本。高卒の和製大砲には夢がある。大砲でなくても、06年坂本勇人のようなスターが生まれるかもしれない。そういう将来性があるからこそ和田恋は6年待ったし大田泰示は8年待った。
 自軍で才能が開花しなくとも、戦力外にはせず、トレードで新天地へ送ってあげた。
 どこか期待してしまう自分がいるのだ。

 当然田中俊のような即戦力でチームの力になる選手もいるが、突出したものがない限りはどんぐりの背比べ的な面があるため、チーム内で扱いが難しくなる。

 これらの点をまとめると

・他のポジションと比べて、内野手は高卒新人でも一軍で経験が積みやすい。
・即戦力型の内野手は突出したものが無い限りは起用法が定まらず、チーム内で孤立する可能性がある。

 これらを踏まえて注目選手を挙げると湯浅大を推したい。
 現在、絶賛アピール中の高卒3年目だ。
 決して身体は大きくないが、パンチ力があり、6月7日の練習試合でレフトスタンドへの特大HRを放ったように、強い打球を引っ張れるのが良い。インコースの捌き方は坂本そっくりだった。
 守備も堅実で、足が早いため、ヤクルトの山田哲人のような選手像を描いてしまう。昨年まで一軍出場は無かったが、この調子を維持出来れば間違いなく開幕一軍は掴める。非常に楽しみな選手だ。

 また、大卒だが北村拓己にも注目している。彼の強みは出塁能力の高さだ。昨季、イースタン・リーグ最高出塁率のタイトルを獲得し2年前も出塁率4位に付けている。
 OP戦でもその長所をアピール出来ていた。今は二軍にいるが、長打力に磨きをかけて近い将来は「2番一塁」として攻撃型二番を後継して欲しいと思っている。

 加えて、坂本勇人と同じ恩師の下高校時代プレーした増田陸も期待したい。プレーに粗さはあるが、それは坂本も一緒だった。まだ二軍での実績も乏しいが、まだまだこれから伸びしろたっぷりの選手。   我々巨人ファンは背番号61の遊撃手に期待せずにはいられないのだ。


6.選手詳細と傾向 注目選手(外野手編)

 最後に外野手を見てみよう。
 基準をクリアしたのは長野久義ただ一人。だがその成績は素晴らしい。

 長野は他球団への2度の指名拒否を経て念願の巨人入り。批判も浴びたが、いきなり新人王に輝くと2年目には首位打者、3年目には最多安打と、成績で雑音を黙らせた。その後も好不調の波はあるものの、得意の夏場に調子を上げてシーズン終了時には.275〜.285、15HRくらいにはまとめてきており、ある意味安定感はあった。高橋由伸以来の巨人軍完全レギュラー外野手にハマった男だ。
 そんな長野も奇しくも丸佳浩の人的補償で昨年から広島でプレー。移籍一年目は不本意な成績に終わったが、まだ老け込む年齢ではないので、もう一花も二花も咲かせてほしい。

 その長野久義を目標の選手にしているのが、プロ2年目の村上海斗だ。
 189cm、95kgの大型外野手ながら50m5秒8の俊足の持ち主。"右打者版 柳田悠岐"を期待したいし、将来的にはトリプルスリーも視野に入れれる選手だ。

 橋本到は名門仙台育英高から08年ドラフト4位で入団。その強肩は原監督から「巨人で1.2番」と評価されており、2014年にはキャリアハイとなる103試合に出場するなど存在感を見せたが、12度の肉離れなど、度重なる怪我で思うようなプレーは出来なかった印象が強い。
 昨年から楽天へ移籍したが1本もヒットは出ず、その年限りで引退した。

 重信慎之介は5年目の俊足外野手。
 1年目から25試合に出場し、持ち前の俊足で3本の三塁打を放つなどアピールを続け、2年目に初の2桁10盗塁、3年目にはキャリアハイの47安打、打率.281と年々成長を遂げている。
 昨年はキャリアハイの106試合に出場し、サヨナラ打も放つなど、起用法が定まらない中でアピールを続けている。

 序盤でも話したとおり、巨人軍はこの11年間で外野手の指名は4名と非常に少ない。
 高卒、大卒、社会人卒と出身は多様だが傾向を導き出すほどのサンプルがないのも事実だ。
なので更に遡って見てみると、高卒では松井秀喜、大卒では高橋由伸、社会人出身では長野と、各出身事にチームを背負う主力が生まれていることに気付く。言い換えてみれば、これと言った傾向がない事が特徴なのかもしれない。
 また外野手は足が速い選手が多いため、打撃で衰えても、鈴木尚広のような「脚のスペシャリスト」になり"再就職"しやすい点もある。

 これらの点をまとめると

・出身関係なく、レギュラー級の活躍の例がある。
・俊足選手が多いため、打撃で衰えても代走などの居場所が見つけやすい。

 注目選手をピックアップすると、共に育成出身の山下航汰加藤脩平を挙げさせてもらう。
 山下は高校時代からプロ注目の選手で育成まで残っていたのが不思議なくらいだった。
 その打撃センスは一軍級で、プロ一年目の7月に早速支配下登録され、9月にプロ初安打を地元群馬でマークした。
 イースタン・リーグではあのイチロー以来となる高卒一年目で首位打者に輝くなど、早く一軍で見たい選手だ。
 しかし、先月右手を骨折し開幕には間に合わない見通し。
 非常に心配だし復帰後も打撃に影響が出ないことを願う。

 加藤は入団3年目の昨年に支配下登録された。バッティングが柔らかくパンチ力も備え、守備も良い。一軍でのヒットはまだ出ていので、今季中に一軍での躍動を楽しみにしたい選手だ。チャンスは必ず来るはず。


7.まとめ

 非常に長くなったが、08年〜18年のドラフト入団選手から巨人軍の生え抜き事情を見てきた。

 また、各ポジション毎に注目選手をピックアップさせてもらったが、彼らを含めた生え抜きと、移籍組、外国人選手が一体となる事が大事だということは私がここで口を酸っぱくして言わなくても皆さん分かっていることだ。

 今回紹介したピックアップ選手達も、他の生え抜きや移籍組がきちんとチームの土台を作った上での話だ。

 10年後、同じような検証をした時、評価基準をクリアする選手が今回よりも増えてくれることと、坂本と大城の早期復帰を願って締めとします。

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