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小林誠司について思うこと。


 3月1日、巨人軍から発表されたのは「巨人・田口麗斗投手とヤクルト・廣岡大志内野手の1対1交換トレードが成立」という衝撃の内容だった。

 田口は高卒2年目から先発ローテーションで投げ、2016年から2年連続二桁勝利をマークするなどチームの若き左腕エースとして投げてきたが、2018年の不振からリリーフに転向。2019年には夏場に10連投を記録するなどとにかくチームのために献身的に腕を振ってくれた。
 チームが優勝できなかった時期のエースということで若干久保裕也感はありながら、リリーフとして優勝に貢献出来たのは良かったなと思う。
 しかし昨年は再び先発として開幕するものの復活とはならず結局リリーフに戻って便利屋として投げ、チームはリーグ連覇を果たしたものの個人としては不本意な1年に。
 また今季のキャンプ中に故障離脱すると原監督から「職場放棄」と嘆かれていた。

 廣岡は入団時から、荒削りながら攻守に高い将来性を秘めたトッププロスペクトの一人。
 2019年に10本塁打を放つなど飛躍しかけたがレギュラー奪取とはなっておらず燻っていた。

 そこで、課題の投手力を補うために即戦力の投手が欲しいヤクルトと、右の大型野手と将来的な坂本勇人の後継者が欲しい巨人の思惑が一致した形で、このトレードが成立したのだろう。(恐らく原監督主導)

 近年、巨人を中心にトレードが増えたように思える。
 高い能力を持ちながらチーム事情で二軍にいる、所謂「飼い殺し」を減らす意味でもとても良い事だと思うし、それが選手が活躍するきっかけになるのならどんどんやるべきだとも思う。

 そうなるとSNS上でファンによるトレード予想が繰り広げられることが増え私もよく目にするのだが、その中でもよく名前が挙がる選手がいる。巨人・小林誠司だ。

偉大な大先輩

 小林は2014年にドラフト1位で入団。
 当時は"正捕手 阿部慎之助"の晩年 〜 一塁コンバートへの転換期であり、社会人出身の小林は即戦力としてポスト阿部慎之助の座に座ることが期待された。

 当時の小林の魅力はなんと言っても顔の良さ...だけでなく肩の強さ。遠投115m、二塁送球1.9秒(当時)を誇り、実際1,2年目は規定試合数不足ながら盗塁阻止率は4割を超えている。

 守りの面では阿部の後継は比較的スピーディーに進むと思われたが大きな課題があった。マスクを被るとせっかくのイケメンが...じゃなくバッティングである。
 そしてこれが後にも小林の重い足枷となってしまうのだ。

正捕手

 阿部の一塁コンバートが本格的に始まった2015年半ばからスタメンマスクを被る機会が増えた小林。
高橋由伸監督政権が始まった年でもある2016年からは本格的に正捕手を担う。
 この年129試合に出場し12球団の捕手で唯一の規定打席に到達。盗塁阻止率もリーグトップを記録するなど飛躍する。
 8月の「コバヤシィ!」事件なども経てフレーミングも磨きがかかり、壁性能も上がった。
しかし一方で、バッティングには大きな課題を残し、打率.204は規定到達者で最下位。
 これを踏まえてこのオフ、頭を丸刈りにして、打てる捕手・阿部のグアム自主トレに同行することになる。

ラッキーボーイ

 2017年3月。第4回WBC日本代表に選出されると全日本の正捕手として全7試合にスタメン出場。
 パスボールは0で、現オリックスのA・ジョーンズの盗塁を刺すなど守備では流石の存在感を放ったが特筆すべきはバッティングだ。
 打率.450はなんとチームトップでホームランも放ち6打点と自主トレの効果?をいかんなく発揮した。
 また、オーストラリア戦では緊張でピンチを背負い、制球を乱していた中日 岡田俊哉に対しての声掛けが注目され、攻守ともに世界中にKOBAYASHIの名を轟かせた。
 「ラッキーボーイ」と呼ばれ始めたのもこの頃だ。

 しかし、シーズンに入ると打棒は影を潜め、2年連続で打率リーグ最下位を記録。

 それでも初選出されたオールスターゲームでは初打席初球をホームランにするなど「ラッキーボーイ」ぶりは健在だった。

 一方守りではパスボールわずか2個、盗塁阻止率2年連続リーグ1位、山口俊らとセ・リーグ初の"ノーノーリレー"を達成、さらにはゴールデングラブ賞受賞と、女房役としての評価をみるみる上げていく。と思われた。

ライバル

 そんな実り多き充実した年のオフ、チームはドラフトで2人の即戦力捕手を指名した。大城卓三と岸田行倫だ。

 この2人に共通するのは"打撃が良い"こと。

 そう、チームは鉄壁の守りを誇る正捕手 小林誠司のディフェンス力に関しては評価をしているものの、やはり最低限の打撃力が欲しいという面もあった。

 そこで小林に対する起爆剤として捕手を2人、それも即戦力で獲得した。
 当時、チームには宇佐見真吾という打撃のいい捕手がいたにも関わらずだ。

 これはきっと小林の尻を叩く意味と、宇佐見の成長を促す為、それによりチーム内の競争を激化させる意図があったと個人的には見ているが、やっぱりドラフト当時は驚いたのを覚えている。

比較

 平成の巨人軍は長らく阿部慎之助という絶対的な大黒柱が構えており、打てる捕手へのある種の免疫が巨人ファンにはついている。

 守りの面では日本を代表する力がある捕手である小林も、その課題の打撃が足を引っ張り、物足りないと思われているのはとてももったいないと思う。

 やはりファンや球団としても宇佐見や大城の方が阿部の影を重ねやすく、守りは今後上達してくれればいいから今はとにかく打撃の良い捕手を育てたい思惑があったのも事実だ。

 その証拠に2018年は小林を捕手のベースにして戦っていくものの、大城を一塁との併用という形で打撃を活かそうと試みている。

 結果、その年の大城は.265 4本塁打と近未来を期待させる打撃結果を残しアピールした。

 小林も春先はリーグ首位打者に躍り出るなど打つ時期もあったが、徐々に打撃は下降線を辿り、大城らにスタメンを譲る機会も増えて規定打席に届かず、もどかしい時期に直面する。
 盗塁阻止率3年連続リーグトップ、菅野、山口らと自身3度目のノーヒットノーラン達成 と捕手としては素晴らしい活躍をしたのに...だ。

 そうこうしていると小林にさらなる追い打ちをかける出来事が起きる。炭谷銀仁朗の加入だ。

併用

 経験豊富で打撃もいい炭谷の加入で、2019年は「小林・大城・炭谷の捕手3人併用制」で戦うことになる。

 これは故障防止もあるが、守りの良い小林,打撃の良い大城,経験値の高い炭谷 とそれぞれ差別化できており、賛否はあったものの、チームはリーグ優勝を果たすなど一定の結果も出た。

 阿部慎之助が捕手を退いてから初めての優勝となったこの年、厳しい言い方をするなら「小林が正捕手を担ってから初の優勝」でもあった。
 阿部と共に戦ってきた原監督の求める捕手像は「打てる捕手」ではなく、「勝てる捕手」だ。

 捕手併用制により、この優勝は誰の手柄によるものかということでは無い。

 この年はこの戦い方、起用法がベストだったということを結果が証明している。

 なお小林は4年ぶりに出場試合が100を割ったものの、盗塁阻止率は4年連続でリーグトップを記録し、山口と最優秀バッテリー賞を受賞するなど守りの面では圧倒的な実力を持っており、また打撃でも.244とまずまず及第点の数字を残した。

悲運

 チームとしては2020年シーズンは前年同様捕手併用制で進めると思われた矢先、小林を悲劇が襲う。開幕3戦目に死球を受け左手を骨折。長期離脱となった。

 これまで大きな長期離脱も無く、「痛いと言わない」で有名な小林がこのタイミングで離脱してしまったのは不運の他言い様がない。

 そうなるとチームは"大本命"大城をメインで使っていくことになる。

 すると大城が実践を重ねていくうちにみるみる成長。
 チームにとってはとても明るいニュースなのだが小林にとってはそうもいかない。
 元々打撃の良い大城が守りでも成長を見せているのだから、離脱時「職場放棄」と嘆かれた小林の立場は一気に厳しいものとなった。
 チームはポスト阿部の座を任せるなら、"打てる"事は大きな条件として持っているだろうからだ。

 小林は守りでは阿部を上回る。だが、打撃では到底阿部には敵わないしこれから伸びるのも予想しにくい。

 どうしてそんなに阿部と比べるのか。

 酷な言い方をすると、それは巨人軍に入団した小林の宿命なのだ。

 いつになっても今後の巨人軍の捕手は、あの偉大な阿部慎之助と比較される運命なのだ。

居場所

 捕手併用制を敷いた2019年当時、私はチームが勝つならこれでいいと思っていた。
 そりゃ阿部慎之助がもう1人現れてくれれば一番良いがそんな事はなかなか難しい。
 それならば持ち味の違う捕手を併用していけば良いと思っていた。

 だが、今の大城の成長スピードは嬉しい誤算だ。

 小林不在の中、1番手捕手としてシーズンを守り抜き、打撃3部門でキャリアハイ、さらに課題とされた守りでも盗塁阻止率を前年から.170近く上昇させるなど、攻守に渡ってチームの優勝に貢献し、阿部以来となる捕手でベストナインにも輝いた。

 こうなるとチーム内での序列は変わってくる。
 守りの小林、打撃の大城で区別できていたところが、大城の「捕手力」が伸びたため、トータルバランスで小林を抜いてしまった。

 同じく打撃の良い岸田の台頭も見られ、小林の居場所は巨人には無くなってきているのではないか...

 そういった点から、近年のトレード話の常連となってしまったのではないか。

最後に

 私は決して小林を貶したい訳でも、大城を贔屓したい訳でもない。
 どちらも巨人にとって欠かせない戦力だと思っている。
 なんなら捕手は守備が第一だと思っているので、正捕手は小林だろと思っていたくらいだ。

 ただ、誤解を招きそうな言い方をさせてもらうと、

 "小林誠司はツイてない選手だ"

とは強く思っている。

 少々の打撃の弱さは目を瞑れる程の球界随一の"捕手力"を持ちながら、入団したチームの前任正捕手が球界屈指の強打の捕手だった事で、常に「物足りなさ」を嘆かれてきた。

 他球団なら間違いなく正捕手を担えるのに、ぐんぐん捕手の底上げが進む巨人という環境で埋もれつつある。

 阿部の影を追うのは一旦一区切りして、捕手併用制というパターンを見出したことで小林にも大きな存在意義が生まれた矢先に怪我で離脱。

 その間の大城の成長でみんなが再び打てる捕手への夢を追い、阿部の影を大城に重ねてしまった。

 ツイてないという無責任な言葉で表すのは非常に失礼だと思うが、言いようがない。

 正直、トレードに出されそうな雰囲気がないとはいえない。

 小林が果たせなかった、「正捕手として優勝」や「ベストナイン受賞」も大城は1年でやってのけた。

 選手一人の力で云々ということではないのは重々承知だし、田口にも共通して言えることだが、これらも含めてツイてないと思ってしまう。

 レジェンド捕手からの転換期に入団した小林誠司。

 彼は決して阿部から大城へ転換するチームの繋ぎ役ではない。

 実際に共にプレーしているチームメートからの評価を見ると、小林がいかに捕手として投手からの信頼を得ているかが分かる。

 昨年途中に小林が復帰して守りに付いた際、あの完璧なフレーミングで「やっぱり小林の安定感はレベルが違うな」と思ったのも強く覚えている。

 だが、ここで色々言ったところで、やるのは小林本人だ。
 小林本人にとって、何が幸せなのか。
 答えは本人しか分からない。

 それでも一ファンのわがままとしてひとつ言わせて頂きたい。

 小林誠司は巨人に絶対に必要な戦力だと。

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