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伝えた

いきなり、同僚の井上(以下、登場人物の全て仮名です)が泣きながら私に相談してきた。

聞けば新しいスタッフと折り合いが悪いらしく、課長にすぐ話を持っていかれると泣いていた。

……井上は、人1倍仕事をするのだが、余裕の無さから新人スタッフに当たり散らす事が往々にしてある。

そこが原因で辞めていったスタッフも何人かいた。

以前、井上に話した事もある。
「ねぇ。目の前にシートがあるの、分かってるよね?」
じゃなくてさ。
「今、手が回らないんだ。手空いてたらシート入力してもらえる?」
そう言えば受け取り方は違うんだよ。
と。

それでも業務が逼迫してくるとパニックになり、大人しくて言い返せないようなスタッフに向けてキツい言い方をする。

話しを聞きながら
「……身から出たサビだろう」
とも思ったが

それは誰も同じ。
私も同じ。

生きてる限り、サビは出る。自分で気が付かないだけなのだ。
跳ね返って来て、苦しい思いをして、初めて自分を知る事が出来る。

学びとなり、サビを落として禊ぎとなるのではないかと思っている。
腹の底から、心から、学びを受け止める事が出来る。


それを知っているのに、偉そうに講釈を垂れてしまった…

自分もこないだ、自分より年上の新しいスタッフを怒ってしまったのに。




配薬のチェック業務(2人で行う)をしていた時、
「八雲さん、○○の時にホニャララ…」別件で話しかけられ、対応していた。するとその新人の矢田は未確認の袋をシレッと処分しようとしていた。

!!!
ちょっと待て!


「まだ、森さんから下はダブルチェックしてないよね?」
確認すると矢田は平然と

「……え?しました〜!!」

と言い切った。
……

……

本人を目の前にして普通に、大嘘を吐く。
何でそんな事を、堂々と出来るのか?

高速で怒りが沸騰した
八雲ケトルが鳴り出した。


「嘘をつくな!!見ていなかったから、言ってるんだ!!矢田さん。ダブルチェックの意味は理解してる?
誤薬や服薬し忘れになったら容態が急変する方も沢山いらっしゃる。ただ名前確認と、服薬済みの袋を捨てるだけでいいなら、ダブルチェックなんて必要無い!!

……最初からやり直します。浅香さんから。
はい、どうぞ。」

矢田は下を向いたまま、小さな蚊の鳴くような声で「はい…」とだけ言った。


………自分でもキッッつい言い方だったと思う。ただでさえ、低い声なのに怒る時には声が張るから余計、響く。
大勢の同僚も聞いていた。


こう言うの、なんて言うんだっけ?

あ、そうだ。
おまゆう、
だわ……


そんな事を思い出しながらも、文句ひとつ言わずに涙を浮かべながら「まだ、ここに居たいんだけどね〜」と言いつつ井上に追い詰められて辞めて行った同僚達をも思い出していた。


「井上さん。言いたい事は、相手に直接言いな。周りに言っても周りはどうする事も出来ないんだよ。
そしてキツい事を言うようだけど、井上さんも、辞めてった○○さんや○○さんに、同じ思いをさせていたの。」


人を変えようなんて、そんな大それた事を思っている訳では無い。

人から言われて変わるものではないから。

でも伝えなければと思った。

自分の魂を大切にするのと同じくらい、周りの魂も大切にする事。

ものすごく大切な事だと私は思うから話した。


……


翌日、出勤すると矢田が
「八雲さん、業務日誌の書き方、もう一度教えてもらっていいですか?分からない所が何個かあって…」
と尋ねて来た。


おお!矢田〜!!よく言った〜!!
歳下に叱責されて、少なからずプライドも傷付いただろう。
でも利用者様の健康、安全を大切に思って省みてくれたのならとても嬉しい。

矢田と夜勤をペアでやった同僚が
「ダルい〜!」「眠い〜!」「早く帰りたい〜!!」四六時中、言ってたのにピタッと言わなくなった、と話していた(笑)

井上も分かってくれると嬉しいなぁ。

1人で行える業務では無い。だからこそ皆んなで和となり、働こうと考えている。

……

そして私も、八雲ケトルの沸騰温度を300度くらいに設定し直すのが、最大の課題だなと感じている。





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