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《短編小説集》なにがしかの話

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物語の半分はほろ苦さでできています
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#友情

高校の先輩が大学で後輩になった日々の話

 大学三年生にもなると、サークルの新歓コンパも慣れたものだ。いつもの居酒屋。お決まりのプラン。そして、お馴染みのイベント──新入生による自己紹介。 「大学生活、サイッコー!!」  トイレから戻ってきた俺を出迎えたのは、とある新入生の雄叫びだった。  タンポポじみた金髪に、スポーツサングラスをかけた男。声も大きけりゃ身体もデカい。遠目に見ても、おそらく2メートル近くあるだろうか。十字架と謎の英文がデカデカとプリントされたTシャツに、くたびれたウォッシュジーンズという出で立

にーちゃんみたいになりたくなかった話

 兄ちゃんが亡くなった。東京のマンション自室で。死因は病死、いわゆる「孤独死」。俺がまだ、中3の頃のことだ。 「……にーちゃんは、東京に行ったりしないよな?」  地元の葬儀でそう尋ねた俺に、彼はゆっくりと頷いた。 「行かないよ」  たぶん、と小さく付け加えたのを、俺の耳は聞き逃さなかったけれど。その自信なさげな面持ちを、見ないようにもしたのだけれど。それでも、俺はにーちゃんのことを信じようとしていたのに。 *** 「俺、ワセダに行きたいと思ってます」  高校最後

失恋歌を聴くようになった12年間の話

 僕が幸せなラブソングを聴かなくなったのは、いつからだっけか。  確か、中3の12月。英語の授業で洋楽を紹介された頃のことだ。そこで教師が取り上げたのは、三つの曲だった。ワムの『Last Christmas』とカーペンターズの『I need to be in love』、それからもう一つ──。  飛び跳ねんばかりに陽気で、ポップな曲調。そのくせ、配られたプリントの和訳歌詞には「傷心」だの「別れ」だのと物哀しい単語が散りばめられている。若い女性と思しき声は、教室の古びたカセ

好きになりそうな人と写真を撮った夜の話

 ES──エントリーシートなんてのは、自室でひとり粛々と書くに限る。大学のラウンジで、それもお喋りな女友達と一緒にやるべきことではないのだろう、たぶん。 「ところでさ、にっしーは今度の日曜って忙しい?」 「いちおう空いてるけど」 「了解、じゃあ『デート』の件はその日にしない?」  予想外の単語が耳に飛び込んできて、俺は危うくESの清書をミスりそうになった。「いやちょい待ち、どういうことなの」手を止めてそう問えば、イチカワは「飲み会での話、忘れたの?」と目を丸くした。瞬間、

帰省の時だけ会う彼女との8年間の話

 ──いつの頃から、帰省が億劫になったのだろう。  大学受験を機に上京して、はや10年近く。俺の記憶が正しければ、就活が始まったあたりで一気に腰が重くなった覚えがある。  決して安くはない、東京・福岡間の往復運賃、そして移動時間。「せっかく帰ってきたっちゃけん」と強制的に催される親戚回り。行く先々で大量に供される、仕出し料理と親戚たちの近況報告。  去年は特に気疲れした。恋人を連れて帰省したからだ。そもそも両親だけに顔見せする予定だったのに、翌日には親戚たちが大挙してウ

8年越しに階下の彼女と話した昼の話

「そりゃー何も知らない人は頑張ってて偉いね〜ってヨシヨシしてくれるんだろうけどさ、私は違うって思うのね」 ***  目覚まし代わりにあたしを起こしたのは、一本の電話だった。 「お世話になっております、こちらニノミヤフミカ様の携帯でよろしかったでしょうか? 先日ご応募いただいたオーディションの件ですが──」  お世話になっております。  はい、私本人です。  ええ、はい、承知しました。  ご連絡ありがとうございました──  まぶたの重みに反して、口はひどく軽やかに動い