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ある日の夕暮れ、とある国の北の果て。 大海原を望む断崖のふちに、一人の男が腰掛けておりました。豊かに蓄えられた白髪、顔に走る幾筋もの皺。薄汚れた粗末な衣服もあいまって、遠目に見れば崖縁に引っ掛かった雑巾といった風情です。 男は、眼下の岩場に散る波飛沫をじっと眺めておりましたが──やがて意を決したように、懐から笛を取り出しました。かつては都でも当代随一と謳われた吹き手として、奏でずにはいられなかったのです。 自身が布切れではなく、人間なのだと知らしめるために。まだ