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《短編小説集》なにがしかの話

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物語の半分はほろ苦さでできています
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#歌

音痴の人魚に歌を教える譚

 ある日の夕暮れ、とある国の北の果て。  大海原を望む断崖のふちに、一人の男が腰掛けておりました。豊かに蓄えられた白髪、顔に走る幾筋もの皺。薄汚れた粗末な衣服もあいまって、遠目に見れば崖縁に引っ掛かった雑巾といった風情です。  男は、眼下の岩場に散る波飛沫をじっと眺めておりましたが──やがて意を決したように、懐から笛を取り出しました。かつては都でも当代随一と謳われた吹き手として、奏でずにはいられなかったのです。  自身が布切れではなく、人間なのだと知らしめるために。まだ