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マツ谷

体が重い。ぼんやりしていて訳がわからない中で、俺はテレビのリモコンの電池を買いに、車でマツ谷とコンビニにきたことを思い出した。電池を買った後、マツ谷は「ちょっと電気シェーバー買ってくるわ」と言って、ドンキホーテの駐車場に車を止めたのだが、どうやら俺はその後寝てしまったみたいだ。

なんだか全身が気持ち悪い。体は起き上がらないし、なんとなくべたっとした感じだ。もたれかかっていると、窓越しに隣の車に乗る直前の女性と目があった。俺は、寝ている間このぼやっとした顔をいろんな人に見られていたのだろうか。急に恥ずかしくなって、崩していた体勢を直し、座り直した。
べたっとした感じといったが、よく見ると本当にマスクがベタベタしている。こんな歳になってよだれを垂らしながら寝ていたのか。あの女性も、大人の男がマスクの中でよだれを垂らしながら寝ているところを見る羽目になってかわいそうだ。

外が真っ暗で時間が分からず、スマホを開いた。あれから2時間も経っている。電気シェーバーを買いにいっただけのはずなのに、マツ谷はまだ帰ってきていない。もしかして、車の鍵を車内に置いて中から俺が鍵を閉めたから、戻ってきたのに俺が寝ているせいで中に入れずにもう一度店内に戻ってしまったのだろうか。しかし、ラインを開いてみても連絡はきていない。本当に電気シェーバーを買いに行っただけで2時間もかかっているのか。もしかしてパチンコでもしてるんじゃないだろうか。それならそれで連絡のひとつくらいしてくれてもいいだろうに。車内を探してみたが、マツ谷のスマホは見当たらなかった。

店内に探しに行こうとも思ったが、あの広い店内を探し回って入れ違えば、鍵は俺が持っているからそれこそ車に戻れなくて困る。そして何よりいまだに体がだるい。固定されたように動けない。時間は8時を回っていた。毎日7時に回復する漫画アプリのライフが回復しているのを思い出したので、漫画を読みながら待つことにした。

そういえば、家で待っているたっちーと多野はどうしたんだろうか。スマブラをやる直前にリモコンが動かないことに気づいたから、これだけ遅くなれば連絡くらいきていてもよさそうなのに、特に連絡はきていない。もしかして俺が寝ていることに怒ってみんなですき家にでも行ったんだろうか。それとも俺が大きな勘違いをしていてなにかがおかしいんだろうか。スマホの充電が3%しか残っていないことに気づいて、電源を切った。

それから20分後、マツ谷が帰ってきた。
「何してたんだよ。いくらなんでも遅すぎるだろ。」
マツ谷は小さな黄色の袋を持って運転席に座った。3時間も待たせてその量か。
「あれ、起きてたんだ。」
「いやいや、めちゃくちゃ寝たよ。帰ってくるの遅いから。」
マツ谷は袋からあまりみない小袋を出すと、アイス食う?と言って俺に渡した。チョコミントと抹茶の中間のような色のアイスが入っていて、何味かもよく分からなかったが、マツ谷は美味しそうな顔をしているので、とりあえず食べた。
「そういえばさ、あいつらから連絡きてないんだよね。寝てんのかな。」
よくよく考えれば、俺は漫画を読まずにはじめからマツ谷に電話をかけていればよかったはずだ。
「あぁ、そうなんじゃない。」
アイスを口に咥えながらマツ谷は車を発進させた。そして俺は、そのままもう一度眠りについた。

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