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8Peaks familyの現在地とこれから|専門家対談

昨年5月、外部から 8Peaks family に関わっている「専門家」たちによる対談を開催。
それから約 1 年経ち、改めて8Peaks resort と 8Peaks market の現在、オンタイムで考えていること、さらにその先のビジョンなどを外部の専門家も交えて語った。

<メンバー紹介>(敬称略)
矢島 義拡:「池の平ホテル&リゾーツ」代表取締役社長
中村 洋平:「合同会社ヤツガタケシゴトニン」代表
矢崎 高広:「株式会社 8Peaks family」取締役・オーナー
森 成人:株式会社リクルート じゃらんリサーチセンター研究員、気仙沼市復興アドバイザー、(一社)気仙沼地域戦略理事・CFO、観光庁専門家登録
3 年前から八ヶ岳エリアに移住。観光全般に関するアドバイザリー担当
飯塚 洋史:「quod,LLC」 共同代表 地域経営ディレクター/文化資本研究家
レイクリゾートに関する地域計画策定やエリア PR に関するアドバイザリー担当
※ファシリテーター:飯塚


8Peaks resort と 8Peaks market の今とこれから

飯塚:去年の対談の中で、「このエリアって凄くユニークなモデルになり得るポテンシャルがある。」という話があったと思うんですけど、改めて森さん的に 8Peaks のどこら辺が面白いと感じますか?

森:前回の対談の話で言うと、「人は面白くて、これまでにない地域の何か取り組みで面白いことが生まれそうだ!」という所までいって「じゃあそれは具体的に何なんだ?」というコアの部分は、あの対談の中でも答えが出なくて、皆さんの中でもまだまだ悶々としていたと思います。
私は仕事で様々な地域の DMO や DMC を見ていますが、その多くが法人としてうまくいっていないケースをたくさん目にしてきました。また、人の魅力という点でも、民間で「この人たちに火が付けば」と思うような人物がアサインされていない DMO 法人を多く見てきました。

補足:
DMO(Destination Management / Marketing Organization)
官民の幅広い連携によって観光地域づくりを推進する法人を指す。観光地域としての魅力を高めるためにさまざまな組織が一体となり、マーケティング・マネジメントやブランディング、商品造成、プロモーションなどを行い、観光客を誘致することで、地域経済の活性化を図ることがDMOの主な目的。
DMC(Destination Management Company)
特定の地域や都市での旅行やイベントの計画、実行を専門に行う会社。観光地の詳細な知識を持ち、旅行の手配、宿泊、交通手段、アクティビティの計画、イベントのオーガナイズなど、訪問者のニーズに合わせたサービスを提供する。DMCは、個人旅行者から企業イベントまで、様々なクライアントに対応し、その地域での滞在をよりスムーズで満足度の高いものにすることを目指す。

その中で、私の目から見て経営がしっかりできている DMO 法人について、事前にお話させていただきました。先ほどの質問に答えると、この地域の特徴として、民間の中心人物たちが一致団結して法人を作るという点が、他の地域とは異なる面白い点かなと思います。
観光協会や行政の観光課だけが進めているのではなく、地域全体が一体となっている。このポテンシャルは非常に大きいですが、8Peaks という会社が会社として機能するために、どの事業を持つかという具体的なところについては、そろそろ結論を出して何かを始めなければいけないのかなと思います。

「株式会社リクルート じゃらんリサーチセンター」気仙沼市復興アドバイザーの森氏

飯塚:事業というと、そこに人がいて、 具体的にサービスとかがあってというのが世の中の一般的な事業だと思うんですけど、なんかそこが 8Peaks ってちょっと違うというか。中に常駐の人がいるわけではないけど、それぞれの企業の社長だったり役員だったりする人たちが、そこの母体の企業とうまく連携して事業を作ろうとしているというのが結構ユニークなのかなと個人的には思います。現在、8Peaks resort や 8Peaks market はどんな形でやろうとしているのでしょうか?

矢島:質問の答えになっていないかもしれないですけど、たぶん僕らの課題感として、今お話しがあったように、8Peaks familly 自体の中に事業があって、そこに人がいるという形ではないモデルというのをずっと模索しています。
収益性という話でいくと、あくまでギルド※のハブであり、コミュニティのハブとしての存在価値のみを 8Peaks familly において、各プロジェクトベースで主体となる当事者が受益者負担で作っていくというモデルではあります。ただ、事業のど真ん中で収益性を担保しよう、という最初の問いかけに向き合うと、森さんがいつも最終的におっしゃる「地域の中での存在価値」というところに戻ってきます。
そこがちゃんと見出せないと、あまり意味がないのでは?というテーマの中でやらせてもらっていると個人的には思っています。

※ギルドとは
中世以降ヨーロッパの諸都市において商工業者の間で結成された同業者組合のこと。ここでは、地域内において、企業を超えて同じ目的で連携しあう組合的な意味で使用している。

「池の平ホテル&リゾーツ」代表取締役社長の矢島
「8Peaks resort」ロゴ

飯塚:ちなみに言える範囲で、8Peaks resort の場合は、地域の人にとってこれがなかったら困るよね、という価値って今どこら辺にあるのでしょうか?

矢島:8Peaks resort は、地域の観光コンテンツを束ねて地域内外に売っていく観光商社です。もうすでに、この地域には色んな観光資産はあって、それを旅行商品化されているところもたくさんあります。
ただ、それをお客様が自由にカスタマイズできるランドオペレーター機能※が個人のお客様・ツアーのお客様に対してあまりきちんと存在できていないのが現状で、特にインバウンドのお客様に対してはよりそれが顕著となっています。

※ランドオペレーター機能とは
旅行会社から依頼を受けて、旅行先のホテルやレストラン、ガイドやバス・鉄道などの手配・予約を専門に行う会社(ランドオペレーター)の機能。旅行業とは異なり、旅行者のためにではなく、旅行会社のために手配をするのが特徴。

また、旅行商品はあるけど、それを高付加価値化できていないという課題感もあります。それらに対して、8Peaks familly の関係性と編集力の中で、きちんと付加価値を作っていきつつ、商品の仕入れから販売までを一気通貫する流れをまずは作る、ということをテーマにして、8Peaks resort としてはやっています。
商品の仕入れから販売までを集約したところを機能として持ちましょうという時に、まず仕入れ力・インキュベーションとしての 8Peaks family もすごく価値だと思います。
それに加えて、商品カテゴリー毎にちゃんと商品が揃うように、カテゴリー別に既存商品のプラットフォームからの仕入れができる状態があります。
同時に、過去数年、商品自体の開発も積み重ねてきました。それをきちんと B to B に対しての成立数、B to C に対しての成果のマーケティングをしていくというところになります。
その中で B to B の販売先というのが、直接関わる旅行会社さんも大事なんですけど、最終的にはエンドユーザーに販売する各小売事業者による体感というのが大事だと思っています。商品がきちんと売れる体制を作りながら、最終的には商品ラインナップを、B to C でインバウンドのお客様に販売していくというところに昇華させていきたいと考えています。

飯塚:僕も富山県西部地区の DMO とか DMC に関わっているんですけど、エリアとしての1個のマーケティングとかブランディングの方向性があって、その中で各事業者が展開できる形になるとすごくいいのかなという気がしています。
そのあたりは、「茅野 DMO」の方がすごく考えやすく、逆に8Peaks は個別事業の集合体なので、そこがちょっと弱くなる可能性があると。
これについて森さんどう見られていますか?

「quod,LLC」 共同代表の飯塚

森:エリアブランディングというワードはすごく抽象的な部分が多いと感じます。僕としては、上から下まで一気通貫できている事業を持つところが、結果的にエリアブランディングを語れると思うんです。
例えば、八ヶ岳ってどんなブランディングでどんなエリアですかと抽象的に聞いても、多分答えは返ってこなくて。今売れているのはこういう場所を回って、こういうのをこの国の人がこういう形でやるから、ということに全部関われて初めて事業になると思います。
でも今の DMO 法人はほとんどがコンテンツ磨きだけやっていて 「このコンテンツを誰に売るんですか?」 と聞くと、「あとは事業者が考えることなので...」という返答が多くて、毎年磨いているだけで誰も売らないという。 「(DMO 自身が)販路も持っていて、エージェントも持っています。だから彼らに売るためにもっと八ヶ岳のブランドのこういうところ出して欲しいです!」と言って、磨くところも注文をつけて事業者のお尻叩いていかないと事業にならない。
厳しい言い方をすると、コンテンツ磨きなど“やってます感”を持っているのは DMO 法人だけで、その事業が無くなっても、結局まちから見たら何も困らないよね。ということになっちゃったら、もったいないじゃないですか。
だからやっぱり”コンテンツ磨きしかやられていない”という今の領域から、どう事業の価値にしていくか。それが結果的にさっきの質問のブランドになっていくと思うので。
そこを作っていくことを何かしらやらないといけないんじゃないかというのが、8Peaks resort の課題なのかなと。

飯塚:売れる出口をみんなで持つことがとても大事、というのがコアの部分ですかね。それを全部 8Peaks でやるんじゃなくて、場合によっては既存事業者がやる部分もあるというのを色んな意味で繋げながら、地域としての売る面をとにかく広く持っていこう、みたいなことを今目指されているっていうところですね。
8Peaks market はさっきの話でいうとどんな感じですか?

中村:僕が 8Peaks market でやりたいのは、地元への供給と消費を 1 番にして、余ったモノを外の市場へ出す仕組みづくりです。現状は今、このエリアの生産物って、主に首都圏ゾーンに出されていて、簡単に言えば地元で食べられない、売れないみたいな感じのものが多いんです。それを、余力分だけを外に出していくような流れを作りたいっていうのが、market の目指すべき姿かなと思っています。
これを実現するために何が必要かなと考えたときに、まずは農家の生産物や収穫時期、生産量を「見える化する仕組み」を入れるということを考えています。流通ルートをしっかり確定、共通化させて、地元の飲食店やホテルに地元産品を、地元で流通できる仕組みを作りたいです。
その上で、B to B と B to C に販売をして、加工も地元でやりながら高付加価値を付けます。さらに、今この地域で課題となっている空き農地の需要が把握できるのであれば、農地も運営する農業法人まで組み込む。この形を目指してやりたいというのが今の 8Peaks market の考えていることになります。

「合同会社ヤツガタケシゴトニン」代表の中村
「8Peaks market」ロゴ

森さん:以前、「中村さんって本当は何がやりたいんですか?」と禅問答のように聞いていた時に、中村さんが「僕が本当にやりたいのは、地元への供給と消費を 1 番にして、余ったモノを外の市場へ出す仕組みづくりなんです!」って。こんなすごい事を考えていたんだと驚きました。他の地域でもこの仕組みづくりに似たロールモデルが見つからなくて、本当にすごいなと。農産物の収穫の見える化と、それを内の企業とマッチングしていくっていうところをオープンじゃなくてクローズでやる。オープンでやるとやっぱり農協さんとかもあるので。結構ダイナミックな事業になると思うんですけど 8Peaks market では、この仕組みづくりをやっていこうっていう感じですよね。

プラットフォームを作っている。という感覚

飯塚:8Peaks resort も 8Peaks market も DMO や DMC で語ってはいけないかもしれないんですが、そもそも一般の DMO や DMC と考え方もすごい違うなと思った時に、目線が外を向いているか、内を向いているかのバランス感だったり、事業をやっている人の立ち位置の違いとか、そういったところにユニークさがあるような気がするんですけど、俯瞰してみた時にどうでしょうか?

森:ファブレス※かファブレスじゃないかみたいなところは、最初ちょっと思っていたんですが、法人を回してく上では、多分そこ自体を魅力化していくのが難しいのかもしれないなと。今のこの事業はこの先どうなるのか分からないので、今はそこについては何も思ってないんですが、これだけの若い次の経営者の方々がここで繋がって、出資し合って会社を作ること自体が、他の地域になかなかないんじゃないかなと思います。

※ファブレスとは
「工場(fabrication facilityを略してfab)を持たない(less)」という意味。メーカーが工場を持たずに、設計や開発に特化するビジネスモデルで、このような経営を「ファブレス経営」という。

飯塚:域外産業と域内産業というか、外で売り上げを作っていく部分と内で作っていく部分で言うと、内で売り上げを作っている部分が結構大きいのかなと感じるんですが、新しい事業者との連携の仕方を作っている、みたいな感覚もあるんですか?

矢島:プラットフォームを作りたいというような感覚はあります。外貨の獲得は、8Peaks resort であればインバウンド。8Peaks market であれば高付加価値化した商品を外に販売したいというのが出口としてはあります。
例えば、この 8Peaks resort の話も、この枠組みだったらどこにでもあるものだと思うんですが、域内の事業者に向けたクローズのシステムがあれば、もう少し価値があるのかなと。
8Peaks market の方も、通常であれば廃棄されてしまうような B 級品があって、それを必要としている事業者を繋ぐ。いわゆる無駄にせずに逆に「商品価値を上げる」というプラットフォーム。
それぞれの事業プラットフォームを作ることによって、そこ自体で事業収入が作れる market はすごいなと思うんですけど、そこのインフラを受益者がそれぞれ時間やお金を出資して、とりあえず作ろうとしているというところに特徴があるのかなと思います。

森さん:今後 8Peaks の面白い人たちがどんなプラットフォーマーになってくれるのかというところに夢があるというか、私も関わりながら一緒に探しています。

最優先事項は「とにかく市場を大きくすること」

飯塚:法人を作るときは、主にお金を出資してプラットフォームを作るという感じだと思うんですけど、このチームは出資するものにも色々なパターンがあるという気がします。
自分の会社の事業のリソースを出すこともあれば、ご自身の時間やネットワークを出すこともあったり。このプラットフォームの作り方は他の DMO とか DMC に比べてすごく面白いような気がしています。そういった観点で森さん的に思うことはありますか?

矢島:これはぜひ森さんから中村さんに聞いてもらいたいです。訳の分からない出し方をするから(笑) 「まあ中村さんだからって」受け入れているところもあるんですけど、この半年・1 年の中で森さんからも「本当にそれでいいの?ヤツガタケシゴトニンとして本当にそれでいいの?」って何度も言われますからね(笑)

森:普通は法人を作る時って、事業があってそこに一丁噛みする価値がある人が集まるという図だと思うんですよ。そうじゃないケースの典型例が DMO 法人で、先に団体を作って、何をやるかは後で考える。これを株式会社の出資型でというのは、私もあまり見たことないですね。皆さんが逆にどうしてこれがこうなったのかは私も知りたいです。どこで仕事側と棲み分けるのか、みたいな話もいっぱい出てくると思うので。

中村:棲み分けや収益の取り合いは、賑わっていて事業者が多い時のみ発生するものだと思っています。大事なのはまず「市場があること」で、市場があるからこそ初めて競争が生まれる。市場がないと、そもそも競争しても意味もなければ、やれるものが何もないというのがあって。
私はウェブの世界にいたので、オープンソースという考え方が常にあって、市場を広げることが先という考えがあります。市場をとにかく大きくすること、諏訪・八ヶ岳に市場があるのが何よりも大事。そこが僕の中で一番の優先事項で、自分が利益を得るのは結構後でもいいかなと。
8Peaks というプラットフォームを作り育てる。育ててマーケットを作るっていう、皆さんの共通課題にあるイメージが私の中にはついています。

飯塚:客観的に見て、例えば実際にやっているのは中村さんですが、ヤツガタケシゴトニンで制作した雑誌などに、発行者として 8Peaks の名前を出すのはすごく合理的だと思っています。自分の会社で出すよりも、公共性や地域を背負っている感じがして、価値がある気がします。1 社で作れない価値をみんなで作って、それを分配し直すってことを中村さんは言いたいのかなと思っていて、そもそもパイを取り合うんじゃなくて「パイを増やしてから分けようぜ」っていうマインドをみんなが持っているからこそ成り立っている気がします。

森:その考え方からすると、出資者の一覧を並べて各々ができることを全部書き出してみて、それを今個社でやっていることにレバレッジをかけて、八ヶ岳でできる事業って何かを考えることも、ひょっとしたら面白いかもしれないですね。

飯塚:それはすごくありますね。ちょうど次に聞こうと思っていたのは、ここでどの事業をやるかどうやって決めているのか?という質問です。

矢島:とりあえず手を挙げた人がやりたいことをやっていく感じです。メンバーがやりたいことを昇華させる、事業化させるためにプラットフォームとして何ができるかを考えています。ちなみに今一番やりたいのは、自由農園を中心としたガストロノミーツーリズムです。

8Peaks ファミリーが考える「プラットフォーム」が意味するもの

飯塚:プラットフォームって言葉には色々な意味があると思うんですが、例えば、売るための出口をちゃんと持つとか、地域の仕入れと顧客をマッチングする場所を作るとか。プラットフォーム自体に色が付くことで、そのエリアの色やお客さんにとっての価値を上げるとか。
みなさんが言っているプラットフォームはどういう意味で使っている言葉なのですか?

矢島:僕は域内です。

飯塚:それは「売り先も含めて域内」ということですか?

矢島:例えば、今の resort の話で言えば、地域内の旅行商品を八ヶ岳ガイドさんがカスタマイズして販売するところまでは、プラットフォームとして域内です。ガイドさんが販売する先は、域内にお越しになるゲストの方という意味では「域外」ですが、基本的には「域外に販売するために必要な域内プラットフォーム」というイメージですね。

中村:僕がイメージしているプラットフォームは、スティーブ・ジョブスの「コネクティン グ・ザ・ドッツ」みたいな感じです。域内・域外というよりは、人の繋がりやエリアの横断、業種の横断など全てのマトリックスを掛け合わせて、個が群になって相乗効果が生まれるプラットフォームを作りたいです。

飯塚:プラットフォームを本業とするリクルートの森さんはいかがですか?

森:プラットフォーマーとは何かと言うと、我々的にはマッチングなんですよね。まだ見ぬマッチングを起こすことがプラットフォーマーで、8Peaks も今それがだんだん形になってきていると感じています。なので、プラットフォームという言葉には僕もしっくりきます。みなさんのど真ん中にあるんだろうなって。

飯塚:事業としては、「プラットフォーム自体を事業にすること」と、「そこに乗るものの事業」があると思うんですが、いかがでしょうか?

森:ここについて矢崎さんは、何でもいいよと仰ってますよね。誰かが手を挙げて、まだ見ぬ “8Peaks〇〇” ができたら、それはそれでいいんですよね?

矢崎:そうですね。ちなみに今は、医療・介護・子育て・DX・太陽光・土建を新規投入しています。

飯塚:それは、どういう方向に進むといいんですか?異業種がマッチングするといいのかみたいな。

矢崎:先ほど中村さんが話したことと同じで、とにかくケーキを大きくしたいだけなんです。切るケーキが大きくなれば、同じ比率で切っても一人分が大きくなる。土建がどうやって盛り上がれば、観光のパイが大きくなるか分かりませんが、色んなマッチングやコラボレーションでみんなが食べるケーキをとにかく大きくする。それがその地域の域内経済を大きくすることに繋がると思っています。

「株式会社8Peaks family」 取締役・オーナーの矢崎

飯塚:昔は行政とかがやっていたことを、民間の集合体のコモンズでやろうという流れではあると思っています。そういう事例がたくさんあるのが 8Peaks のすごいところですね。形式的にそれをやろうとしてもうまくいかない中で、ちゃんと形になっているのはすごく面白いですね。

矢島:中村さんの農業法人の話も、農家さんも飲食事業者も域内にいて、それぞれがサプライヤー・ユーザーとしてニーズがダイレクトに分かるから、必要としている事業が明確になっています。
それだけの幅をインテグレーションして土建屋さんから観光事業者まで束ねてもらっているので、何かネタがあった時に両方の当事者が必ず揃うことが大事だと思っていて。だからそれぞれの事業者が必要としているからプラットフォームになり得る。
必要性の有無に関係なく、先に観光産業の対象を拡げる事を企図とした DMO や DMC と、そもそもの発想が違うんだろうなと思います。

飯塚:観光の中でというよりも、まちづくりや地域づくりに近い気がしています。昔で言うと家守でしょうか。DMO や DMC で語るのとはちょっと違う気がします。

矢崎:城下町が近いと思います。城が建つことで、その周りにいろんな商売人が集まってきて、そこに市(市場)が成り立って城全体が収益化される。本来何もないところを開拓して育てていく感じです。

矢島:下請け・孫請けみたいな感じではない、それぞれが専門家として事業化されているギルドみたいなものですね。これを目的にしているわけではなくて、まちづくりが先にあるという意味でギルドに近いのかなと思います。

森:ちょっと違うかもしれないですけど、「ブルガーゲマインデ※」に近いのかなと思います。要は自分のまちの価値をどうやって最大化するか、を考えたときに、地元の一部の富豪たちが出資し合って “俺たちのまちを俺たちでなんとかしようぜ” という感じです。1 番良い所に 5 つ星ホテルが建ったり、5 つ星レストランがあったり。8Peaks もそういう形を八ヶ岳の中で作ろうとしているんじゃないですかね。

※「ブルガーゲマインデ」とは
スイスのツェルマットにある住民による地域経営組織で、自治権を持ち、地域全体の経営を担っている。村役場と連携して地域経営を支え、観光戦略にも積極的に参画している。

最後を取るための 「自分ごと化」 と 「オープンソース化」

飯塚:先ほどの話の観点でいうと、「自分ごと化力」がとても高いというのも特徴かなと思っています。自分の事業にも絡んで、この場所は自分たちのものだという意思が強いから「自分ごと」としてどんどんやられていますよね。

全員:そう感じますね。

矢崎:目指しているのは、自分たちがそれぞれやりたいことの理想を形にすることですかね。親父たちが作ってきた昭和の JC※ が良かったって言われて、もの凄いエネルギーで一気にまちを作ったり、移住者が続々とペンションに来て、何もなかった原村が一気にのし上がっていって、高級外車が並んでいた世界みたいな。

JCとは
青年会議所(JC)は、Junior Chamber の略称で、20歳から40歳までの若者が参加する国際的な非営利団体。日本では「日本青年会議所」(JCI Japan)がその代表的な組織。青年会議所のメンバーは、リーダーシップや社会貢献活動を通じて地域社会や世界の発展に貢献することを目的としている。

力を合わせたのか、結果として力が合わさったのか分からないですけど、でも何かが起き上がっていって大きな力を作った。これと構造は一緒で、僕にとっては JC だし、ブルガーゲマインデかもしれないし、ペンションビレッジの成り立ちかもしれない。それぞれの方向は違うけど、見ている絵は一緒というか。
共通性があって、自分の夢を叶えるためにここにいる感じがするので、自分ごと化というのは土台として繋がりのベースにはあるかもしれないですね。

矢島:自分ごと化ともう 1 つは、さっき中村さんがおっしゃったオープンソースや公益性みたいなこともありますね。自社みたいにやるという意味での「当事者意識」と「我田引水」っていうバランスがとても大事だと思います。
当事者が本当に必要と感じるプラットフォームが、行政等が考える公共性とも結果的に相反しない形が理想なのではないかなと。
今中村さんの話を聞いていて、オープンソースってなるほどなと。中村さんの思考は全部そこから来てるんですか?

中村さん:WEB 業界に長年関わってきて、プロテクトすればするほど衰退していく事例も沢山見てきたので、やっぱり市場あってこそかなと。

森:マネタイズよりスケールの方がネットの世界って大事だったりしますよね。

中村:商売を成功させるためには、ここがオープンソース化すべきだと。ただ、ボランティアではないということですね。最後を取るためのオープンソース化です。今取り組んでいる 8Peaks の仕組みが完全に成立したら、 その仕組みが本当に日本中に広がればいいと思います。そうなると事業規模も全然変わると思います。桁外れの売り上げや費用が入ってくるので、そういうのを見るのが個人的には楽しいです。そうなるともっと日本全体が盛り上がって、 さらにこっちに来る人も増える、みたいな。そして勝つのは全員みたいな。

森:そういう議論をしても面白いかもしれませんね。プラットフォーマーの未来はどんな未来なのか。その未来は 10 年後でもいいし。8Peaks resort で言うと、八ヶ岳全体のランドオペレーター機能ができあがった状況でそこを粛々とやるのか、さらにその先があるのかとか。
8Peaks market でいうと、八ヶ岳中の収穫を全部管理してマッチングができるようになっているところまでなのか、その後どうするのかという。

一同:その議題は面白いですね。

中村:未来というかゴールは、8Peaks でこの仕組みができた!矢崎さんが作りました!ってみんなで全国に講演しに行って、講演することでオープンソース化していくっていうことですかね(笑)

一同:それは、ぜひやっていきたい!(笑)


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