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湖のあるライフスタイルを、ゆるい共通概念でつないでいく。レイクリゾート構想トークセッション|飯塚×矢島×福井×柴田

2022年7月、長野県茅野市・立科町が合同で発表した「レイクリゾート構想」。その発端となった「白樺湖レイクリゾートプロジェクト」の立ち上げメンバーから4名が集まり、これまでの道のりや、今後白樺湖周辺をどんなレイクリゾートにしていきたいかについて語り合った。

<メンバー紹介>
矢島 義拡:「池の平ホテル&リゾーツ」代表
福井 五大:「八ヶ岳アドベンチャーツアーズ」代表
飯塚 洋史:「quod,LLC」共同代表 / 長野エリアディレクター
柴田 菜々:「quod,LLC」白樺湖チームコミュニケーションディレクター


豊かな時間の過ごし方を提供したい

−まず、長野県茅野市・立科町による「レイクリゾート構想」とはどんなものなのでしょうか?

飯塚:茅野市と立科町が合同で取り組む地域計画で、白樺湖・蓼科湖・女神湖を中心に、レイクリゾートの概念を盛り込んだまちづくりを行うというものです。この構想がオフィシャルに発表されたことで、地域の全国的な認知度や注目度が上がるのはもちろん、日本におけるレイクリゾートの象徴的なエリアとしての発展が期待されています。

矢島:構想が発表されるまでには色々と道のりがあって、その発端となったのが僕ら有志で始めた「白樺湖レイクリゾートプロジェクト」です。本格的に立ち上げたのは2020年なんですけど、そもそものきっかけは飯塚と一緒に視察に行ったスイスの山岳リゾート・ツェルマットでした。2013年だったかな?

飯塚:そうですね。僕が「quod,LLC(以下 quod)」を立ち上げる前で、矢島さんが「池の平ホテル&リゾーツ(以下 池の平ホテル)」の代表になられて少し経った頃でした。

矢島:僕は昔ツェルマットに行ったことがあって、子どもながらに衝撃を受けたんですよ。改めて訪れてみると、日本の“観光”とは違う豊かな時間の流れや、住民が心から生活を楽しんでいる姿に心を打たれて、当時の感動がよみがえりました。そこで白樺湖周辺をリコンセプトして、地域の特性を活かした新たなリゾートをつくりたいと考えたのが始まりです。

プロジェクト立ち上げのきっかけとなったスイスのツェルマット

飯塚:一応簡単に自己紹介させていただくと、僕と柴田が所属する「quod」では、さまざまな地域でエリアブランディングに通じるプロジェクトづくりやPRを手がけています。長野もメイン拠点の一つで、地域計画づくりや資金調達、仕組みづくりを主に僕が、地域のwebサイトやポスター、イベントの企画・ブランディングなどコミュニケーション関連を主に柴田が担当しています。ちなみに僕は祖父母が長野出身ということもあり、高校生の頃から白樺湖に通っていたんですけど、たまたま矢島さんと大学の部活で知り合うという不思議なご縁もありまして。そんな流れで、各々の事業に活かすために矢島さんとヨーロッパ視察ツアーに行き、数年後に「quod」を立ち上げて、2019年あたりから有志チームで少しずつ動きはじめました。

「quod」共同代表の飯塚

白樺湖の魅力を象徴するコンセプト

−リゾート地にはさまざまなジャンルがありますが、なかでもレイクリゾートをコンセプトにした理由は?

飯塚:世界のリゾートを片っ端からリサーチして、白樺湖周辺の魅力を最大限活かせる方向性を詰めていきました。自然系リゾートのジャンルは水だけでも川・海・湖とあって、さらに湖にも平地から険しい山、森の中にあるものまでさまざまです。それらと比較すると、白樺湖は静的で、包まれた空間にあり、森林と調和した湖に分類されます。さらに日本の中での位置付けを見てみると、湖があるのは33都道府県のみ。かつ白樺湖のように標高の高い場所にあって透明度も高いものとなると、全国でもかなり少数。実は白樺湖って貴重な存在なんです。そんな風に絞り込んでいくと、“高原レイクリゾート”というキーワードに行き着きました。

矢島:レイクリゾートって海外ではある程度言葉として成立していたんですけど、当時、日本だと全然メジャーではなかったんですよ。“レイクリゾート”で検索して引っかかるのは、裏磐梯・田沢湖くらい。

「池の平ホテル&リゾーツ」代表でプロジェクト発起人の矢島

飯塚:それらも海外のイメージとは少し乖離がありました。僕たちが思うレイクリゾートは、穏やかで寛容で、消費ではない時間の過ごし方ができる場所。余白のある心地よさみたいなイメージが、今の日本の時代感にすごくマッチしているし、開拓する意義があると考えました。

矢島:このプロジェクトが動き始めた2019年はすごくいいタイミングで、女神湖にテラスが設置されたり、「TINY GARDEN 蓼科」ができたりと、ちょうど地域全体で色々な変化が出てきた頃だったんですよ。「これからどうしていけばいいんだろう?」みたいなところから、「あ、それいいね」っていう方向に少しずつ変わりはじめた時期。地域の人が湖の使い方に気づいて、その魅力を言語化していこうという流れに転換したタイミングだったと思います。

飯塚:ちょうどその頃、(福井)五大さんも家業を継ぐために白樺湖にUターンされたので、すぐに声をかけました。

矢島:それまで五大はビーチリゾートど真ん中の茅ヶ崎にいて、こいつ完全に楽しんでやがるなって感じ。たまに帰省したらみんなで焼肉を奢って、「で、いつ戻って来るの?」とか言いながら餌付けしていたんですけど、さすがに焼肉に人生は委ねられない(笑)。だから五大が戻って来た時、もちろん本人にも固い決意があっただろうけど、やりたいことが形にならなかったらすぐ茅ヶ崎に帰ってしまうんじゃないかって心配していたんですよ。そういう意味でも、このプロジェクトに参加してもらえてよかったと思います。

スキークロス世界選手権やSUP全日本選手権への出場経験を持つ元アスリートの福井

飯塚:戻って早々巻き込んじゃいましたけど、ぶっちゃけ、どう思いました?

福井:(笑)。家業を継ぐのに精一杯の時期でしたけど、おかげでいいスタートを切らせてもらえました。ありがたかったのは、僕にとっての「湖の魅力って何だろう?」を言語化できたこと。これまでスキーの遠征で世界中を回ってきて、素晴らしい湖もたくさん見てきたんですけど、どんなところが素敵だと思ったのか、自分の中で明確にできていなかったんです。改めて考えてみると、特にいいと思ったのがニュージーランドのワナカ湖で、スキー場の近くにあるんですけど、季節を問わず、色々なアクティビティをみんなが自由に楽しんでいるんです。その光景がすごく印象に残っていて、自然豊かな高原にある白樺湖とリンクしました。それに白樺湖なら都市からもアクセスしやすいし、もっと気軽なレイクリゾートとして提案できるんじゃないかなと思いました。

白樺湖と近しい魅力を感じたというニュージランドのワナカ湖

訪れた人を実際に楽しませるのが8Peaks familyの役目

−そこからどう「レイクリゾート構想」へとつながったのでしょうか?

飯塚:大きく動くきっかけとなったのが「湖畔の時間」です。柴田主導で開催したイベントで、ライブをはじめ、カヌーやテントサウナ、シーシャなど、僕たちが湖でやりたいと思ったことをギュッと詰め込みました。2020・2021年と連続で開催して、それぞれ1500名近い来場がありました。

柴田:「湖畔の時間」は、地域外の人に白樺湖へ足を運んでもらうことが一番の目的だったんですけど、一方で湖活用の実証実験としての意味合いもありました。というのも、入水禁止などこの地域にはさまざまなルールがあって。湖の価値を活かしたレイクリゾートとしてつくりたいシーンを実現するには、規制を緩和していきたかったんです。

矢島:白樺湖はもともと農業用のため池として築かれたもので、行政ではなく地主さんなどの地域の人が管理しています。その分思い入れが強いんだけど、一方で意思決定がしやすく、新たな取り組みができる可能性も大きい。

柴田:いくら紙に「こうしたらいいと思います!」って書いて見せられたところで、イメージだけで許可するのは難しいですよね。そこでイベント開催日だけ特例でルールを緩和してもらい、お客さんの数やリアルな反応、SNSでの生の声などを実際に見ていただいて、プロジェクトへの理解が深まるように努めました。

「quod」白樺湖チームCommunication&Branding Directorの柴田

飯塚:このイベントですごく象徴的だと思ったのが、ライブの最中でもステージを向かずに湖を眺めている方が結構多かったんですよ。バックミュージックとして楽しみながら、そこに流れる時間をただ味わっているというか。こういうことが湖の良さなんだと、僕たちも改めて気づかされました。そこから行政の動きもより活発になり、結果的に「レイクリゾート構想」発表へとつながりました。

柴田:2020年以降、全国的にも湖にフォーカスをあてた動きが増えはじめたように思います。最近では“レイクリゾート”という単語を使ったプレスリリースの発信数もどんどん増えているので、このまま一般的な言葉として国内でも浸透が広がっていって、湖へ遊びにいくことが当たり前になってほしいです。

−8Peaks familyとしての取り組みは?

福井:白樺湖で御諏訪太鼓の演奏を聴きながら、カヌーやジビエ料理を楽しんだり、e-bikeで横谷峡をサイクリングした後、オーベルジュのランチを味わうなど、この地域の自然と文化、食が体験できるオリジナルツアーの造成に取り組んでいます。行政やDMOの活動も重要ですが、実際に来てくれた人を楽しませるのは僕たち民間業者の役目だと思っています。

飯塚:「8 Peaks BREWING」の地ビール開発も重要なコンテンツですよね。8 Peaksの活動が一つひとつ集まることで、レイクリゾートが構成されていくんだと思います。

“レイクリゾート”が地域の公用語になるように

−今後の展望を教えてください。

柴田:蓼科・白樺高原を中心に、レイクリゾート関連の取り組みを発信するwebサイトを制作中です。「レイクリゾートとはこういうものだ」っていう定義はなるべくせずに、感覚的に雰囲気が伝わるサイトにできたらいいなと思っています。この地域で培われた知見が、他の地域の参考にもなっていくともっと嬉しいです。

矢島:僕がもう一つ大事にしたいと思っているのは、地域の歴史や人々の思いを根っこの部分に置いておくこと。さっき話したように、白樺湖は農業用のため池で、第二次世界大戦前後に開拓者たちが死力を尽くして築かれました。同様に、蓼科湖と女神湖も人造湖です。人の手から生まれたものでありながら、周囲の自然と調和し、えも言われぬ美しい景観を保っているのは、地域の人が今日まで大切に守り抜いてきた証。その価値をしっかり文脈に入れたうえで、レイクリゾートとして発展させていきたいと考えています。

柴田:地元で愛されているのは、外から見た私もすごく感じますね。プロジェクトを立ち上げた頃に「quod」メンバーで北欧視察に行ったんですけど、当時日本語訳のない“ヒュッゲ”という言葉にすごく興味があったので、現地の人に「ヒュッゲってどういう意味なの?」って聞きまくったんですよ(笑)。そしたら「クリスマスにみんなでお揃いのセーターを着ることだよ」とか、「湖畔でコーヒーを飲んでいる時だよ」とか、人によって答えは違うんですけど、温かくて居心地がいい感じという共通の感覚が伝わってきて。それって、五大さんや矢島さんをはじめとした地元の皆さんから聞く白樺湖について話されていることと通じるなと思ったんです。でも私はここで「ヒュッゲ」を表現したいわけではなくて、白樺湖ならではの「なんかいいよね」っていう感覚を共有したい。その感覚は時間とともに変わっていくかもしれないし、人が増えることで新たな何かが生まれるかもしれない。それがレイクリゾートの魅力だと思うので、今作っているサイトにも、ゆるい感じを残したいなと思っています。

矢島:定義とか意味は後追いでいいんですよ。「なんかレイクリゾートっぽいよね」っていうゆる〜い共通概念が大事。柴田さんが「ヒュッゲ」をいいと思っていて、一方で五大が自分の店に「Hygge」という名前をつけて、でもそれはお互い示し合わせたわけではない。「湖ってベース機能が大事だよね」と僕らが話していたら、蓼科湖に「蓼科BASE」という施設ができたり。このプロジェクトがどうだとか、誰が中心人物だとか、そういうのってむしろすごくダサいと思っていて、それぞれが当事者として自由に楽しみながら、何となく同じ切り取り方をするような概念になってほしい。なってほしいって言っちゃうとゆるくないか。そういう感じだといいな〜くらい(笑)。“レイクリゾート”が地域の公用語になることが理想です。
 
福井:ワナカ湖でもう一ついいなと思ったのが、観光客と住民がごっちゃになって楽しんでいるんですよ。魅力的な観光地は日本にもたくさんありますけど、地元の人がちゃんと楽しんでいる場所って実は少ないのかなと。

矢島:湖自体がどうというより、そこにあるカルチャーやライフスタイルもひっくるめて魅力になることが大事だよね。観光って予約が必要なことが多いけど、ぷらっと立ち寄って勝手に使える感があれば、もっと個性が出てくるんじゃないかと思います。今のところ白樺湖もその他の湖も、その感じは出せていない。

柴田:湖畔にシートを広げて飲食とかって自由にできるんですかね?

矢島:自由か不自由かもわからないっていうのが一番の課題(笑)。

飯塚:僕も高校生の頃から来ているのに、学生の頃は湖に足を踏み入れたことがなかったんですよね。「池の平ホテル」で当時は飲んで騒いで寝て帰るだけ(笑)。地元の人が誰もいないのに、外の人が勝手に使っていいのかわからないっていうのはすごくあると思う。
 
福井:最近は茅野市や上田市からも白樺湖に来てくれる方が増えましたけど、それまで地元の湖をリゾートやアクティビティの場所としては捉えていなかったんじゃないかと思います。コロナで外に出られなくなったことが、地元や近隣の観光地を見直すきっかけになったんでしょうね。この前、僕も朝から夕方まで地元を散歩したんですけど、お店をのぞいて湖畔でのんびりして山に行って、それだけなのに、なんかすごく豊かな時間だったんですよ。地元の人なら日常的に体験できるので、もっと楽しんでもらえたら嬉しいです。

矢島:人を呼ぶためにこうしようとか、この立場の人がこれをやろうとか、そういうのも限定しなくていいと思うんですよね。地元のお医者さんが日曜の朝に「蓼科BASE」で過ごすのが日課になっていて、2年後くらいに「あそこに行けば医者のおじさんと話せるぞ」ってなって、地域外からも人が集まるようになって、休日だけの不思議な診療所が生まれるとか。保育士さんが休日に湖畔で遊んでいたら自然と子どもが集まってきて、仕事でもボランティアでもない交流があったりしてもいいと思う。そういう懐の深さが、これからのレイクリゾートのポイントになるんじゃないかな。
 
飯塚:まずは僕たちが湖畔でワインを飲んで、楽しんでいる姿を見てもらいましょうか。
 
矢島:うん、8Peaks familyのみんなでやろう。それで楽しみすぎて帰れなくなったら「池の平ホテル」に泊まっていただいて(笑)

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