韓国インバウンドの強化を目指す。韓国観光事業チームトークセッション|枌×矢島×福井×寺澤×粟野
コロナが明け、日本のインバウンド市場が活性化している。8Peaks familyでも八ヶ岳エリアの受け入れ体制を整えるべく、韓国向けのインバウンド施策が本格始動。プロジェクトの中心メンバーが集まり、現状の課題や可能性、今後の展望について語った。
「オルレ」という新たな可能性
−まず今回の事業の概要を教えてください。
枌:観光庁の補助金を活用し、八ヶ岳周辺の観光事業をインバウンド化して韓国人観光客の集客を図る取り組みです。アドベンチャーツーリズムを中心に、これまで8Peaksで造成してきたコンテンツがすでにたくさんあるので、その中の代表選手をピックアップして訴求していくというイメージですね。
−事業が始まった経緯は?
枌:インバウンドはコロナ前から経済効果の高い輸出産業として注目されていて、コロナ中は落ち込みましたけど、今、誰も予想していなかったくらいすごいスピードで回復しています。日本全体でインバウンド施策に力を入れていく動きがある中、8Peaksとしても本腰を入れていこうという話になりました。
−中でもターゲットを韓国にした理由は?
枌:今一番日本に来ているのが韓国からの観光客で、かつリピーターが多い。日本の主な観光地にはすでに足を運んでいて、新たなデスティネーションを探しているような方々ですね。この地域のポテンシャル的に、そういったリピーター層の方がハマるんじゃないかと考えたのが大きな理由です。
矢島:そもそもこのエリアにお越しの韓国からのお客様が少ないので、特にFIT(個人旅行)の方にどう映るのかが非常に見えづらいんですよ。そこで韓国にいらっしゃる枌さんのビジネスパートナーの方々をご紹介いただいて、メディアトリップとファムトリップを実施しました。
−それぞれどういった役割で携わったのでしょうか?
矢島:今回、中心となって回してくださったのが枌さんで、アクティビティ担当として実務に大きく携わってくれたのが五大(福井)です。僕は全体のつなぎ役をしつつ、粟野さん、寺さん(寺澤)とともに韓国の方々に宿を提供しました。
−枌さんのビジネスパートナーとはどんな方々ですか?
枌:メディアに関しては『ロンリープラネット』韓国版の編集長をされていた李さんという方で、今は会社を立ち上げてサスティナブルツーリズムの情報を発信されているんですけど、八ヶ岳周辺が自分たちのテーマにすごくマッチしているということで興味を持ってくださったので、こっちにお呼びして取材していただきました。
矢島:面白かったのが、枌さんと一緒に僕も数日かけてアテンドさせていただいたんですけど、できあがった記事を見たら、あんなに一緒にいたのに池の平の写真これだけ?みたいな(笑)。これって悪い話ではなくて、韓国の人はこの地域をどういう視点で切り取るのかがよくわかって、すごく勉強になったんですよね。
−今後のツアー造成やプロモーションの面でも参考になりますね。ファムトリップの反応はいかがでしたか?
枌:ソウルと釜山の旅行会社の方々に来ていただいて、e-bikeやカヌーなどのアクティビティを体験していただいたんですけど、みなさん空気のよさと景観に感動していました。ビーナスラインからの景色も最高だし、車山からは富士山、八ヶ岳、北アルプスも見渡せるし、こんな場所ってなかなかない。正直、アクティビティだけならどこでもできるっちゃできるんですよ。それをこれだけ素晴らしい景観の中で、五大さんのような経験豊富なガイド付きで体験できるというのが、この地域ならではの強みだと思います。
福井:僕も今回、韓国の方々の生の声が聞けて本当によかったです。空気とか夏の涼しさとかって、こちら側だと意外と気づかないんですよね。自分たちにとっては当たり前でも、大きな差別化ポイントになるということがよくわかりました。
枌:一つのエリアを色々な角度で楽しめるというのも、韓国の方に刺さるポイントなのかなと思いました。アクティビティもあれば湖畔でのんびりもできるし、本格的な登山もできればほどよくハイキングもできるし、ドライブを組み合わせてもいいし。
矢島:そこにつながる話だと、「オルレ」という新しい視点をいただけたことが今回のクリティカルヒットでしたね。
−オルレとは?
枌:オルレは韓国・済州島の方言で「通りから家に通じる狭い路地」という意味があります。散歩のようにゆっくり楽しむトレッキングの代名詞として、韓国ではなじみのある言葉なんですけど、最近は日本でも「九州オルレ」や「宮城オルレ」など、コースの提案が増えてきました。
矢島:李さんから、八ヶ岳周辺はオルレに適している場所だという意見をいただいて、これは新たな切り口になるぞと。今後の韓国向け施策の核となる方向性が決まったのではないかと思います。
福井:この地域ならではというところでは、八ヶ岳で活動されている登山ガイドの方がたくさんいらっしゃるので、そこと連携するのも面白いですよね。
矢島:うんうん。標高が高いエリアなので、トレッキングやハイキングなどの「山岳オルレ」、文化的体験や人々の生活の息づかいが感じられる「里山オルレ」、その中間の「高原オルレ」というように、さまざまな階層のオルレを提案できるんじゃないかというアイデアもいただいて、これは非常にハマるなと。今までうまくアプローチできていなかったことがすごくもったいないと感じました。ただ同時に懸念としてあるのは、ある程度コース化した方がわかりやすいし販売もしやすいんだけど、型通りすぎるとメディア的には新鮮味のないものに見えてしまう可能性があるということ。基本のモデルコースはありつつも、周辺のグラデーションも含めて地域の魅力が伝わるような方法を考えないといけないなと思います。
情報発信とランオペ機能の整備
枌:あと、とにかくみんな口を揃えて「野菜、野菜」って言っていましたね。“メロンより甘い”という八ヶ岳の生とうもろこしが大人気で、「なんじゃこりゃ!」みたいな反応をしていましたよ(笑)。
−今回の事業の「食」パートに関わっているメンバーにも別の回でお話を伺いましたが(近日公開予定)、食の面でもポテンシャルの高い地域であることがよくわかりました。
矢島:そうですね。逆に言えば、これだけコンテンツが揃っているからこそ、それらを網羅的に可視化して、うまくプロモーションにつなげていかないといけないなと感じました。
枌:僕もそう思います。まずは多言語化して情報発信していくことが重要。体験コンテンツに限らず、飲食店やホテルなどの情報も含めて、この地域にどんな人がいて、どんなことができるかを知ってもらわないといけない。8Peaks familyの公式SNSを海外向けに立ち上げてもいいと思います。自分たちで最初からフォロワーを増やすのは大変なので、インフルエンサーを活用したり、まずノウハウを持っている人に運用していただいて地域側で引き継ぐみたいなやり方がスムーズかも。今回の事業ではインバウンド向けにツール類を翻訳して、韓国側のパートナーとの関係性も構築できたので、次のフェーズとしてはwebサイトなどのプラットフォームを整えて、韓国のパートナーと連携して新たなツアーの造成や販売を行いたいと考えています。
福井:僕のところのインスタでも、今後はインバウンド向けの発信をもっと意識していこうと思っています。韓国語のハッシュタグとか、まずはできるところから。
枌:むこうの方に興味を持っていただけるようになったら、次に予約はどうするのかという話になってくるんですけど、韓国側の窓口は今回来ていただいた旅行会社の方々がやってくださるので、こちら側のランドオペレーション機能を今後整えていけるといいですよね。色んなリクエストに地域目線で対応して、柔軟に旅をコーディネートしてくれるような担当者がいるとすごくいい。
矢島:韓国語対応ができることが必須ですかね?
枌:いやいや、できなくていいと思いますよ。最近は翻訳ソフトが発達しているし、訪日旅行をする人はだいたい日本語ができる場合が多いので。
寺澤:確かに。今回、李さんはオーベルジュテラに宿泊してくださったんですけど、日本語ペラペラでしたね。僕はお迎えするにあたってちょっと韓国語を勉強したんですけど、全く無駄な努力に終わりました(笑)。
枌:(笑)。ただ富裕層向けのツアーになるとガイド付きでコーディネートを頼まれることが多くて、ドライバーガイドのニーズもすごく高いんですね。なので今後は通訳+ガイドのような対応も必要になってくるかなと思います。そこも含めてデータベース化してwebで発信できるといいですよね。幸いと言ったら語弊があるかもしれないけど、8Peaks familyは自治体ではないので、自分たちのお気に入りのお店やニッチなスポットも自由に紹介できる。そこに尖った視点を加えることもできるので、独自性のある面白い発信ができるんじゃないかなと思います。
8Peaks familyの連携が不可欠
−宿チームとしては韓国の方々にどんな印象を持ちましたか?
寺澤:もともとうちも韓国のお客さまは少なくて、中国や台湾の方でも年間10組いらっしゃるかどうかくらいなんですけど、主要な観光地は行き尽くしていて、マイナーなところを目指して来られる場合が多いんですよ。リピーターにハマるという話を枌さんもされていましたけど、まさにそれこそがこの地域の魅力だと思います。食に関しても、星付きの名店だったら東京にたくさんあるけど、この地域では生産者の顔がしっかり見えるんですよね。8Peaks familyメンバーの敦史さんのところの野菜もそうだし、由馬のビールもだし。李さんはワインがお好きだったので、塩尻の「VOTANO WINE」をお出しして、生産背景もお伝えしながら召し上がっていただいたんですけど、すごく喜んでくださいました。めちゃくちゃ気さくな方で、「ソウルに来ることがあったらいつでも案内してあげるね」なんて言ってくださいました。
−ほっこりしますね。粟野さんはいかがでしたか?
粟野:「TINY GARDEN 蓼科」は2019年の秋にスタートして、それからすぐコロナ禍になったので、インバウンド向けの動きって何もしてこなかったんですね。今もインバウンドの割合は全体の1〜2%程度。そんなわけで今回は本当に手探りの状態だったんですけど、いい意味で何も感じませんでした。通常のホテルとは違ってキャンプ場の中のバンガローに泊まりますし、お手洗いやお風呂も共同なんですけど、そういうスペックがマイナスに捉えられることはなくて、この地域の自然を味わうための拠点として楽しんでいただけた印象でした。インバウンド向けに特別何かをしなくても、ありのままで受け入れてもらえるポテンシャルがこの地域には備わっているんだということがわかりましたね。今回の事業で勇気をもらえたので、今8Peaks familyメンバーの中村さんにお願いして、インバウンド向けのwebページの制作も進めているところです。
−課題が見えなかったというのはすごく素敵なことですよね。
粟野:でも、ただ単に自然があるだけではやっぱり弱いんですよね。より深くアクティブにこの地域の自然と関わってもらうためには、8Peaks familyの連携は欠かせないなと思いました。あとはその連携をどう海外の人に見せていくか。そこは僕の今後の課題かなと思います。
寺澤:なんならTINY GARDENとうちと池の平で3泊して、もう松本とか白馬に行かなくてもいいよみたいな提案ができるといいですよね。
矢島:そうですね。転泊プランに飲食と観光商品もつなげてコース化するとか。
粟野:僕が好きなのはこういうところなんですよね。同じ宿業をやっているのに、それぞれが争うことなく信頼し合えているという。
寺澤:1+1が2になる以上の相乗効果を生み出せるのが8Peaks familyの強みですよね。同時にそれがこの地域の勝ち筋でもあるんじゃないかなと思います。
−どの事業にも共通して言えることですが、8Peaks familyはメンバー同士でしっかり本質を共有し合えているところがいつもすごいなと思います。
矢島:飲み会の賜物ですかね(笑)。
寺澤:でも一応、飲み会も意見交換の場としてちゃんと成立していますよ。誰が何をやっているのか、ポリシーを把握できる交流会として機能している。
−ただ飲んでいるわけではないぞと(笑)。
矢島:みんな同じ地域の事業者なので、お互いが顧客としてそれぞれの価値を味わっているというのが大前提としてありますね。寺さんのところの食事の美味しさも知っているし、粟野さんのところの空間のよさも知っているからこそ、信頼関係が生まれるし、同じ方向を向いて進んでいける。今回のメディアトリップでも急遽由馬のビールを紹介しようという流れになった時があって、その場に由馬はいなかったんですけど、「ちょっと案内してくんない?」みたいなテンションで連絡したらすぐに駆けつけてくれました。メディア側の都合を聞きながらコーディネートしていく場面が多かったので、すぐに対応できる体制が整っていたのは心強かったですね。
粟野:僕もこれだけの先輩方に囲まれているので、甘えないようにしなきゃなといつも思っています。うちの会社は台湾など海外にも支社があるので、そこもうまくつなげていきながら、みなさんに恩返しができたらいいですね。
矢島:8Peaks familyとしてのツーカー感も増してきたなと思います。今回は枌さんがランオペ機能まで担ってくださって、細かいすり合わせをしなくても勝手に進めてくださったし、そこを枌さんが連れて来られたコーディネーターの方にまで落とし込むことができたので、今後事業を進めていく上ですごくいい形ができました。来年度は今回以上に寺さんと粟野さんにもガッツリ関わっていただく座組にしたいと思っているので、みんなまた飲み会で色々話しましょう!
一同:よろしくお願いします!